Papen's Piling

主にコンシューマーゲーム会社を調べる所

【考察】パルワールドの開発スタッフを見ていく

広大な世界で不思議な生物『パル』を集めて、戦闘・建築・農業を行わせたり、工場で労働させたりする全く新しいマルチ対応のオープンワールドサバイバルクラフトゲームです。

Steamのストアページより

2024年1月19日に発売した『パルワールド』。
このゲームを取り巻く環境は、発売後も色々な意味で熱い状況にあると思います。ともかく、このブログでは基本的にスタッフばかり見てるのでこのゲームもスタッフについて見ていきます。

『パルワールド』のスタッフはタイトルから見られます。正確にはwebページに飛ぶリンクなのでここからでも見られます

「クレジット」からスタッフについて見られる(modを入れているので画面がやや異なります)

なおこのクレジットですが、Lakshya Digital(Keywords Studios)~SHIFT Inc.までのリストが二重になっているミスがあります(ポケットペアには報告済み)。確認の際にはご注意下さい。

そもそもよく分からないポケットペア


ポケットペアはパルワールドを機に人員が急拡大した、2015年創業のゲーム会社です。
『オーバーダンジョン』『クラフトピア』など代表作はありますが
これらも詳細なスタッフについては判明していません。
(少人数で誰が作っているか分からない、別におかしな話ではありません)

そのため、『パルワールド』が、ポケットペアの陣容が分かる最初の作品となります。

ちなみに日本年金機構のデータではポケットペアの被保険者数は53名のようです。もっと前から見ておけば良かったのですが、後の祭りです。

厚生年金保険・健康保険 適用事業所検索システムから(データ:2024年02月02日)

人数を見る:確かに少ないが、同種のゲームと比較すると少数でもない

『パルワールド』は重複込みで合計202名が携わっています。会社別で調べると以下の人数になります。

パルワールド、会社別の人数

ポケットペアも多いですが、Keywords Studiosも多く見られます。Keywords Studiosはゲーム開発の支援を業務とし、グループ全体で13000名以上のスタッフを抱える巨大な企業です。彼ら曰く「ゲームパブリッシャーのトップ25社中24社と事業展開」をされているようです。表ではLakshya Digitalと出ていますが、これは2014年に傘下に収めたLakshya Digitalを指します。

www.famitsu.com
Keywords Studiosについてはファミ通が記事にしております。若干情報が古いですが、概要としてはこれで充分でしょう(先程の従業員、事業展開については公式サイトの値を参考にしています)

規模感としては案外普通です。例えばゲームのメカニクスで類似する点が多い『ARK: Survival Evolved』は企業含めて173名、『Valheim』は138名です。これらも協力会社含めての計算です。

『パルワールド』は確かにAAAクラスの作品と比べれば人数は少ないですが、少なくとも数字の上では「少数で作られたゲーム」とは言えません。むしろ、他と比較すると特に違いが見えてこなくなってしまいます。

職種を見る

いわゆるゲーム開発の現場として明確に出てくるのはディレクター、ゲームデザイナー、プログラマー、アーティスト、あとサウンドデザイナー辺りです。下の表ではポケットペアの主要開発陣をまとめています。プログラマーで例外がありますが、この合計73名を見ていきましょう。

パルワールド、ポケットペアの主要開発陣

ゲームデザイナー

『パルワールド』ディレクター、ゲームデザイナー

ディレクターとゲームデザイナーは合計で7名です。ポケットペア全体では約9.6%です。ゲームデザイナーは前歴が分からないことが多く、『パルワールド』もその例に漏れずですが、Shoma Toda氏は『モンスターハンター ライズ サンブレイク』のプレイヤーデザイン、『モンスターハンターワールド アイスボーン』のゲームデザインに携わっていたようです。

…とにかく、溝部氏を除けば全然分からないのが現状です。

プログラマー

『パルワールド』プログラマー

プログラマー、エンジニアをあわせて合計で16名、ポケットペア全体では約22%です。後述する奇跡でゲームエンジンを変更した話がありますが、その話からも察せられるようにMobyGamesでは過去作が出てこない人が多数です。具体的には16名中11名が『パルワールド』が初クレジット、率では69%です。
比較としては不適切ですが、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のプログラマー&エンジニアは126名中、MobyGamesで経歴が無かった人は42名、全体の33%ですからその違いが分かります。

ネットワークを一人で支え続けるHiroto Chujo氏のような方もおりますが、全てがそうなら彼のような存在が輝きません。

また、16名という数も驚きです。プログラマー、エンジニアがいなければどんなに画期的で面白い仕様や魅力的なアートが生まれても実現できません(前者のアイデアも人が足りていないのですが)。実際、ポケットペアは企画・エンジニアを最も募集している旨を明かしていますから、言葉通りに足りていないのでしょう。



アーティスト

『パルワールド』アーティスト

内訳としては、アート関係者が一番多いです。モーションもそうですし、背景や3Dアーティストなどなど、それぞれ全部ですね。エンジニアも新規に5人以上採用しているので、結局結構な数のチームになっています。
出典:『パルワールド』開発者インタビュー。「Steamウィッシュリスト180万」「事例研究したのに前例ない仕様に」異例だらけの新作オープンワールドゲームの破天荒すぎる船出事情 - AUTOMATON

AUTOMATONのインタビューでも明かしているように、『パルワールド』全体で最も多いのはアーティストです。担当で一番多いのはEnvironment Artistです。ステージの描画に人が必要なのは当然でしょうし、また、パルを生き生きとした生物にするのに不可欠なモーションも人が多いです。

以下は各担当で過去作を調べたリストです。MobyGamesの範囲内で確認しております。
情報がない方は「確認できず」、情報があるけど確定ができない(過去作が10年も前など)場合は「あるが、情報が怪しい」としています。

Artist 過去作(担当)
2名 Lead Character Artist
Junichi Kobe 『ソリティ馬 Ride On!』(アーティスト)
Kenji Kawabata 『Deathverse: Let It Die』(キャラクターアーティスト)、『ファークライ6』(キャラクターアーティスト)
5名 Character Artist
Yusuke Moriyama どちらも株式会社ガレージ所属時。『キングダム ハーツ メロディ オブ メモリー』(キャラクターアーティスト)、『ハコボーイ!&ハコガール!』(デザイナー)
Keiichi Kakogi 『リトルウィッチアカデミアVR ほうき星に願いを』(キャラクターモデリング)、『幻影異聞録♯FE』(背景モデリング)
Tetsuya Morikoshi 確認できず
Yuito Ono 確認できず
Ryan Flynn 『ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ/イーブイ』(ポケモン3Dグラフィックデザイン)
2名 Character Concept Artist
Daiki Kizu 確認できず
Nakayan 確認できず
1名 Assistant Character Cocept Artist
bazz 確認できず
3名 Concept Artist
Mai Fujiwara 確認できず
Masato Watanabe 『クライマキナ』(環境コンセプトアート)、『ソードアート・オンライン Last Recollection』(ワールドデザイン)
Marie Iwase 確認できず
2名 Lead Motion Animator
Ryohei Adachi 『ペルソナ5』(カットシーン イベントデザイン)、『新・光神話 パルテナの鏡』(カットシーンアニメーション)
Yoshihisa Mikata 『二ノ国 白き聖灰の女王 REMASTERED』(キャラクターポリゴンモデル&モーション)、『白騎士物語 -光と闇の覚醒-』(キャラクターモーション)
7名 Motion Animator
Mai Fujiwara 確認できず
Shoya Honma 確認できず
Kazuya Fujinami 『ファイナルファンタジーVII リメイク 』(カットシーンアニメーション)、『ポケットモンスター ソード/シールド』(モーションデザイン)、『大乱闘スマッシュブラザーズfor3DS/WiiU』(キャラクターモーションデザイン)
Nao Kozono あるが、情報が怪しい
Kenji Tokumori 『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』(担当不明、exsa株式会社でクレジット)
Satoru Izumi 『AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』(デザイン)、『NieR Replicant ver.1.22474487139...』(リードシネマティックアート[トイロジックでクレジット])
Hisashi Kakizaki 『ファイアーエムブレム エコーズ もうひとりの英雄』(アニメーション)
1名 Technical Artist(Rigger)
Keita Kawamitsu 『モンスターハンター ライズ』(アニメーション)、『深世海 Into the Depths』(モデラー)
3名 Lead Environment Artist
Ryohei Nakano 『リディー&スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~ DX』(環境アート)、『ペルソナ5スクランブルザ ファントムストライカーズ』(3D背景デザイン)、『ゼルダ無双 厄災の黙示録』(環境アート)
Yuki Watanabe 『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』(カットシーンアニメーション、インゲームモーション)など、情報が怪しい
Kazuki Suzuki 確認できず
12名 Environment Artist
Kenta Kitamura 確認できず
Tsutomu Kakihara 『R-TYPE FINAL3 EVOLVED』(3DCGアート)、『二ノ国Ⅱ レヴァナントキングダム』(CGデザイン)
Hausson Damien 確認できず
Koki Kawasumi 確認できず
Miki Fujimoto CC2→グランディング『リトル ノア 楽園の後継者』(レベルアート)、『The Good Life』(レベルアート)
Koji Sato 『ファイナルファンタジーVII リメイク』(環境アート)
Fuka Kurotsuchi 確認できず
Hiromasa Fukuoka 『GRANBLUE FANTASY: Relink』(環境アート)、『キングダム ハーツIII』(アート)
Akira Yoshida あるが、情報が怪しい
Yuta Ehara あるが、情報が怪しい
Myeongsun Lee 『New みんなのGOLF』(デザイン)
Yoshihiro Tanuma 確認できず
1名 Technical Artist
Yoshihiro Ito 『ストリートファイター6』(フェイシャルキャプチャ)、『Ghostwire: Tokyo』(フェイシャルキャプチャ)
1名 Lead UI Artist
Hirofumi Oishi 『見習い魔女とモコモコフレンズ』(スペシャルサンクス)
2名 UI Artist
Yunika Sato 確認できず
Yusuke Hata あるが、情報が怪しい
1名 Cinematic Artist
Yohei Mizobe 確認できず
3名 VFX Artist
Keisuke Yasuda 確認できず
Szu-Yuan(Kiki) Ho クリーク&リバー所属時。『トライアングルストラテジー』(ビジュアルエフェクト)、『Pokémon LEGENDS アルセウス』(エフェクト)
Takatsugu Fukushima 『インフィニティ ストラッシュ ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(VFX)、『Hi-Fi Rush』(VFX)
1名 Logo Designer
Yohei Mizobe 確認できず

こうして見ると、「確認できず」の方は全体の34%程度(47名中16名)です。これについては『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のアーティスト陣(30%)と変わらないです。

『ポケットモンスター』シリーズのデザインに携わった方もいらっしゃいますがごく少数なことが分かります。他には、Technical Artist(Rigger)のKeita Kawamitsu氏、Lead Environment ArtistのRyohei Nakano氏のように元はカプコン、コーエーテクモゲームスにいたと推測できる方もいらっしゃいます。

また、このブログは元々ハル研究所に対する関心から記事を作ってきましたが、株式会社ガレージ所属時に『ハコボーイ!&ハコガール!』のデザインをされた方(Character ArtistのYusuke Moriyama氏)を見つけられたのも面白かったです。

音楽

音楽については矢野達也氏です。『クラフトピア』『AIアートインポスター』でもされていますため、おなじみと言っていいでしょう。

SFXについては『SDガンダム バトルアライアンス』のSEを担当したKazuma Ishii氏、『スーパーロボット大戦30』で音楽に関わったTatsuyuki Toyota氏の2名です。

"奇跡"を第三者から確認できる範囲で検証する

数と担当について見てきましたが、"プロフェッショナルな集団"が作ったゲームではないことが分かります。ゲームデザイナー、プログラマーの殆どは過去が分からず、アーティストは過去作が判明している人も多いですが、傾向がまるで読めません。

第三者から見ればバラバラとしか言いようがないこの状況でゲームを作り上げた訳ですから、マネジメント能力の賜物としか言いようがないです。

ところで、ポケットペアは「3日後に命運が決まる、パルワールドという偶然の物語」という記事をnoteで展開しました。この奇跡では何名かの社員の名前があがっておりますので、せっかくなのでそちらも見ていきましょう。

奇跡1:不明

「20歳のコンビニのアルバイトで業界未経験者が、若手のエース。」というのは誰かわかりませんでした。そもそも本人とのやり取りでモザイクがかけられているので、仮に何か分かってもここには書けなさそうです。

奇跡2:Hiroto Matutani氏

「UnityからUnreal Engine 4へのエンジン移行に成功した。既存のコードは全て破棄した。社内にUE4経験者は1人もいなかった。」。これは名前にも出ていますが松谷氏です。

先ほどまでの表をご覧になっている方は気づかれると思いますが、松谷氏のみ「START DASH SENSATION, Inc.」所属です。企業については見ても特筆すべき情報があまり見当たりません。2018年設立という点ぐらいでしょうか。
松谷氏は「私は10年の経験がある。一緒にゲームを作らせて欲しい」と仰っていますが、mobygamesで確認してみると松谷氏は2010年発売のXbox 360、Playstation3用ゲーム『CLASH OF THE TITANS: タイタンの戦い』で株式会社会社ゲームリパブリック所属のLibray Programmerとして開発に参加しています。この後、ゲームリパブリックはリーマン・ショックにより大規模なリストラを行っています。

開発者の履歴を調べているとたまに出てくるタイトル

"10年の経験"は、ただ普通のことを言ってるだけです。ちなみに松谷氏は2024年2月2日発売の『ペルソナ3 リロード』の開発協力にも参加しています。『ペルソナ3 リロード』と並行していたのかそうでないのかはここからは分かりませんが、ご活躍されている方なのは間違いありません。

奇跡3:Ryohei Adachi

「モンスターを100体以上作った。モーション経験者は社内にいなかった。」この奇跡で名前が挙がるのは足立氏です。足立氏の履歴で最初に確認できるのは2005年発売のニンテンドーゲームキューブ用ゲーム『ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡』のゲームモーションデザインからで、以降はこのような経歴を辿ります。

  • 『大乱闘スマッシュブラザーズX』 キャラクターモデリング
  • 『新・光神話 パルテナの鏡』カットシーンアニメーション
  • 『ペルソナ5』カットシーン イベントデザイン

『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』にも載っていますがオリジナルゲームとしてのクレジットなので割愛しました。こういうのが紛らわしいので私はオリジナルゲームのスタッフを載せることには反対です。

なお、noteでは「ちなみに、以後引き続きエージェントからの募集は見ていたが、足立さんのようなベテランは1人も来なかった。」とありますが、単に経験者という枠組みなら同じLead Motion AnimatorのYoshihisa Mikata氏がおります

Mikata氏も『二ノ国 白き聖灰の女王』『白騎士物語 -光と闇の覚醒-』などレベルファイブ開発のタイトルでモーションを主に担当されているのですが、単にエージェントサイトからの募集では来なかったのかも知れません。

(そしてレベルファイブからは明らかに人材が抜けているのですが大丈夫なんですかね。大丈夫じゃないからDirectで発表したタイトルが尽く延期になるのでしょうが)

奇跡5:特定は不可能だが…

「書類選考で不採用にした新卒が、最も重要なポジションになった。」。ポートフォリオのイラストが個性的で方針と合わないのではないかと考え一度不採用にしたが、また申し込んできたので結果として採用した人が重要なポジションを担った話。

名前が出ていませんので特定は不可能ですが、恐らくMai Fujiwara氏なのではないかと考えております。理由は以下の3点です。

  • そもそも女性と思しき名前のアーティストが5名程しかいない
  • Fujiwara氏のみがConcept ArtistとMotion Animatorを兼任している
  • フィードバックの速さ、描くスピードなど担当業務の功績のみが挙がり、リーダー業務に関する内容が入っていない(松谷氏のようなリーダーではなさそう)

まとめ

ここまで『パルワールド』のスタッフ、特にポケットペアの開発陣を見ていきました。ここまで分かったことを箇条書きにするとこうなります。

  • 『パルワールド』は確かにAAAクラスの作品と比べれば人数は少なく、合計で202名が載っているが、『ARK: Survival Evolved』は企業含めて173名、『Valheim』は138名。オープンワールドサバイバルクラフトという枠では人員面で特徴がない。
  • ゲームデザイナー、プログラマーでは経歴が分からない人が殆ど。また人数の面でも足りていないことを明かす。
  • アーティストで経歴が分からない人は全体の約34%。過去作は多様で様々な方面からかき集められたことが分かる。
  • 音楽は矢野達也氏。ポケットペア作品ではもはやおなじみ。
  • noteで紹介された社員を軽く調べても特に矛盾は見受けられない

こう見てみると、普通のことしか載っていません。代表取締役の溝部拓郎氏は別に変なことを喋っていないことが分かったのが唯一の収穫ですね。

とはいえこれからが大変です。3500円で買えば全部楽しめる作品ですから資金は目減りしていきます。しかしロードマップをこなしていくには資金が必要です。どのような方法であれ仮に資金調達が成功してキャッシュリッチな状態になった時、ポケットペアはどうなっているでしょうか。

"とりあえず"、"普通に"規模を拡大していけば、noteで放った「金さえあれば、面白いゲームが作れる訳ではない。」がブーメランのように返っていくかも知れません。人も雇った以上後戻りはできません。

今後も要注目ですね。

参考にしたもの・してないもの

参考にしたもの


参考にしてないもの

  • ネットの噂話、場外乱闘
  • 各開発者のX(旧Twitter)などのSNSアカウント(著名な話だけは見てます)