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【考察】『ディスカバリー』と比較する『星のカービィ Wii デラックス』の音楽

『星のカービィ Wii デラックス』は2011年に発売された『星のカービィ Wii』のリメイク作品です。とはいえ、音楽方面でも評価が高い『星のカービィ』シリーズですから話題になります。

リメイク作品のBGMについては色々なアプローチがあります。以下はChat GPT-4にたずねた結果です。

1.音源や音色のアップデート
・元作品を現代の音源でアレンジ
・オーケストラやバンド演奏で再録音
・新しい楽器や音色を加えてバリエーションを増やす
・チップチューンやレトロなサウンドを使用して、懐かしい雰囲気を再現する
・サウンドトラックの一部をリマスターすることで、音質を向上させる

2.構成やメロディーの変更
・テンポや調子を変えて新たな雰囲気を作り出す
・元作品の構成を保ちつつ、新たなメロディーやハーモニーを加える

3.ゲームの進行や状況に応じた音楽の変化
・ゲーム内のシーンやキャラクターの進化に合わせて音楽もアップデート
・ゲームプレイの進行や状況に応じてBGMが変化するようにする

4.コラボレーションやカスタマイズ
・元作品とリメイク作品の音楽を融合させる
・有名アーティストや作曲家によるカバーやアレンジを導入
・プレイヤーがBGMをカスタマイズできる機能を提供

様々なアプローチが考えられる中、『Wii DX』では「音源をほぼそのまま使う」という選択となりました。AIが出すように音源や音色のアップデートはありますが、このような選択は珍しいと言えます。『ポケットモンスター』シリーズなどと比較するとわかりやすいですね。

今回は『Wii DX』の音楽について、スタッフクレジットの話も踏まえながら11年前のリメイクを送る形がどうなったのか、『ディスカバリー』と比較しながら見ていきます。

発売後1ヶ月経過してからの投稿のため、曲名は出しております。気になる方は控えて下さい。

また、閲覧の際は「【考察】『ディスカバリー』でカービィサウンドは世代交代したのか?」も併せてご覧いただけると理解がより深まると思います。
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前提:曲・効果音を一体とする、非常に珍しい形

『星のカービィ Wii DX』ではジングル含め200程度の曲が存在し、その曲は既にファンの間で話題になっています。しかし効果音については『星のカービィ』シリーズに限らず多くのコンピューターゲームで話題になりません。

ハル研究所のように一人が曲と効果音に携わる場合、曲と効果音では効果音の方が大変です。そのへんをリードミュージックの安藤氏は分かりやすく述べています。

多くの方はサウンドの仕事と言えば、真っ先に音楽制作(曲づくり)が思い浮かぶと思いますが、何千もの効果音や、キャラのボイスを鳴らすほうが作業としては重たく、大変だったりします。
ゲームで鳴る全ての音は、そのゲームの良い雰囲気を醸しつつ、ゲーム全体としても統一感を保つように「音のルール」作りをした上で、風味を揃えたり、「どんなタイミングや音量、仕掛けで鳴らすのか」を設計したりして、作った音が意図通りに鳴るようにプログラマーたちと共に実現させる必要があります。

出典:『星のカービィ Wii デラックス』の仕事 サウンドクリエイター編 強調は投稿者独自

Miiverseでも語っていますから、2014年の再放送でもあります。

どんなゲームでも、サウンドと言えば「BGM、音楽」のことがまずは頭に浮かぶと思いますが、実は、我々の仕事の大半は効果音を作ったり、調整したりすることのほうです。

特に最近のゲームは、登場キャラや仕掛けなども多く、そのひとつひとつが何種類もの効果音を必要としますので、1本のソフトに 1000種類以上の効果音があることも普通になってきています。
だから自分でも、どんな効果音を作ってきたかの把握が難しくなることもあったりして。

その効果音の中でも特に手間がかかるのは、実は「カービィ」が出す音だったりします。
カービィというキャラは、プレイヤーのお好みのコピー能力を、どのステージにも持っていけますから、様々な挙動の効果音が、他の仕掛けや敵キャラの出す効果音と混ざって分かりにくくなったり消えたりしないように、様々な配慮、苦労、工夫や調整が必要なのでした。
特に、カービィが最大4人も出て、好き勝手にワザを出しまくることのできる「カービィファイターズ!」なんて、まさに最悪!(笑)

逆に、手間はかかるけれども意外と難しくないのは、各ボスの効果音。
なぜならば、ボスは特定の場所だけにいて、一緒に出るキャラや仕掛けも少ないことがほとんどなので「作るだけ」でOKだから。

そんなわけで、音楽ばかりじゃなくて効果音もしっかりと味わってプレイしていただけたら幸いです。
出典:Miiverse スタッフルーム 強調は投稿者独自


原理的に効果音について語るのはなかなか難しい(ボス戦時のHPバー出現のピピピピピ…などわかりやすいものはありますが)ですが、そもそも曲と効果音を同じ人が担当することが珍しいです。例えば任天堂、ゲームフリーク、モノリスソフトはミュージック(コンポーザー)、サウンドデザインで分けるのが一般的です。海外はさらに分業が進んでおりますからわざわざ例を出さなくてもいいでしょう。

曲と効果音は一体であると捉えて作るハル研究所のやり方は"王道"ではありませんが、そのやり方がこだわりや今に至る評価を生み出しているのかもしれません(私自身、ハル研究所のやり方は"良い"とは思いますが、どの会社にもできるやり方とは思っていませんし、難しいと思います)

安藤氏と長い間『星のカービィ』シリーズの音楽を作り続けてきた石川淳氏は『キーボード・マガジン』2017年7月号で、この姿勢と絡むような挑戦的な発言をしています。長いですが、誤解のないように全部引用します。

--お2人にとって、ゲーム・ミュージックを作ることの面白さとは?

石川 私の場合ですが、効果音、BGMの区別を一切なしに、ディレクターと一緒に徹底的に作り込めることですね。例えば、こんなにいっぱい敵がいるんだったらテンポを変えようかとか、100回遊んだら和音が耳障りになるから別の和音にしようとか、効果音と混じった時にこの音では聴こえないからイコライジングをやり直そう、といったことができる。ミキシングやMAもやり直すことになるんですけど、それでもやっぱり違うっていうのを延々とやって磨き込んでいくんです。これは、どれかの作業を外部に頼んでいたらできない。ディレクターと二人称だからどこまでもやっていけるっていう。それは裏を返せば他人事にできないんですね。出来上がりを見て、あんな使い方をしているんだ、ダセーっていうことは、私たちにはないんです。どんな曲でも、どんな効果音でも、何でこんなふうに使われているんだとなったら、喧嘩したり衝突したりします。最終的にはお客さんが見るものなのだから、音も効果音も含めてすべて不本意があってはいけないんです。そこまでとことんやっていけるっていうのが、私にとってのゲーム・ミュージックの面白さだと思います。
出典:リットーミュージック編集部(2017)「ゲーム・ミュージックのメロディ職人たち」『Keyboard magazine』2017月号、p.61、リットー・ミュージック. 強調は投稿者独自

音楽全ての仕上がりを把握した上でそれぞれのBGM、効果音という部品を作り上げるという姿勢が見えます。この時安藤氏は全く別の回答をしておりますが、似たような観念は持っていると思います。

構造の問題ですが、音楽と効果音をまとめて作る形と、分業する形では前者のほうが石川氏のいう「不本意」は減ると思います。無論、それは音楽のことを総合的に把握する人材が必要なため人材確保の難易度は上がりますが。その難しさは『星のカービィ スターアライズ』オリジナルサウンドトラックのサウンドスタッフ座談会で熊崎氏が述べています。

これまでカービィのサウンドスタッフはなかなか増やすことができなかったんですよね。作れる曲のイメージがカービィに合い、カービィで求められる多種多様なジャンルに対応でき、またそれをゲーム音楽にするため音楽全般に深い知識もありながら、演奏についての技法も知っている……。
出典:「サウンドスタッフ座談会」『星のカービィスターアライズオリジナルサウンドトラック』、p.2. 強調は投稿者独自

ディレクターも難儀する王道ではない形でカービィミュージックが形作られていると知った上で、音楽や効果音を堪能するのもまた乙なものです。新しい発見があるかも知れませんし。

制作体制:安藤氏と下岡氏による分担か

遅くなりましたが、ここで『Wii DX』に本格的に入っていきます。この体制は『星のカービィ ディスカバリー』と比較すると違いが見えてきます。

星のカービィ ディスカバリー(2022) 星のカービィ Wii デラックス(2023)
リードサウンド リードミュージック
・小笠原雄太 ・安藤浩和
・下岡優希
リードミュージック
・安藤浩和 サウンド
・石川淳
サウンド ・櫨本浩
・石川淳
・下岡優希 ・小笠原雄太
・加藤優貴

『ディスカバ』ではリードサウンドに小笠原氏、リードミュージックに安藤氏でしたが、『WiiDX』ではリードミュージックに安藤氏、下岡氏という順でした。

比較すると、リードサウンド、リードミュージックの違いはなんぞや?となります。

『Wii DX』が『ディスカバ』と並行開発という話は前の記事で紹介しましたので分かりやすいですが、リードサウンドについて安藤氏は「総合的に全部の面倒を見る役」としています。安藤氏は『星のカービィ ロボボプラネット』から『星のカービィ スターアライズ』まで大体の作品でリードサウンドでしたが、『星のカービィ ディスカバリー』以降はリードミュージックになっています。

このことから、担当する範囲や責任の度合いとしては リードサウンド>リードミュージック となります。
『ディスカバ』では全体を小笠原氏が統括、『WiiDX』では安藤氏と下岡氏が分担という形でしょうか。原作には安藤氏と石川氏がいましたから下岡氏が主導的な役割をするよりかは一緒にした方がやりやすかったのかも知れません。

また、『WiiDX』では石川淳・櫨本浩と小笠原雄太・加藤優貴の組み合わせの間にスペースが設けられていますが、これは関与・貢献度の度合いが考えられます。表では省きましたが小笠原氏は『カービィのグルメフェス』でもリードサウンドでした。ミュージックフェスでも大原萌氏と一緒に動いていましたから『WiiDX』への関与が少なくなるのは必然です。

ちなみに最後の加藤優貴氏については情報が少なすぎて分からず、『WiiDX』の開発に携わったバンプールか、それともハル研究所の社員かどうかも定かではありません。

曲の割り振り:案外平等?

『WiiDX』は『Wii』と違い効果音はサウンドルームで聞くことができないため、『ディスカバ』のように比較していきます。その前に、安藤氏と下岡氏の曲をリストにしてお伝えします。

以下の曲が安藤氏担当の『Wii』になかった曲です。

番号 タイトル 担当者
16 シークレットエリア:HAL部屋(カービィのグルメフェス1) 安藤浩和
65 WELCOME TO THE MAGOLOR LAND! 安藤浩和
77 かちわった 安藤浩和
87 みつけて!マホロア図書館 安藤浩和
88 ドタバタ発見!マホロア図書館 安藤浩和
89 ガンガンブラスターズ:タイトル 安藤浩和
90 ガンガンブラスターズ 安藤浩和
91 カブーラー・リミット 安藤浩和
95 アトラクションリザルト 安藤浩和
135 たまごきゃっちゃ:タイトル(うら) 安藤浩和
136 たまごきゃっちゃ(うら) 安藤浩和
155 みつけて!マホロア図書館(うら) 安藤浩和
156 ドタバタ発見!マホロア図書館(うら) 安藤浩和
157 ガンガンブラスターズ:タイトル(うら) 安藤浩和
161 アトラクションリザルト(うら) 安藤浩和
165 マッチョ オブ デデデ 安藤浩和
166 ヒストリー オブ カービィファイターズ 安藤浩和
173 翠と風のリミックス 安藤浩和
174 紅と熱砂のリミックス 安藤浩和
175 蒼と零度のリミックス 安藤浩和
179 ココロノスガタ 安藤浩和
180 ソウル散る忘失の絶島で 安藤浩和
181 ココロ知ル喪失ノ航海ヘ 安藤浩和
184 王亡き樹冠のミストルティン 安藤浩和
186 あのパラレルを越えて、キミと 安藤浩和
187 異空ヲカケル旅人 安藤浩和
188 CROWNED(デデデ大王のデデデでデンZ) 安藤浩和
193 天を貫く絆の間 安藤浩和
197 覇王戴冠~OVERLORD~ 安藤浩和

次に、以下の曲が下岡氏担当の『Wii』になかった曲です。

番号 タイトル 担当者
17 ゴールトビラ 下岡優希
86 みつけて!マホロア図書館:タイトル 下岡優希
92 砂塵のスチールフィールド 下岡優希
154 みつけて!マホロア図書館:タイトル(うら) 下岡優希
158 ガンガンブラスターズ(うら) 下岡優希
159 カブーラー・リミット(うら) 下岡優希
160 砂塵のスチールフィールド(うら) 下岡優希
169 断罪のマルスプミラ 下岡優希
170 堕チテ、ハルかドンゾコニ… 下岡優希
172 VS.ラパリパルパーズ 下岡優希
176 トライアルドアーズ 下岡優希
177 激熱!エレメンタルボスバトル 下岡優希
178 かじつのカケラダヨォ! 下岡優希
182 VS.群れ成すローパーズ 下岡優希
185 アトシマツ ~Pay For One‘s Sin!~ 下岡優希
189 シークレットエリア:HAL部屋(カービィのグルメフェス2) 下岡優希
190 高きデンジャラスなファイナルへ 下岡優希
199 デラックスマスター! 下岡優希
200 Y. Y. WONDER MAGOLOR WORLD! 下岡優希
204 黄色く輝く遥かな星よ 下岡優希

分類は『ディスカバ』の時から少々変えています。具体的にはマップをなくし、流用の項目を追加しています。

  • ステージ
  • ボス
  • ムービー
  • サブゲーム
  • リザルト
  • テーマ
  • エンディング
  • 流用(新規)
『Wii DX』サウンドチーム担当曲の私的分類

『ディスカバ』では下岡氏がムービー、リザルトなど、小笠原氏がテーマやボスなど分かりやすい区分ができましたが、今作は櫨本浩氏と加藤優貴氏を表すと思われる白(鏡の大迷宮の方々も白表記ですが)以外、特リードミュージックの安藤氏と下岡氏の曲を使われた場面で分けても、似たりよったりの結果になります。流用には差がありますがこれまでの成果がある安藤氏と、それが少ない下岡氏では勿論変わってきます。

これは『ディスカバ』の時の分類と比較すると違いが鮮明です。

『ディスカバリー』サウンドチーム担当曲の私的分類

新作ということもあり、より分担をはっきりすべきだった『ディスカバ』と異なり、元作品が存在し、メインの作業は任せようとする安藤氏の姿勢も影響したのか、音楽もジャンルで分けるのではなく数で分けるようになったのではと考えております。

櫨本浩氏について

さて、先程の表で何も話さなかった櫨本氏について見ていきましょう。

みんなで決めるゲーム音楽ベスト100まとめwikiに基本的な説明を任せますが、彼はSigh Societyというユニット名義でアルバムも出しています

『Wii DX』の「わいわいマホロアランド」の多くの曲はサウンドルームでは白です。白ですと櫨本氏なのか、新たに入った加藤氏なのか分かりませんが、「わいわいマホロアランド」で流れる白の曲の多くはテクノの雰囲気を持っております。一撃!手裏剣道場やタッチ!早撃ちカービィなどは違いますが。

番号 タイトル 担当者
66 たまごきゃっちゃ:タイトル 櫨本浩/加藤優貴
67 たまごきゃっちゃ 櫨本浩/加藤優貴
68 刹那の見斬り 櫨本浩/加藤優貴
69 刹那の風 櫨本浩/加藤優貴
70 おちおちファイト:タイトル 櫨本浩/加藤優貴
71 おちおちファイト 櫨本浩/加藤優貴
72 けっかはっぴょう 櫨本浩/加藤優貴
73 爆裂ボンバーラリー:タイトル 櫨本浩/加藤優貴
74 爆裂ボンバーラリー 櫨本浩/加藤優貴
75 ギガトンパンチ:タイトル 櫨本浩/加藤優貴
76 ギガトンパンチ 櫨本浩/加藤優貴
78 スマッシュライド:タイトル 櫨本浩/加藤優貴
79 スマッシュライド 櫨本浩/加藤優貴
80 タッチ!早撃ちカービィ:タイトル 櫨本浩/加藤優貴
81 タッチ!早撃ちカービィ 櫨本浩/加藤優貴
82 一撃!手裏剣道場:タイトル 櫨本浩/加藤優貴
85 当てたマト数えて 櫨本浩/加藤優貴
96 わいわい!アトラクションツアー 櫨本浩/加藤優貴
98 マタきてネ!アトラクションツアー 櫨本浩/加藤優貴
171 頬ツタウ雨 櫨本浩/加藤優貴
183 Another Domination 櫨本浩/加藤優貴

個人的に顕著だと思ったのは183番の「Another Domination」です。「マタきてネ!アトラクションツアー」も分かりやすいかも知れません。櫨本氏は『スーパーカービィハンターズ』や『カービィファイターズ2』にも携わっていますが、ここまでテクノに寄った曲作りではなかったです。どうしてこのようなオーダーになったのか、非常に気になります。

ちなみに、テクノっぽさという観点から考えると171の「頬ツタウ雨」は加藤氏のような気もしてきます。事実、安藤氏は「効果音やボイスについてのメインの作業は他のスタッフに任せて」と仰っていますからそこに加藤氏が加わっても不思議ではありません。


このように、『ディスカバ』とはまた違った曲作りが為されていることが分かります。まぁ違うというのはそうなんですが、具体的に何がどう違うのか形にできるだけでも面白いとは思っています。