『星のカービィ スターアライズ』(以下、スタアラ)が発売されて数週間経ちましたが、長い間カービィに触れている方であれば『スタアラ』を遊んでいるとこの映像が浮かんだことかと思います。
便宜的に星のカービィ GCと名付けられている、開発中止になった作品です。『星のカービィ スーパーデラックス』のヘルパーをそのまま4人プレイ用に拡張させたシステムは長い間話題になりました。このシステムは『星のカービィ Wii』ではいつでもイン・アウトを組み込みながらもヘルパーではなくデデデ大王、メタナイト、バンダナワドルディの4名に絞られていましたが、ご存知の様に『スタアラ』では遂に日の目を見ることになりました。先の映像発表は2004年、『スタアラ』発売は2018年ですので実に14年もの歳月を掛けて実現されたことになります。
この14年間に何があったかは殆ど分かっておりません。今回はその14年間についてできる限り考察し、今回至った結論「スターアライズをもってカービィは表舞台に戻った」を説明していこうと思います。 ちなみに本稿で語るハル研究所は山梨開発センターを指します。
GC後の経験(2004~2011)
2004年以降、ハル研究所が何を作っていたか列挙し、そこから彼らが主体となって制作した作品を探すとかなり限られていることが分かります。
- [2004/04/15]:星のカービィ 鏡の大迷宮(以下、大迷宮)
- [2005/03/24]:タッチ!カービィ(タチカビ)
- [2006/03/23]:ポケモンレンジャー(ポケレン)
- [2006/10/26]:監修 日本常識力検定協会 いまさら人には聞けない 大人の常識力トレーニングDS(常識トレ)
- [2006/11/02]:星のカービィ 参上!ドロッチェ団(参ドロ)
- [2008/03/06]:みんなの常識力テレビ(常識TV)
- [2008/11/06]:星のカービィ ウルトラスーパーデラックス(USDX)
- [2011/08/04]:あつめて!カービィ(あつカビ)
この内、ハル研究所主体で制作したのは『タチカビ』『常識力トレ』『USDX』の3作です。『大迷宮』『参ドロ』はフラッグシップ、『ポケレン』はクリーチャーズ、『あつカビ』は任天堂が関わっています。『常識TV』はスタッフリスト自体が不明です。*1
つまりカービィに限れば『タチカビ』と『USDX』が当時のハル研が自力で世に出せた作品でした。後にゼネラルディレクターとなる熊崎 信也は前者ではデザインやストーリー、後者ではディレクションを担当しました。また、両作品のプロジェクトマネージメントは阿部 哲也*2が担当しています。プロジェクトマネージャーがどのような仕事を行っているかはハル研ブログのこの記事が詳しいです。
このディレクターが熊崎、プロジェクトマネージャーが阿部の体制は2018年現在も引き継がれています。そのため、『星のカービィ GC』開発中止後のハル研は『タチカビ』と『USDX』という携帯機のチームで働いた2名が大きな役割を持っていたと言えます。同時に、据置機のチームからは結果を出せなかったとも言えるでしょう。
とにかく、2004年から2011年の7年間については
「ハル研究所は他社との共同開発に携わりながら、据置と携帯両方でカービィシリーズの開発を行った。据置はどれも開発中止に陥ったが携帯では成功し、そこで役割の大きかったディレクターとプロジェクトマネージャーを停滞していた据置カービィ開発に向けた」と考えられます。
Wiiをもってハル研は復活したのか?(2011~2018)
そして携帯機で経験を積んだ両名と共に『星のカービィ Wii』は遂に世に出ます。そこでハル研究所は復活した…とするのはとても分かりやすいですし、私も昔はそう思っていました。しかしその説を撤回し、今回新しい説に到達しました。
それは「E3出展やアップデートに関われなかったことを踏まえると、『Wii』以降もカービィは継続して世に出せる状態とは言えなかった」というものです。
きっかけはこのブログではお馴染みの『CONTINUE Vol.51』における神山 達哉の発言です。
神山:(中略)最新作の『星のカービィ スターアライズ』は「集大成」という気がします。ここ最近のカービィは完成の見極めが必要で、完成してから売る時期を決めていたんです。今回の最新作は完成する前から発売日が決まっていて、これはかなり久しぶりなことですし、僕らとしても作っている途中で宣伝して、反響を実感しながら作り込めているっていうのが初めてなんですよ。
出典:宮昌太朗(2018)「『カービィ』プロダクトのいま。」,『CONTINUE Vol.51』,P.148,太田出版
ちなみに同種の発言は『Nintendo Dream 2018年05月号』でもされています。(上は雑誌、下はkindle版です。)
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神山 達哉の言う「完成の見極め」を過去記事では殆ど考察しませんでしたが、これは素直に解釈すれば「その作品をどこまで作り込むのか、逆にどこを諦めるのかの取捨選択」となります。そのことを意識しながら今度は2013年、2014年、2015年のE3の動画をご覧下さい。
【E3 2014】Nintendo Digital Event
Nintendo Digital Event @ E3 2015
ご覧になってお気づきになったかと思いますが、王道カービィに当たる『トリプルデラックス』『ロボボプラネット』は紹介されていません。*3このE3欠場と先程の神山 達哉の発言が組み合わさるとこのような妄想が生まれます。
「『Wii』はなんとかできたが、ハル研も任天堂も納期を決めた中でカービィを作るのは取捨選択が厳しいと判断。よって、その時が来るまでカービィシリーズは作品が完成したと現場やプロデューサーが判断してからいつ売るか決めることにする。E3のように発売日設定を余儀なくされる展示会には出さず極力プレッシャーを与えない方針に。」
任天堂の主要タイトルである星のカービィシリーズを大規模な展示会に出さないのは不思議な話でしたが、こうすれば一応辻褄は合います。また、この妄想にアップデートの観点も付け加えると説得力が増します。
アップデートをしながら見極めができるか
『スタアラ』ではドリームフレンズがアップデートによって追加されましたが、特にサプライズを重視すると言われるハル研究所が今まで開発後のアップデートを行わなかったのは不思議なことです。3DSでも可能なのはカービィに限っても『バトデラ』が証明しています。
ですが『バトデラ』は東京開発センターが制作しています。こちらは任天堂との共同開発が常態です。山梨開発センターが何故『トリプルデラックス』や『ロボボプラネット』でアップデートをしなかったのか、こう考えられないでしょうか?
「アップデートを想定することで
- アップデートに任せて手抜きをするリスク
- アップデートに力を入れすぎて新規開発が滞るリスク
が顕在化することを恐れた」と。
ハル研にとって王道カービィの開発は社運を賭けた一大プロジェクトです。その巨大プロジェクトが何度も失敗した原因を、熊崎 信也は言葉を選びながらも「作品としてまとめあげるのが難しかった」出典:Nintendo Dream 2018年 05月号と述べています。
作品をまとめあげるために大事なもの、それが神山が述べた「完成の見極め」でしょう。どこまで実装するのか、どこを諦めるか判断できるか、2004年から2017年の13年間、『Wii』という成功例を経てもハル研究所は自信が無かったのではないかと考えられます。だからこそE3にも出さず、アップデートも行わず作品を作り上げていったのではないでしょうか。
『スタアラ』は始まり
そう考えると『スタアラ』は(途中で)納期を設定された中で開発を行い、アップデートを行いながら完成させる、ハル研にとっては2004年から長い間ハル研ができなかったことを成し遂げる機会であったと言えます。ゲームの仕様には星のカービィ GCのリベンジの一面がありますが、開発環境においても当時からの無念を晴らす面があると私は思います。
よって『スタアラ』を一言で例えるならば「2000年代のハル研がやりたかったけどできなかったことを、2000年代入社組が主導し2010年代入社組が多くを占める今のハル研が達成させた一つの到達点」となり、それが記事のタイトルである「スターアライズをもってカービィは表舞台に戻った」と発展していきます。こう言うと語弊がありますが、スターアライズでハル研は、任天堂や任天堂傘下の会社と同じ形で開発できたと言えます。
無論このハル研の前進も欠点がない訳ではありません。アップデートは期待と同時に失望を背負う構造的な欠陥がありますし、E3など展示会への出品は延期のリスクと隣り合わせです。しかし今のハル研はその中でも作品を完成させられると言える何かがあるのでしょう。覚悟を決めたハル研が作る様々な作品が、今後ゲームの世界を彩ってくれると思うと私はその時が待ち遠しいです。とりあえず2019年辺りのE3では期待してますね。