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【考察】『ディスカバリー』でカービィサウンドは世代交代したのか?

 『星のカービィ ディスカバリー』(以下、ディスカバ)発売から3週間が経ちました。様々な視点から評価される本作は、御なじみカービィサウンドへの評価ももちろんございます。『星のカービィ』シリーズは伝統的に音楽が好評であり、非公式アレンジ曲がグラミー賞を受賞するずーっと前から数多くのアレンジ、remix、考察が行われてきました(むしろその土台があったからこそと思いますが)。別に音楽の専門誌でもないForbesから『星のカービィ 夢の泉の物語』(1993)から関わる安藤 浩和氏がインタビューを受けるなど、その熱量は際立つものだと思います。

この『星のカービィ』シリーズの音楽は基本的に石川 淳氏と安藤 浩和氏が中心となって語られてきました。いわゆる、カービィの吸い込みとそのコピー能力がゲームの中核となる本編作品(『カービィのエアライド』(2003)が本編扱いになるため無理矢理な博物学的分類に過ぎませんが。)では両名が携わることが殆どだからです。そして本編最新作となる『ディスカバ』は両名に加え、小笠原 雄太氏と下岡 優希氏もカービィサウンドを彩っています。

今回は『ディスカバ』のサウンドについて考察していきます。ネタバレも考えて曲名ではなく、全開放での番号で言及します。「全開放での番号」で何を言いたいのか分かる方に伝わればそれで良いと思っています。

[1]:石川 淳と安藤 浩和

 石川 淳氏と安藤 浩和氏についてはこのブログでなくとも様々な媒体で解説されております。石川氏は『宇宙警備隊』(1990)よりゲーム音楽に携わり、安藤氏は『ハイパーゾーン』(1991)から始まりました。石川氏は学生演劇、プロのライブのPA、テレビの音声の現場の経験者から始まり、安藤氏はコンピュータでのゲーム制作を興味を持った際に『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』に触れて音楽を演奏するプログラムを作成し、それをハル研究所に送りました。入社年からカービィでは『星のカービィ』(1990)は石川氏のみ『星のカービィ 夢の泉の物語』(1991)で安藤氏も加わりました。

そこから多くの作品に音楽を提供するようになりました。両者の音楽の方向性の違いについて安藤氏が非常に分かりやすく説明しております。

基本的に、彼(注:石川)が単純で直接的な音楽を追究するならば、私達は複雑であいまいな音楽を必要とすると思います。そして彼が調性の質と音色に注力するならば、私(注:安藤)は楽譜と構造で創造的になりたいです。
出典:【翻訳】「カービィ・ミュージック:今猶ゲーマー達を吸い込む」【Forbes】 - Papen's Piling

単純と複雑では『星のカービィ スーパーデラックス』(1996)の「VS.マルク」のような曲が入らなくなってしまうため、後段の

  • 石川氏の調性の質と音色
  • 安藤氏の楽譜と構造

が違いであると考えられます。もっとかみ砕いて言うならば「石川氏は音そのものを見て、安藤氏は音符を見る」になるかと思います。勿論あくまで方向性であって、石川氏が構造を見ていない訳がありませんし、安藤氏も効果音との調整で音色を見るでしょう。特にエネルギーを費やす分野が違うという話です。

[2]:音符の色で違う

この発端は『星のカービィ トリプルデラックス』(2014)でした。

(省略)
また、再生時に上画面に音符マークがフワフワと出ていますが、ココにも秘密があります。BGMは2名のサウンドスタッフで作成していますが、初代「星のカービィ」からの担当者の曲は音符の色が「赤」に、「星のカービィ 夢の泉の物語」からの担当者の曲は「青」になっています。

ちなみに、私にとってのBGMベスト3は「赤」の方の24番と90番のステージ曲、「青」の方の決戦の曲…「狂花水月」という名の102番です。
担当者のテイストの違いを感じつつ聴いてみるなんて、楽しみ方もできますよ!』

とのことでした。
音符の色で作曲者を見分けられるなんて、びっくりしました!
なお、「サウンドルーム」は、「デデデでゴー!」をクリアするとオープンします。
まだの方は、ぜひ挑戦してみてください!
出典:Miiverse - イシダ's post | Nintendo

サービスを終了したMiiverseでは、『星のカービィ トリプルデラックス』を中心に、ディレクターはじめ様々なスタッフが数多くの投稿をスタッフルームに出していました。これはそのweb魚拓、アーカイブです。

この時の投稿により石川氏安藤氏のどちらが担当したのかはっきりと分かるようになりました。このシステムは『星のカービィ ロボボプラネット』(2016)、『星のカービィ スターアライズ』(2018)へと続きました。この形は本編、正確には企画ディレクションの熊崎 信也氏がサウンド監修を務める作品のみであり、例えばその間にあった『タッチ! カービィ スーパーレインボー』(2015)、『カービィ バトルデラックス!』(2017)にはありませんでした。

『星のカービィ スターアライズ』(2018)でをそのままに、新たに黄の小笠原 雄太氏を追加したことでシステムとして継続していることが分かります。

小笠原氏は特にギターを用いたサウンドに強く、サウンドトラックに付属するライナーノーツのサウンドスタッフ座談会にて「デス小笠原」の表現が登場してからは、そう呼ばれることもあります。本来の"デスマーチ"ではなく、"デスメタル"とかのデスにはなっていますが。

熊崎
それで小笠原さんには、効果音のリストと「このタイミングでこれを鳴らしてください」というプログラマーへの指示書も書いてもらいました。その仕事は『トリプルデラックス』あたりからは、私とプログラマーのマンツーマンで、二人三脚でやっていたんですけど。

小笠原
はい、今回の三魔官はいくつもリストを作りました。

熊崎
それがあまりにも細かく几帳面な指定だったので、いつしか三魔官担当のプログラマーの谷藤からは“デス小笠原”と呼ばれていたんです(笑)。1人目である青の三魔官が半分くらいまで仕上がったときに、赤の三魔官の膨大なリストがポーンときて。そしてその組み込み途中に黄色の三魔官がくるという恐ろしさを込め“デス小笠原”と呼ばれてて……(笑)

小笠原
あの……少しでも先行してやれればいいなと、何段階かに分けてリスト制作をやっていったんです。そうしたら組み込んでくれたプログラマーの谷藤さん、「七魔官までいる……!」という夢でうなされたとか……(笑)。

出典:https://www.hallab.co.jp/products/201801/

[3-1]:『ディスカバリー』で世代交代したのか?

そんな小笠原氏に加え、『ディスカバ』では、2019年に入社された下岡 優希氏も参加しております。そして音符による作曲者判別のシステムにより、「カービィサウンドは世代交代したのか?」という意見もチラホラ出てくるようになりました。

私は音楽に関する素養は持ち合わせておりません。ですが、自分ができる形で調べてみると「世代交代はしていない」と思いました。その話を残しておきます。

[3-2]:詳しく見る

確かに曲数だけ見ると

  • :47
  • :22
  • :14
  • :13

となり、緑が多いです。数だけ見れば世代交代説も納得できそうです。そこで、『ディスカバ』の曲の分類をやってみましょう。

試しでありますが、このような分類でやってみました。

  • ステージ:各地のステージ曲
  • マップ:ワールドマップ
  • ボス:各ボス戦
  • ムービー:ムービー中に流れる曲
  • サブゲーム:サブゲーム、トレジャーロードの曲
  • リザルト:戦闘後、控室の曲
  • テーマ:テーマとタイトル画面
  • その他:自宅やガチャルポン、ほおばりヘンケイ、無敵キャンディーなど分類が難しい曲

これははっきりとした理論がある訳ではありませんが、ステージ曲はギミックやコピー能力、敵が発する効果音、環境音など考慮すべき条件が他の曲と比べ飛躍的に増大します。敵キャラの攻撃の際の効果音を少し変えるだけでステージ曲の聞きごたえも変わってくるでしょう。無論、ボス戦もそうですし、ボス戦は「熱い」ものを求めるプレイヤーは多いでしょうからプレッシャーがかかります。

それに比べるとムービーやサブゲームは比較的プレッシャーが少なくなります(熱中するプレイヤーもいますからあくまで比較的にですが)し、考慮する条件も少なくなります。時間や必要な操作が制限されていますからね。

つまり、大雑把ですがステージ曲とボスはムービー、サブゲームと比べ"むずかしい"と言えます。

そんな個人的分類で、サウンドチームの担当曲を分けますとこうなりました。

『ディスカバリー』サウンドチーム担当曲の私的分類

下岡氏に特に多いのがムービーとリザルトです。ムービーはコントローラーを操作しませんので曲作りはムービーに合わせることに集中できます。つまり考慮すべき条件が比較的少ないと言えるでしょう。リザルトは設計上再生時間が短いです。よって、合った形にするまでの試行回数が比較的少なくなります。
条件が多く難しいステージ曲も76番、77番という特殊な条件下で流れるもの、14番の分類が難しいながらも無理矢理ステージにしたものが混じっていますので4曲にまで絞られます。ボスも分類が難しい65番、84番が混じっており、明確なのは3曲です。

"むずかしさ"で考えると比較的小さい(簡単とは言ってません)曲が多くあり、それで下岡氏の担当が多く見えたのではないか、私はそのように感じました。

一方、青の安藤氏と赤の石川氏は"むずかしい"ステージ曲が特に多く、ベテランの風格を感じさせます。黄の小笠原氏はボスが多く、彼の力強い音がプレイヤーを興奮させるのだな(50番に至っては既に熱いアレンジもできてます)と思いました。『星のカービィ スターアライズ』(2018)でも「異空をかけた(剣王との)戦い」や「ダークミラージュ」などがありましたし。

では下岡氏に強みはないのかと言われますと、勿論あります。それがマップです。ワールドマップで各ワールドを移動する際には基本のフレーズを保ったまま各地の雰囲気にあった音色に変わります。このような遷移の強い曲作りが得意なのではないかと思います。ムービーも場を繋いで前と次の場面を上手く合わせるためと考えると、これもまた遷移を目的とした曲作りが合います。

ちなみに下岡氏担当の14番はステージの移動状況でセクションが切り替わることは海外でも考察されております。安藤氏担当の15番含めての考察ですので、両者に何かしらの協力、やり取りがあったことは容易に推測できます。
www.youtube.com
英語ですが、非常に興味深い分析がされておりますので是非…。

[3-3]:条件の多少と遷移の強弱

 四象限で何かを表すことは物事を誤って見てしまいがちで注意が必要ですが、4名の特徴を表にするとこうなりました。

『ディスカバリー』サウンドチームの傾向

この条件と遷移の多少、強弱は優劣ではありません。方向性の問題です。遷移を強めれば強めるほど構造的に印象には残りづらくなりますし、条件が多いとそれだけ試行錯誤の時間が増えてしまいます。曲は必要な数を用意しなければいけませんし、条件と遷移が小さい曲作りもまた必要です。確固としたテーマは遷移が強くある必要はないですし、一挙に盛り上げるなら前の曲からガラリと変えた方が印象に残ります。

一言で表すならば

  • 条件は少ないものの、遷移が強い曲作りでプレイヤーを上手く誘導するの下岡氏
  • 条件が少なく、遷移を弱めることで作品のテーマ誕生に深く関与し、印象深いボス曲を作るの小笠原氏
  • 条件が多く、遷移を弱めることで数百回聞いても印象に残る曲を生み出すの石川氏
  • 条件が多く、遷移の強い曲作りでツボを押さえた確実な曲を生み出すの安藤氏

こうなります。言い訳がましいですが、あくまでこれは基本です。石川氏も(語るのに時間がかかりそうな)ボス曲を作りますし、小笠原氏も素晴らしいステージ曲(3番、45番)を生み出しています。もちろん下岡氏担当の55番も魅力的です。

ともかく、この4名がうまく方向性を変えて協力しつつも自由な曲作りも行った結果が『ディスカバ』のサウンドなのではないか、私はそう考えています。