昨今のコンシューマーゲーム会社における社員の学歴がどうなっているのか。実情がよく分からないため調べました。
元々は切り抜きで流れてきた「ゲーム会社に入るにはどうすればいいですか⇒ゲーム専門学校は無駄です」みたいなもの(リンクは貼りません)に対して、そもそも実情がよく分からないから調べようと言うのがスタートです。
ちなみにいくつか条件がございます。
- 入社は2000年代からスタートです。そのため「皆様がよく知る開発者」は対象ではありません。
- 具体的にどなたがどんな学歴かはお伝えしません。
- タレコミや根拠不明の噂は用いていません。現在でも第三者が検証可能な情報を用いて判断しています。
- 100%正確ではありません。卒業年と入社年の比較やインタビューの内容確認、業務内容と研究内容の類似など様々な部分で検証していますが確実ではありません。同姓同名の可能性も排除できていません。
- 大学名は正確ではありません。学校まではなんとかなりますが、学部学科は年を経て変わりますため参考情報と捉えて下さい。
対象会社
任天堂の61人、ハル研究所から40人。それ以外の企業を合わせて144名見ています。数としてはまだまだいけますが、最初のとっかかりではこの辺で良いと考えています。サムネイルから分かりますように任天堂中心ですが、何故そうなったかは次でご説明します。
具体的な手法(見なくても大丈夫です)
社員の漢字フルネームと入社年から学歴を推測することが可能です。具体的には「"氏名" 入社年」で完全一致検索を行います。他の業界で同姓同名の有名人もおりますため、その場合は関連キーワードを除外します。
この、社員の漢字フルネームと入社年を揃えるのは企業からの公開がなければ揃えられません。以下のパターンでは一気に難易度が上昇します。
- 姓のみ:数百人規模の開発が普通の昨今のコンシューマーゲーム開発で、同姓の人物は複数出てきます。一致させるのは困難です。
- ローマ字のみ:ローカライズの都合、スタッフリストで漢字掲載をやめる作品も多いです。こうなるとお手上げです。
- 入社年と顔写真のみ:採用サイト、ページでは一般的です。これでは何も関連付けられません。
- 入社年が分からない:最悪、最初に確認できたソフトの発売年から推測することはできますが速度と精度が大きく低下します。
任天堂とハル研究所の情報をそれなりに揃えられたのは以上のパターンを回避できたからです(ちなみに、任天堂関連の情報サイトではKyoto Reportがありますが、そちらの参考は数回程して辞めました。)
アーティストは卒業展示やコンテストの応募・受賞作品、プログラマーは情報処理学会やその他学会、研究室の報告が出てくれば入社後の発言と見比べ同一人物か判断します。ある程度同一人物だと言えるのであればカウントします。
つまり以降の表に出る方は同年に同じ企業に入社し、同姓同名で同じような学を修めた人物がいなければ合っていると判断しています。
この手法だけではゲームの専門学校は検索結果に載りづらい問題も出ますため公平ではありません。一部専門学校の卒業実績も見ておりますが、正直不十分です。
資料については以下を参照しています。
任天堂:仕事を読み解くキーワード(数名、Kyoto Report参照)
ハル研究所:ハル研ブログなど
カプコン:社員紹介
スクウェア・エニックス:社員インタビュー
モノリスソフト:インタビュー記事
その他:以上企業検索時に付随して出てきた資料を参照
学歴(全体)
先に出てきた学校を挙げていきます。
大学は83、大学院は33、専門学校は20(バンタンゲームアカデミー、HAL東京・大阪・名古屋も含めて)と出ています。サンプルがランダムではありませんため不正確ですが、大学院の進学率(2020年時点男性:14.2%、女性:5.6%)と比べると大学院の方が多いように感じます。
カプコン、スクウェア・エニックスなど
カプコン、スクウェア・エニックスは社員紹介、社員インタビューから見ておりますためそこまで出てきません。あくまで参考程度にしてください。
ただ、この時点で専門学校、大学、大学院と幅広く取られていることが分かります。
ハル研究所
元々調べていたこともあり、ハル研究所はデータがあります。アーティストは芸大、美大が多く、プログラマーは工業大学や理工学部、情報工学専攻が多いように感じます。ただ不利な条件ながらも専門学校卒もいらっしゃいます。
それに比べますとゲームデザイナーは多様です。この辺はゲームを作ることに特化する教育機関がまだまだ少ない現状(もしくはあっても知られていない)もあるのかなとは考えています。
ちなみにハル研究所はスクウェア・エニックスやカプコン、コナミデジタルエンタテインメント、コーエーテクモゲームスなどに比べれば規模は小さいですが、ここだけ見ても院卒は10名います。
任天堂
最後に任天堂です。メインディッシュ…です。一応。
他の企業と比べますと、活躍している人材という条件付となりますため大卒、院卒に偏っていると感じました。
多摩美術大学、東京藝術大学(大学院)、金沢美術工芸大学はアーティストではよく挙がります。一方プログラマーは理工学系で東北、群馬、香川など場所は複数上がりました。理工学系、情報学系は採用候補と言えます。
そして任天堂でもゲームデザイナーは出身校がバラバラです。
60名調べて21名が院卒というのもなかなか驚きです。院卒は就職がしづらいという話は度々聞きますが、そんな院卒も関係なく採用するのが任天堂でしょうか。学歴フィルターというのは無さそうですね。
ちなみに院と言っても修士と博士があり、多くは修士です。が、博士課程を修了した工学博士がHD振動の開発に関わったりと、次世代の研究を担う人材が任天堂に就職する事例もありました。
日本は学士で修了する人が多く、それが技術競争にマイナスをもたらしている云々みたいな話は聞きますが、数が少なく就職に弱いと噂される博士や修士がゴロゴロいるのが任天堂です。
日本のコンシューマーゲーム会社に入る人はどんな人か
まとめです。
- 大学院進学率を踏まえると大学院出身者が比較的多い。
- 不利な検索条件でも専門学校卒が見られる。
- ゲームデザイナーはどんな企業でも出身校は多様。
- アーティストは美大、芸大が中心。院卒も確認。
- プログラマーは理工学系、情報学系が中心。
- サウンドも少ないケースで専門学校、大学、大学院を確認。
技術や専門性を重視し、多様な場から人材を募集しようとするのがコンシューマーゲーム会社の特徴のように感じました。院もそうですがこのような不利な検索条件、つまり論文や展示がない専門学校生も見られるため学歴フィルターがないことが分かります。
まぁ本質的には"無駄"な娯楽で今後も企業活動を行うならば、属性や学歴でフィルターを用意して弾くことは今後の可能性を潰す悪手にしかならないことは予想できます。ただそう考えるとゲームデザイナーも出身校が多様な今から、例えば"ゲームデザイナー養成専門学校"のようなものが広く認知されたとしても、まともなゲーム会社はそこだけから取ることはないでしょう。何度も言います通り、様々な可能性を取るならば教育機関も多様性があった方がいい訳ですし。サウンドのように募集人数が少なくても専門学校、大学、大学院といる訳ですから。
ここまで見ますと、大学名などのブランドに囚われず、専門学校や大学院に入っても腐らず自分の目標に向けて頑張れる人というのがコンシューマーゲーム会社に入り、活躍されているのだと感じました。
さらにこの表だけだと分かりませんが、専門学校卒⇒ゲーム会社A⇒ゲーム会社Bという経歴もありました。ガチガチに鍛えられている院卒もいる中で新卒採用は難しくとも、キャリア採用(任天堂グループは中途とは言いません)を経由していくことも一つの方法です。一度業界に入ったことで経験蓄積や言語化もしやすくなりますし。
どこを出たかではなく、何をしたかで実績を積み重ねていき、その言語化を徹底し他者にも分かりやすく伝えられる人が採用される。と考えればまぁ普通なのですが、その普通をやっていくしかないのが日本のコンシューマーゲーム会社です。