Papen's Piling

主にコンシューマーゲーム会社を調べる所

【考察】新世代カービィ、誕生『星のカービィ ディスカバリー』【スタッフリスト】

今年は星のカービィ30周年です。30周年記念として私がお出しするのは『星のカービィ ディスカバリー』(以下、ディスカバリー)のスタッフリスト考察記事です。今回は、前回の記事の完全版に相当します。

内容こそ多いですが、世間一般のネタバレには該当しないかと思います。

これだけ見ても分かるように

  • 『ディスカバリー』以外のカービィ作品は全て正式名称と発売年を追加
  • 過去記事の活用
  • 筆者によるアンダーラインでの引用の強調

と、読み慣れた方には見づらい形になっておりますが、ご了承くださいませ。

序章に当たりますのはこちらです。
www.papenspiling.com

忙しい人向けまとめ

  • 現場レベルでは113名と、『星のカービィ スターアライズ』(2018)の122名から微減。
  • 113名中35名は『ディスカバリー』で初クレジット。新卒・中途採用どちらも見られる。
  • その分の既存スタッフが『ディスカバリー』未参加、このようなリフレッシュは『星のカービィ Wii』(2011)以来。
  • 所属は殆どがハル研。フィールドアーティストにはバンプールの協力が目立つ。
  • 様々な役職・担当の名称変更が見られる。理由は不明。
  • プログラマーは大学在籍時の発表がいくつか確認できる。
  • ディレクターの神山 達哉氏の3D化への執念。

[1]:陣容

まずは『ディスカバリー』の制作スタッフを見ていきましょう。

役職 人数
ゼネラルディレクター 1
ディレクター 1
レベルデザインディレクター 1
ゲームデザイナー 13
テクニカルディレクター 1
リードテクニカルプログラマー 1
リードアクションプログラマー 1
リードキャラクタープログラマー 1
リードレンダリングプログラマー 1
プロシージャルフィールドプログラマー 1
プログラマー 19
アートディレクター 1
リードキャラクターアーティスト 1
キャラクターアーティスト 11
リードフィールドアーティスト 1
フィールドアーティスト 16
リードエンバイロメントアーティスト 1
リードプロシージャルフィールドアーティスト 1
リードUIアーティスト 2
UIアーティスト 4
リードサウンド 1
リードミュージック 1
サウンド 2
Frat Framework プログラマー 11
ネットワークプログラマー 1
テクニカルサポート 11
チームサポート 3
プロジェクトマネージメント 4
合計 113

他にもD・A・Gによるムービーやローカライズ、プロデューサー、スペシャルサンクス、そしてNOAやNOEの方々もおります。彼らも含めると250人規模のプロジェクトになります。『星のカービィ スターアライズ』(2018)は210人規模でした。増えたと言えば増えてますが、量的な変化に注目しても意味は薄いです。現場レベルでは『星のカービィ スターアライズ』(2018)の122名と比べればむしろ少ない方です。

[2-1]:初参加のスタッフについて

序章で指摘しましたように、『ディスカバリー』の主要スタッフはこれまでの『星のカービィ』シリーズの作品開発に深くかかわってきた方々で構成されています。ですがそれと同時に、『ディスカバリー』には今回が初登場の方々が多く登場します。合計すると35名です(表にいませんが、プロシージャルフィールドアーティストの村木 菜津弥氏も初参加です)。開発の現場が120名弱の規模で4分の1は『ディスカバリー』で初登場かつ、35名中13名は2018年以降入社というのは、『星のカービィ スターアライズ』(2018)以降積極的に新卒・中途採用を行った証明です。他方、2021年入社のスタッフをこちらで発見できていないため、別のプロジェクトも動いているのではないかとも予想できます。ハル研は大規模なプロジェクトにすぐに関われる文化がありますし、そもそも早い時期から開発の現場に入った方が本人のスキルアップにもつながります。

『ディスカバリー』で初登場のスタッフ

ちなみにこの中にはフリーやモノリスソフト京都スタジオ所属の経歴を持つ社員もおります。『星のカービィ』シリーズの本編はハル研社員で現場を構成しますが、その文化もだいぶ変わりつつあると言えます。

[2-2]:未参加のスタッフについて

『ディスカバリー』で未登場のスタッフ

逆に『ディスカバリー』未参加のスタッフは上の通りになります。ぶっちゃけ挙げられていないスタッフもおりますのであくまで一例です。大体30名程おります。そもそも現場の規模が『星のカービィ スターアライズ』(2018)とあまり変わらず、それでいて「2019年から2021年の間にハル研は従業員数を36名増やした」訳ですから、自然と30名程の空きが生まれます。

[2-3]:2011年のように

120名弱の現場で30名を初参加のスタッフにした、というのはチームのリフレッシュのようなものを感じられます。リフレッシュと言えば『星のカービィ Wii』(2011)が想起できます。ゼネラルディレクターの熊崎 信也氏はこのようなことを述べていました。

ひとつの会社の歴史の中でも、チームがデザインやプログラム、ディレクションも含めて、成熟した状態になる期間って、あると思うんですよね。年とともについているポジションも変わるし、新人も入ってくる。そういうふうにチームが変わっていくなかで、ようやくこれ(『カービィ Wii』)が作れるところまで、チームが成長したのかな、と

出典:宮昌太朗(2017)「25年目のカービィを創るということ。」,『CONTINUE SPECIAL ガールズ&パンツァー』,P.135,太田出版

『星のカービィ Wii』(2011)もまた『カービィ』シリーズでは初クレジット(没となったカービィに関わったと公言される方もおりますため、初"クレジット"としました。)の方が36名確認できます。36名の中で今もスペシャリストとしてご活躍される方も数多くおります。『星のカービィ Wii』(2011)の際は80名程度の現場でしたから半数近くが初クレジットとかなり若々しいチームでしたが、『ディスカバリー』では全体が増えたせいか比較的余裕があります。集大成としての『星のカービィ スターアライズ』(2018)ができた以上、革新性が重視される『ディスカバリー』の開発体制でスタッフを一部リフレッシュするのは、能動的にしろ受動的にしろ適切だと思います。

とはいえ『星のカービィ Wii』(2011)の時とは違って過去作品で経験を10年以上積んだ主要スタッフを変えてもダメです。若手のプログラマーから見た10年・20年選手というのは圧倒的な存在に見えます。そこを無理に変えても誰も得しません。

僕は入社直後、1年2年上の先輩プログラマーが前線で活躍している姿を見て「かっこいい!」と思っていましたが、配属直後は、周りの先輩についていくだけで必死なので、とても大変でした。
その時に気づいたのが、要求されることも多いので、1年2年でここまで差ができてしまうのだということです。
そしてそれが10年、20年と経験を積んだプログラマーとなってくると…考えただけで圧倒されそうです。
出典:新人プログラマーが感じた、ハル研に入社してよかったこと・大変だったこと | ハル研究所

ゲーム開発は開発資金の高騰が度々取りざたされていますが、開発期間の長期化による座組の高齢化もまた決して無視できない問題かと思います(仮に本編カービィが3年おきに出るならば、熊崎さんが還暦になるまでに出せる本編カービィは後3作品です)。『星のカービィ』シリーズを50年、いや100年続けていくならば、余裕のあるうちに経験を積んで経験者の層を厚くし、継続して作品をリリースできるよう働きかけていくのはおかしな話ではありません。

[3]:各担当の所属

『ディスカバリー』各担当の所属(予想含む)

ここまで見た『ディスカバリー』のスタッフですが、彼らがどこに所属しているかを見てみましょう。ハル研ブログやインタビューなどで登場した方々をハル研社員と仮定し、そこでは出ない方を契約社員やフリー、任天堂所属と考えますとこうなりました。特徴を箇条書きで出しますと

  • 共通してハル研所属が多い(アーティストでも60%)
  • ゲームデザイナーはハル研が殆ど
  • プログラマーでも任天堂の協力は少ない
  • アーティストにバンプールなど他社が目立つ

ハル研でゲームデザイナーの殆どが構成されておりますのは、11年という期間に『星のカービィ』シリーズの本編を出せなかったというトラウマも大きく影響してそうです。『ディスカバリー』のディレクターである神山 達哉氏ももう15年目*1ですので、後進の育成は絶対に欠かせません。

プログラマーとアーティストに視点を移しますと、アーティストでも60%はハル研所属です。プログラマーに至っては77%ですから「任天堂が作ったゲーム」という見方はフェイクレベルです。この辺はゲームフリーク制作の『ポケットモンスター』シリーズに近いのかも知れません。どちらも独自で開発・開発者募集とその体制構築が可能であり、そこから任天堂に販売をお願いしている立場が共通しています。其処らへんが任天堂が子会社として保有しない理由なのかも知れません。良くも悪くも任天堂の文化とは一線を画しています(「カービィがかわいそう」のように)し、その方が多様性を保持できます。

[4-1]:誕生・消滅した役職

誕生・消滅した役職

『ディスカバリー』では役職も変わっています。まずまとめると上の画像となります。詳しく見ていきましょう。

[4-2]:テクニカルディレクター

プログラムディレクターと入れ替わりとなりました。技術的な要件をより深く見るようになったのでしょうか? 確かにプログラマーにも専門的な担当が付くようになり、それだけ把握すべき技術が増えてきました。ピントを狭めないと1人では到底対応できないと感じるのも無理はありません。それと同時に、公式設定資料集のプログラマー座談会で『星のカービィ スターアライズ』(2018)のプログラムディレクターを務めた大西 洋氏がこのようなことを述べていました。

大西
私もボスキャラを作ってみたいなぁと思っていたんですが、本作では1体も作ってないです(笑)。
出典:アンビット(2021).「プログラマー座談会」, 『星のカービィ スターアライズ 公式設定資料集』. 徳間書店, p193.

したいかしたくないかは別として、自身のスキル向上の機会が減ってしまうのはディレクターのなり手の減少に繋がります。後のページで大西は「現在は住友や野末が作ったいいものがベースになっていて、ほかのプログラマーはそこを目指して作っていく体制」(P193)になっていると仰っています。両名ともプログラムのディレクターはやっておらず、それだけ時間を使えた側でもあります。

ハル研がはっきりと伝えている訳ではありませんから結局予想に過ぎませんが、プログラムディレクターという枠組みに欠点があることは外部からも感じ取ることはでき、ハル研はそれを変えようとしたのではないか、その結果が「テクニカルディレクター」への名称変更に現れたのではないかと私は思っています。

ちなみに特定の技術に特化した監修はテクニカルディレクターがやるにしても、それ以外はどうするのかに関しては、私はプロジェクトマネージメントがやっているのではないかと予想しています。プロジェクトマネージメントは長年担当してきた阿部 哲也氏によれば

共通して一番大事な仕事は「プロジェクトを完成させる」、ハル研で言うと「ゲームを完成させる」ことになります。

(中略)

しかし、ゲーム開発には、開発作業以外の、やらなければならない仕事が山ほどあります。
進行・管理、開発機材の手配やトラブル対応、関係部署との連絡・調整、協力会社さんとの連絡・調整などなど・・・これらの仕事も開発と合わせて進めていかないといけません。
そこで、プロジェクトマネージャーの出番となるわけです。

(中略)

また開発スケジュールの進行、管理も大切な仕事です。
理想はスケジュールに遅れなく順調に進むことですが、開発を進めていくと大なり小なり様々な問題が発生します。
問題が発生した時は、いかに開発への影響を最小限に抑えて解決するか、どうしてもスケジュールを調整しないと解決できない場合はプロデューサーとも相談して、プロジェクトチームや関係部署、協力会社さんに連絡、調整を行うのも仕事です。
出典:【プロジェクトマネージャーの仕事】『みんなで!カービィハンターズZ』と『カービィのすいこみ大作戦』 | ハル研ブログ | ハル研究所

と、まとめれば「開発作業以外の面からゲーム完成までの壁を最大限取り除く」のが役割です。阿部氏はこの役割を『星のカービィ Wii』(2011)、『星のカービィ トリプルデラックス』(2014)、『星のカービィ ロボボプラネット』(2016)、『星のカービィ スターアライズ』(2018)と熊崎氏が(ゼネラル)ディレクターを務めた作品全てで務めていました。しかし、『ディスカバリー』から阿部氏はスペシャリストでクレジットされました。後任は同じ『星のカービィ スターアライズ』(2018)でプロジェクトマネージメントを務めた永田 善裕氏です。永田氏は『星のカービィ ロボボプラネット』(2016)でプログラムディレクターを務めていますので経験者です。滅茶苦茶な予想ではないと思っています。

[4-3]:プロシージャルフィールド

プロシージャルフィールドについては以下の解説が参考になります。『ディスカバリー』ではリードレンダリングプログラマーとして関わった、2009年入社の木村 宗理氏がGDC2015に参加した時のものです。

また、プロシージャル技術を利用した、グラフィックデータの作成についてのセッションがありました。
プロシージャル技術とは、開発者が手作業で全てのデータを作るのではなく、いくつかのパラメータを元に、コンピュータの計算によってデータを生成することをいいます。
これにより、開発者のデータ作成の負担を減らすことができます。
あるセッションでは、ゲーム内の地形や動植物、乗り物など、世界のほぼ全てをプロシージャル技術で生成しており、その開発手法は非常に魅力的に映りました。
ただし、見た目が単調でつまらないものになってしまう危険性もあり、単純に導入すれば良いというものではないようです。
出典:「GDC 2015」に参加しました | ハル研ブログ | ハル研究所

要は自動でフィールドを作り出すということです。この辺は開発者インタビューで触れられています。

しかし開発の人的リソースも無限ではないので、
地形のモデリング ※4を自動で行うシステムを開発して、
時間短縮、効率化をはかりました。
※4
ゲームなどに登場する立体的な造形物を制作すること。

出典:開発者に訊きました : 星のカービィ ディスカバリー|任天堂

ここをプログラムは2012年入社の加藤 歩氏が、アートはカービィでは初登場の村木 菜津弥氏が担当しています。プログラム担当の加藤 歩氏は「『星のカービィ ディスカバリー』の仕事 プログラム編」で自らの仕事を「作りたい背景を快適に作れる環境を作ること、そして、背景の品質をプログラムの側面から向上させること」と紹介しております。加藤氏は入社後はシステムプログラマーとして動き、最初の数か月で取り組んだことは「光が溢れ出すブルームエフェクトや水面の表現」でした。技術的にどのような表現が可能か、その研究を行っていました。他にもプログラミングコンテスト2012の実行委員を務めたりもしました。以降は例えば『星のカービィ ロボボプラネット』(2016)では、ギミック、プレイヤーキャラクター、中ボスなどの挙動を担当しました。

加藤氏は先ほどの記事において処理負荷やデータサイズの削減にも言及しておりましたが、2016年インターンシップのプログラマーブログにおいても似たような発言をしておりました。

また、ゲーム全体で使えるメモリ、CPU、GPUリソースなどの制限も考えなければなりません。

そしてゲーム制作では大量の絵、モデル、エフェクト、SEなどが必要です。そのために、どんなワークフローだと効率よく運用できるのか、どこがボトルネックになるのか、どうすればそれを解決できるのか、とチーム全体としてよりクオリティの高いゲームを作れるように制作を進めていくことになります。
出典:
ハル研究所インターンシップ : HAL LABORATRY, INC. Internship Site 2016

プログラマーブログにおいては西村 悠樹氏、大西 洋氏、谷藤 圭太氏、八坂 俊氏とハル研究所の名だたるプログラマーがコメントを残していますが、制限に関わるコメントは加藤氏のみが残しています。『星のカービィ スターアライズ』(2018)でテクニカルプログラム担当だった加藤氏が、『ディスカバリー』において負荷に関わる分野に深く関わるようになったのは必然的だったのかも知れません。

アート担当の村木氏は『新・光神話 パルテナの鏡』(2012)、『Happy Wars』(2015)ではキャラクターモデリングを担当しています。キャラクターからフィールドとなると勝手が変わりそうですが、別におかしくはないかと思います。スタッフリストは何作見ても結果の集合体でしかありません。今回は7年の期間がありますからね。ちなみに転職されたのか、プロジェクト雇用なのかは現段階では不明です。

[4-4]:フィールドアーティスト

今までハル研はモチーフデザインという担当にしていましたが、それを辞めてフィールドアーティストに変更しました。3D化ではモチーフと呼べるような形ではなく、フィールドとしてより広く手を付けなければいけない…とかそんな感じでしょうか。なんとも言えませんが。

ちなみにフィールドアーティストには『スーパーカービィハンターズ』(2019)、『カービィファイターズ2』(2020)でリードデザインを務めた辻 なつき氏などバンプール社員が最低6名確認できます。フィールドアーティストは16名クレジットですので、割合は決して少なくないです。元々バンプールは『ザ・デッドヒートブレイカーズ』(2018)などで3Dのフィールドを実現させています。カメラの挙動も含めて大いに参考になるからだと思います。

一方、キャラクターアーティストは殆どハル研社員となります。適切な能力を持った人員を適切な分野に配置していることが見て取れます。
www.papenspiling.com

[4-5]:リードミュージック

今まで山梨主導の『星のカービィ』シリーズはリードサウンド・サウンドの形でやっていました。ですが、『ディスカバリー』からはリードミュージックという担当が生まれ、安藤 浩和氏がそこに入りました。ミュージックとサウンドの違いというのは正直私には何とも言えないです。この辺はサウンドスタッフ座談会なり、メディアのインタビューで明かされてほしいなと思います。

[4-6]:Frat Framework プログラマー

スタッフリストを見てたら唐突に出てくるこの担当。Frat Frameworkとはゲーム開発に必要な機能のセットみたいなものです。ハル研独自のツールです。

『カービィチームの開発力を最大化せよ! ―内製フレームワークで大事にしたこと―』より

プログラマーでもなければアーティストでもない私にはCEDILのスライド(会員登録をすれば無料でCEDECのスライドを閲覧し、ダウンロードもできます。)を見てもちんぷんかんぷんですが、カービィチームが全力でゲームを作れるよう機能を追加、不具合を修正するプログラマー陣のことを指します。その役割自体は昔からテクニカルサポートとひとまとめになっていました。ここでテクニカルサポートとしてまとめず、何故Frat Frameworkプログラマーという担当をわざわざ創設したのか考えてみましょう。

もしかしたら、ハル研の事業内容の変遷と関係があるかも知れません。ハル研の事業内容の柱の1つである「デジタルエンタテインメント基盤の開発」で、2016年と2022年で内容がかなり変わったのです。

2016年時点は遊びの追求に集中するための基盤でした。それが2022年からは新しいエンタテイメントが生まれる基盤となりました。中身は変わりません。その基盤が何のためにあるのかという意味が変わりました。遊びの追求のためにあるという効率の改善、100%を120%にアップさせる補助的な意味合いから、新しい遊びを生み出す基盤、1を生み出す土壌を作るという根幹としての意味合いへと変わったのです。 この基盤は社内だと環境開発部、スタッフリストだとテクニカルサポートに分類されると考えられます。このような縁の下の力持ちの存在を引き立て、正のインセンティブをもたらすことは「技術のハル研」をより強めるのではないかと思います。

【考察】ハル研究所の今後は?事業内容の変遷から見る - Papen's Piling

フレームワークのメンバーもまた大事な一員だ!という意識が強くなり、フレームワークのプログラマー陣を表す担当が生まれたのでしょうか?本格的な3Dアクションで専属とそれ以外を分ける必要があったのかも知れませんし、色々考えられそうです。

[4-7]:名称変更について

このように『ディスカバリー』から、役職の名前が大きく変わっています。序章ではデザイナー→アーティストのみ挙げましたがそれ以外にもプログラムをプログラマーに、プランニングサポートをゲームデザイナーにと、これまでのハル研制作の作品のそれとは名前を変えています。名称変更については『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』(2008)から『星のカービィ Wii』(2011)のようにプログラミングをプログラムに変えることはありましたが、これは据置と携帯という2つのチーム間の比較です。山梨を基準とする現行の開発体制内でここまで変更を加えたのは珍しいです。

ゲームの内容のローカライズには別に関係しませんし、大体スタッフリストで人物を記録するならMobygamesやKyotoReportなどがあっても、所属や担当まで血眼になって見るのはなかなかいないです(こんなこと数年やってますが未だブルーオーシャンです)。要はこんな所を社外へのアピールとして変えても意味がありません。

開発体制として何かを変える必要があったからこそ、プログラムディレクターがテクニカルディレクターに、プランニングサポートをゲームデザイナーに、デザイナーをアーティストに、プログラムをプログラマーにし、リードミュージックとFrat Frameworkプログラマーを新設した。そうなります。今はそれだけです。

[EX]:その他気になること

その他、気になったことを出していきます。

 フィールドアーティストに登場する松尾 沙苗氏はモノリスソフト京都スタジオ新入社員時代にインタビューを受けています。『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』(2017)のランドスケープアートも担当していました。任天堂所属の社員が『星のカービィ』シリーズに関わることは普通です。が、モノリスソフト京都スタジオの社員が関わることはこれまでありませんでした。松尾氏は『あつまれ どうぶつの森』でアセットデザインも担当しましたので、その後任天堂に転職されたのかも知れません。今のところは何とも言えませんが、不思議だなと思いました。
web.archive.org

 同姓同名の方が、という条件ですが『ディスカバリー』で初登場のプログラマーを調べるとこのような発表が見つかりました(発表年も見た上で矛盾がなさそうだと判断しています)。大学在籍時のものですので単独発表ではありません。

  • 「分散ストリーム処理エンジンを用いたMTLによる大規模トレース検査」
  • 「ミューテーション解析における非利用アサーションの実証評価」
  • 「C++における型制約用メタ関数の簡略化」
  • 「様々な学習戦略と学習環境におけるHybrid Reward Architectureの性能の評価」

ただの素人が抄録を見た所、最初の2つはデバッグや品質管理に関わりそうな内容だなと思いました。3つ目のようにコーディングに関わっていなければ関われない内容や、4つ目の強化学習に関わるものも興味深いです。同年代に理工系の大学に所属して情報処理に関する成果を残した方、という条件では同姓同名の可能性はかなり低いです。私はこれらの成果に携わった方々が『ディスカバリー』に関わっていると、99%考えています。

 バンプールは『スーパーカービィハンターズ』(2018)以降『星のカービィ』シリーズに関わるようになりました。

www.papenspiling.com

帝国データバンクや東京商工リサーチなどで調べてみると、バンプールは2018年以降自己資本比率を大きく落としているようです。同年に送り出した『ザ・デッドヒート・ブレイカーズ』(2018)は4月26日発売ですので11月までにはまとまった売上が入るはずなのですが、その売上高が急落した年です。彼らにとってハル研究所との協力は必要不可欠な話なのかも知れません。そうなると、バンプールがゲームデザインに携わる作品が今後も発売されると予想できます。

[5-1]:ディレクターから感じる"執念"

熊崎
今作の開発にあたって、神山からもらった企画書は見たことがないくらい、このタイトルの実現に対して熱量の高いものでした。
社内でよく見るゲームの詳細や新しい冒険の舞台について書かれたものではなかったのですが、先ほどお話にあがった3Dアクションでの課題を「この操作感ならお客さまが安心して遊べるだろう」と、一つひとつ確実に解決することにすごくこだわっていて。

これなら大丈夫だ、と思って、この企画のスタートに踏み切りました。
出典:開発者に訊きました : 星のカービィ ディスカバリー|任天堂

開発者インタビューにおいて、『ディスカバリー』の企画は神山氏から提出されたと明かされています。神山氏については、若干情報が少ないので補足説明をさせていただきますと

2008年に入社し、『顔シューティング』(2011)で初クレジット。『星のカービィ Wii』(2011)以後アシスタントディレクターやレベルデザインを担当し、『カービィのすいこみ大作戦』(2017)でディレクターに。最新作『ディスカバリー』で本編初のディレクターとなりました。関わった作品を列挙するとこうなります(スペシャルサンクスは外しました)。

  • 『カメラで遊ぶ 顔グライダー』(2010):ディレクション(Continue vol.51より)
  • 『顔シューティング』(2011):スタッフ
  • 『星のカービィ Wii』(2011):アシスタントディレクター
  • 『星のカービィ 20周年スペシャルコレクション』(2012):ディレクター
  • 『星のカービィ トリプルデラックス』(2014):アシスタントディレクター
  • 『デデデ大王のデデデでデンZ』(2014):レベルデザインサポート
  • 『ハコボーイ!』(2015):リードレベルデザイン
  • 『星のカービィ ロボボプラネット』(2016):シーケンスディレクター
  • 『カービィのすいこみ大作戦』(2017):ディレクター
  • 『星のカービィ スターアライズ』(2018):シーケンスディレクター

神山氏は発言こそ多くはありません。ですが、『星のカービィ スターアライズ』(2018)では「事前に納期が決まっていた久しぶりの事例」と明かしたりなど結構重要なことを口に出します。

神山:(中略)最新作の『星のカービィ スターアライズ』は「集大成」という気がします。ここ最近のカービィは完成の見極めが必要で、完成してから売る時期を決めていたんです。今回の最新作は完成する前から発売日が決まっていて、これはかなり久しぶりなことですし、僕らとしても作っている途中で宣伝して、反響を実感しながら作り込めているっていうのが初めてなんですよ。

出典:宮昌太朗(2018)「『カービィ』プロダクトのいま。」,『CONTINUE Vol.51』,P.148,太田出版

そして『ディスカバリー』のインタビューでもかなり思い切ったことを口にしています。

  • 曰く、「基本となるアクションですら、そのまま3Dにすると思うように操作できない」と。
  • 曰く、「カービィのキャラクターデザインが3D表現と相性が悪いんです。」と。
  • 曰く、「本編カービィでずっと矢印を出し続けると、カービィというキャラクターを操作しているというより矢印カーソルを操作しているようになってしまう」と。
  • 曰く、「日本語のUIは、私たちにとっては直感的ですが、海外だと文字数が多くなるので細かくて読みづらい、と聞いていました。」と。

商品を購入した側がレビューの一環でこれらを言うのは分かりますが、開発者がそれほどまでカービィの欠点を言う訳。それが「一つひとつ確実に解決することにすごくこだわった」証なのでしょう。何が何でも3Dアクションで出す!という前提がある以上、目の前に立ちはだかる問題は全て解決しなければなりません。それも荒っぽくではダメで、"丁寧な"やり口で。

とはいえその意図が理解できたとしても、カービィが主力商品であるハル研究所で、「カービィのキャラクターデザインが3Dと相性が悪い」と言い放つことについて、相当の覚悟がいると私は思います。協力会社の任天堂や、第三者がいうのとはレベルが違います。任天堂の二宮氏でさえ「カービィはジャンプ、ホバリングなどの要素がありますし、遊びとしては3Dアクションとの相性は良いだろうな」と言う程です。リップサービスやポジショントークだったとしても、遊び自体は相性が良くても前提のキャラクターデザインが良くないとそれで食っているハル研社員が言ったのです。
3D化への挑戦として目立った『カービィの3Dチャレンジ』(2016)から見積もっても6年間、カービィの本格3Dアクションへの挑戦とその研鑽を幾度となく行ったのでしょう。『カービィのすいこみ大作戦』(2017)のように矢印カーソルを出せば星型弾を命中させやすくても、それでは「カービィではなくカーソルを操作するゲームになる」と最後の最後まで3Dアクションへの道を整備し続けた神山氏には強烈な執念を感じます。それは学生時代からゲームから作り続けてきた熊崎氏からも感じられたのでしょう。すいこみ大作戦はプレイ当時、私も面白いと思った作品ですし3D化への可能性を感じましたが、その結果に慢心せず改善と新たな企画を行い続ける、その姿勢には尊敬の念を感じずにはいられません。

また、システムを開発して、より早く、よりスムーズに遊びの部分を作る試行錯誤ができるようにするなど、開発体制を長年見ることができた故か、管理者として「試行錯誤を早める」ことを全体に促せるのもまた素晴らしいです。新規事業は小さく早く失敗を積み重ねることでより良いものが生まれる傾向にあります。ハル研社員も優秀なのは分かってます。が、幾星霜の挑戦を気が遠くなるほど積み重ねて『ディスカバリー』に至れたのでしょう。

[5-2]:〇〇カービィの終焉

先ほどの引用には気になる文言があります。
それが「社内でよく見るゲームの詳細や新しい冒険の舞台について書かれたものではなかった」です。神山氏はそういった世界観やゲームの詳細ではなく、3Dアクション化への課題解決に重点を置いているのです。これは今までの成り行きを見るとそうだろうとなりますが、ゲームを彩る世界観構築もやはり必要です。それらもまたエネルギーを消費する大変なことです。それは誰がやるのでしょう?

ゼネラルディレクターの熊崎氏となる訳です。

熊崎
今作では企画全体と、キャラクターデザインやサウンドなどの監修、演出やストーリー、テキスト執筆などを担当しました。
出典:開発者に訊きました : 星のカービィ ディスカバリー|任天堂

『ロボボプラネット』で最初に描かれたスケッチ。スージーのしんりゃくレポートより。

ここに敵や仕掛けの仕様作成と監修をし、またそれらを配置してステージを作ったりするレベルデザイン*2を長年担当してきた遠藤氏がいることで

ゲームデザインは神山氏が
演出やストーリー、サウンド監修は熊崎氏が
レベルデザインは遠藤氏が

とはっきりした分担ができるのです。神山氏が企画を出したから自然とそうなった形ではありますが、全部を1人でやるのは現実的ではないなとも思っています。

これまで『星のカービィ』シリーズは代表的なゲームデザイナーの名を冠して区別をすることが一種の伝統でした。
代表的なのは桜井カービィ、下村カービィ、そして熊崎カービィでしょう。外伝作品はこれらには入りませんが、いわゆる本編のカービィはこの3つに大体分けられていました(『星のカービィ 鏡の大迷宮』(2004)、『星のカービィ 参上!ドロッチェ団』(2006)は難しいですが。一応フラグシップカービィと呼ばれたりもします。なんか違うと私は思っていますが)。

それだけゲームデザイナーの思想が出ている証なのかも知れません。ですが、『ディスカバリー』は先ほどのように分かれて動いていました。熊崎カービィ?いや3Dアクションは神山カービィ、でもその調整は遠藤カービィ?

そもそも熊崎カービィと言われても、熊崎氏が一人で企画・ディレクションを行ったのは『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』(2008)のみです。その時を振り返った時の言葉と、以後の作品の体制を見ると2度はやりたくなかったのでしょう。

いま振り返っても、この時はしんどかったですね。死ぬかと思いました(笑)。
出典:宮昌太朗(2017)「25年目のカービィを創るということ。」,『CONTINUE SPECIAL ガールズ&パンツァー』,P.133,太田出版

これだけの人々が関わるプロジェクトに個人の名を冠することは不正確な理解だと思います。ゲームデザイナーもまた仕様書を作っている以上、彼らもまた大いに貢献しております。ゲーム開発も数人で作って無茶をすれば"なんとかなる"ような時代ではありません。そういう古い理解で話をしてもおつまみにはなりますが、色々調べてこうなんじゃない?と吐き出すのもまた乙だと思います。

つまみにはなりませんが。

[6]:新世代カービィ、誕生

ここまでをまとめますと

  • 現場レベルでは113名と、『星のカービィ スターアライズ』(2018)の122名から微減。
  • 113名中35名は『ディスカバリー』で初クレジット。新卒・中途採用どちらも見られる。
  • その分の既存スタッフが『ディスカバリー』未参加、このようなリフレッシュは『星のカービィ Wii』(2011)以来。
  • 所属は殆どがハル研。フィールドアーティストにはバンプールの協力が目立つ。
  • 様々な役職・担当の名称変更が見られる。理由は不明。
  • プログラマーは大学在籍時の発表がいくつか確認できる。
  • ディレクター神山 達哉氏の3D化への執念。

こうなります。『星のカービィ Wii』(2011)から始まった本編カービィの開発体制は『星のカービィ スターアライズ』(2018)まである程度継続しました。しかし『ディスカバリー』は最初スタッフリストを見ただけでだいぶ変わったなぁと思うぐらいには陣容が変わっています。

4年経ったからそれだけ変わるという話ではありません。変えられるという自信が今のハル研究所には感じられるのです。その集合体が「新世代カービィ」と呼べるのではないか、私はそう思います。

*1:桜井 政博氏がハル研所属でカービィと関わった期間(14年)を超えました。

*2:レベルデザインとはそういう意味ではないと仰る方もいますが、ハル研の遠藤さんがそう言ってますのでそうします。他の会社ならそうなんでしょうが、これはハル研の記事ですからね。