『カービィファイターズ2』(以下『カビファ2』と呼称)スタッフリストの考察を行っていきます。ちなみにですが、前作『スーパーカービィハンターズ』(以下『Sカビハン』と呼称)の補足も加わっております。
ハル研でもなければ、バンプールでもない社員が開発に加入
『Sカビハン』のスタッフリスト考察で、バンプールとの共同開発体制とお伝えしましたが、これがそもそも実像と異なっていることが判明しました。一々説明するのが面倒なので、『Sカビハン』『カビファ2』に関わった社員の履歴にある作品を画像で載せます。
ある社員がこれらに関わっていたというものですのでそこまで大きな関与ではないですが、ハル研のスタッフのみを調べてた頃とはだいぶ変わりましたね。
ちなみにバンプールの社員は以下の3作品がよく出ます。この辺りで区別をしております。
- 『なげなわアクション! ぐるぐる!ちびロボ!』
- 『ザ・ローリング・ウエスタン』
- 『いろづきチンクルの恋のバルーントリップ』
彼らが今どこに所属しているかは正直どうでもいいです。もしかしたらハル研やバンプールに転職されているかも知れませんし、フリーの立場でその案件にのみ協力しているとも考えられるでしょう(『Sカビハン』にいた人が連続性の強い『カビファ2』にいないことを踏まえるとその可能性が高そうですが断言はできません)。任天堂に転職してたまたまこの案件に協力して、そのスタッフリストのみが世に公開されているとも言えます。が、それはスタッフリストでは判断できません。
大事なのは、『星のカービィ Wii』以降今までカービィシリーズの開発経験を積んできた社員のみが作る星のカービィではなくなったということです。そういう「違い」が『星のカービィ 参上!ドロッチェ団』のように言われなくなった現在、私は上手くいっていると思います。外部のメンバーが入っていると言えど、メインのディレクターは東藤 由実さん、川合 匡史さんがいますし、プログラムでは長いことディレクターをされている大西 洋さん、デザインでも同じようにディレクターをされているファーマン 力さんがおります。ディレクションができる人材が不足して、現場をお任せにせざるを得なかった2000年代後半とは話が異なります。
細分化され、分業体制のデザイン
ハル研にも独自の文化があります。例えば「ディレクター」は本来監修が職務です が、ハル研の場合、企画と監修を一緒に行います。ですから、カービィはディレクターで色分けされることが多く、『ハコボーイ』シリーズも向江氏のシリーズと見なされやすいです(最新作の『ハコボーイ&ハコガール!』は鯉沼 拓氏がディレクターとなりましたが)。
これはご存じの方も多いでしょう。ほかにも、デザイナーはジェネラリストの傾向があるということも挙げられます。
まずはじめに、ハル研究所のゲームビジュアルデザイナーの担当分野は、明確に分業化されていません。
プロジェクトによって、3D、UI、エフェクト、キャラクターデザイン、背景デザイン、アートワーク、イラストと、多種多様なデザインに携わることができるのです。
実際にわたしも上記のほとんどを経験したのですが、なかでもゲームの広報アートワーク用に本物のねんどをこねてキャラクターを作ったのはとても楽しい思い出です。
ゲームビジュアルという枠にとらわれないところが「ハル研らしいなぁ」と感じます。
出典:ハル研クリエイターの勉強法 デザイナー編 | ハル研究所
デザイナーの「K」氏がハル研のデザイナーの担当分野について述べています。事実、スタッフリストでもデザイン、モチーフデザインの2種が基本で、近年だとUIデザインも加わります。作品のためであればカービィのように何でも吸い込み、取り込んでいくのがハル研のデザイナーです。一応『星のカービィ スターアライズ』(以下、『スタアラ』と呼称)では技術的な側面を強調したテクニカルデザインという担当もありましたが。
ところが『Sカビハン』『カビファ2』では担当が細分化されておりました。『スタアラ』と比較してみましょう。
『スタアラ』 | 『Sカビハン』 | 『カビファ2』 |
---|---|---|
デザインディレクター | デザインディレクター | デザインディレクター |
リードデザイン | リードデザイン | リードデザイン |
デザイン | モチーフデザイン | モチーフデザイン |
リードテクニカルデザイン | モチーフモデリング | キャラクター/アイテムデザイン |
テクニカルデザイン | キャラクター/アイテムデザイン | キャラクターモデリング |
リードモチーフデザイン | キャラクターモデリング | アイテムモデリング |
モチーフデザイン | アイテムモデリング | アニメーション |
テクニカルデザイン | エフェクトデザイン | UIデザインディレクター |
テクニカルモチーフデザイン | アニメーション | UIデザイン |
リードUIデザイン | UIコンセプトデザイン | |
UIデザイン | UIデザイン | |
UIデザインサポート | ||
11種 | 12種 | 9種 |
『カビファ2』ではある程度減少しましたが、それでも人数で圧倒的に多い『スタアラ』と2つぐらいしか変わりません。このように、デザインとモデリング、さらにエフェクトも別個で分けています。バンプールや多様な履歴を持つ社員との制作で明確に仕事を分けないと時間超過など環境的に悪影響を及ぼす…なんてことも考えられますが、まぁ根拠が弱いので断言はやめましょう。仕事内容で細かく分けている分業体制だということはよく分かりますが。
ハル研スタッフがカービィ未経験者を主導するUIデザイン
以下の記事で、現在の星のカービィシリーズのUIデザインに関わる剣持 紫氏がこのようなことを述べています。
その前に、剣持氏については説明が少ないので前歴をお伝えしますと、『星のカービィ Wii』でスペシャルサンクスとして初登場し、『星のカービィ トリプルデラックス』でUIデザインとして載り、『星のカービィ ロボボプラネット』でリードUIデザインへ昇格。『カービィファイターズ2』でUIデザインディレクターとなりました。2006年入社と判明しております。
ここ数年、初めてUIもしくはカービィUIに関わることになった人たちと仕事をする機会が増えてきました。その中で、長らく関わっている者にとっては当たり前のことになりつつあった、ゲームシリーズのUIを作るうえでの決め事や指針が、新しくカービィシリーズのUIを手掛ける人には、新鮮な驚きを持って受けとめられることが多くありました。
出典:CEDEC 2020 の講演をしてきました(ゲームUI編) | ハル研ブログ | ハル研究所
この記事が出た時は内容を精査できておらず放置状態でしたが、『Sカビハン』と『カビファ2』のスタッフリストを見ると、UIデザインには剣持氏以外カービィシリーズ経験者が1人もいないのです。
これは『スタアラ』と比較すると非常に分かりやすいですが、本当に剣持氏以外いないのです。
(後ろが〇だとハル研、×はそれ以外)
『スタアラ』 | 『Sカビハン』 | 『カビファ2』 |
東藤 由実 (リードUIデザイン、〇) |
押本 祐二 (UIコンセプトデザイン、×) |
剣持 紫 (UIデザインディレクター、〇) |
伊藤 春香 (UIデザイン、〇) |
佐川 誉 (UIデザイン、×) |
丸山 郁美 (UIデザイン、×) |
河田 茂幸 (UIデザイン、〇) |
杉山 真奈美 (UIデザイン、×) |
山田 吉紀 (UIデザイン、×) |
藤浦 昌 (UIデザイン、〇) |
鈴東 聖久 (UIデザイン、×) |
押本 祐二 (UIデザイン、×) |
塩野 佑莉 (UIデザイン、〇) |
谷江 美希 (UIデザイン、×) |
小林 友理 (UIデザイン、×) |
小野 早央里 (UIデザイン、〇) |
須崎 淳平 (UIデザイン、×) |
|
秋保 駿太 (UIデザイン、〇) |
剣持 紫 (UIデザインサポート、〇) |
多いスペシャルサンクス
あまり大した情報ではないですが、スペシャルサンクスがかなり長いです。会社であるグッド・フィールを入れると30と、『スタアラ』の23よりも多いです。その中には今までの作品に関わってこなかった方も入っており、ハル研の新人と考えられそうです。番号は便宜的に付与したものですので、どうでもいいです。
スタッフの並び順的に
- A社の社員の間にB社の社員が挟まることはあまり見られない
- 履歴不明のため、新人の可能性が高い
この2点から、デザイナーの北 健一郎(ラストサムライ・キタで思い出す方も?)氏から広報を務められている帯金 千恵子氏までの方はハル研所属だろうとかなり強めに推測しております。ただし、『ゴッドイーター3』『コードヴェイン』でSetup Technical Artを担当されていた妹尾 文香氏(開発はバンダイナムコスタジオとなっておりますが、彼女は株式会社フライトユニットの所属として載っています)はそこから外します。ハル研社員に挟まれていたことを見るに、恐らくハル研に転職されたのかとも推測できますが、フリーの可能性も否定できませんのでここは強く言いません。こう言うのは失礼だと重々承知の上ですが、ゲーム業界の転職においてハル研がどれ程の位置にあるのかよく分からないからです。
(プロコンを毎年開催し技術的な知見を持ち、プログラマーの地位が確立しているハル研はプログラマーにとっては魅力的かなぁと思ったりはしますが。)
ディスカバリーに向けて
『星のカービィ ディスカバリー』は『星のカービィ』初(要は本編のことなんですが、良くも悪くも社内の区別です。消費者が混乱するのは当然でしょう)の3Dアクションとして今までにない工程や作りこみが必要になります。そこは絶対に「妥協」できません。
他社にやってもらってどうにかなる所ではない以上、ハル研のスタッフを中心に、さらにゲーム開発経験者を中途採用してやれることは全て詰め込むように頑張ったのでしょう。
とはいえ、2019年、2020年にカービィの作品が1本も出ないのはIPの維持から見てもよろしくありません。大人になると1、2年は待てるものですが、小中学校でそれは関心から離れる原因です。娯楽がそこら中にある現代、忘れ去られた作品は好評不評(不評は忘却を加速度的に押し進めますが)以前に致命的な損失を引き起こします。カフェやグッズ、イベントが順調でも基本に変化がなければ限界が出てきます。
そこで既存のディレクターなど必要最小限のメンバーはハル研から出しつつも、現場の主要メンバーはハル研の社員以外で構成してゲーム開発を行ったと考えられます。そうすれば大本のメンバーは『ディスカバリー』に集中しつつ、カービィは知名度を保つことができます。職人的な気質を持つハル研究所がこのような選択をできたのは、これまでの社員育成や開発体制の構築・整備が功を奏したからでしょう。
そして、彼らの新たな結果である『ディスカバリー』のスタッフリストがどんなことになっているか。その考察は、30周年前日の4月26日に公開します(一か月も待てず、ベラベラ喋っていそうですが)。どんな陣容になっているか、私も非常に楽しみです。ブランクはありましたが、今後のハル研も生暖かい目で見ていきます。