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【考察】ハル研究所の今後は?事業内容の変遷から見る


 ハル研究所のwebアーカイブは調べつくし、これ以上の発掘はないところまできました。次にやるべきことは、資料を整理しあれこれ頭をひねって解釈を行っていく所です。
 今回はハル研究所の事業内容がどのように変わってきたのか、そして今後はどうなっていくのか見ていきます。

2000 「技術のハル研究所」

2000年がweb上で事業内容が載っている最古の年ですが、2001年以降と大きく異なります。ハル研究所の3本の柱が全てハード・ソフトの開発だからです。

  • ゲーム開発
    • 家庭ゲーム機のゲームソフトウェア開発
  • システム開発
    • ゲーム用システムソフトウェアの開発
    • 3Dグラフィックス全般の研究開発
  • ハードウェア開発
    • ゲーム周辺機器、デジタルエンターテイメント製品の開発

アニメが出るまではカービィのグッズ化に関しては明記すらされないものでした。やっていない訳ではありませんが、事業内容に載せていなければ優先度が高くないとみるのが普通でしょう。追加点は赤字変更点は青字で強調しています。

2001~2006 アニメと共に始まるプロデュース

  • デジタルエンタテインメント商品の開発
    • 家庭用ゲーム機のゲームソフトウェア開発
    • 電子玩具、ゲーム用周辺機器の開発
  • ゲーム制作システムの開発
    • ゲーム用システムソフトウェアの開発
    • ゲーム用3Dグラフィックス制作環境の開発
    • 3Dグラフィックス全般の研究開発
  • キャラクター開発
    • テレビアニメーションのプロデュース
    • キャラクターマーチャンダイジング

カービィというキャラクターをもっと広げるためにアニメのプロデュースとキャラクター開発という項目が誕生しました。それに加え、ゲーム用3Dグラフィックス制作環境の開発も行うように。sysdolphin辺りでしょうか。

2007~2017 アニメ終了後

  • デジタルエンタテインメント商品の開発
    • 家庭用ゲーム機のゲームソフトウェア開発
    • 電子玩具、ゲーム用周辺機器の開発
  • ゲーム制作システムの開発
    • ゲーム用システムソフトウェアの開発
    • ゲーム用3Dグラフィックス制作環境の開発
    • 3Dグラフィックス全般の研究開発
  • キャラクタープロデュース
    • キャラクターマーチャンダイジング

その後、中身が殆ど変わらない時代となりました。2007年の更新でテレビアニメーションのプロデュースが消えました。

2018~2021 内容を整理

  • デジタルエンタテインメント商品の開発
    • 家庭用ゲーム機のゲームソフトウェア開発
    • 電子玩具、ゲーム用周辺機器の開発
  • ゲーム制作システムの開発
    • ゲーム開発環境、支援ツールの開発
    • ゲーム機本体内蔵ソフトウェアの開発
  • キャラクタープロデュース
    • キャラクターマーチャンダイジング

10年近く内容を変えなかったハル研究所ですが、2018年よりゲーム制作システムの開発の部分を変更しました。3Dグラフィックス以外の部分の明記を行ったようです。Nintendo Switchの開発環境や本体内蔵ソフトウェアに関与したことを指しているのでしょうか。

実はハル研究所では、今回の Nintendo Switch の開発に、本体システムの一部であるWEBブラウザコンポーネント、Mii(似顔絵)ライブラリ、ゲーム向け開発環境・開発ツールなどの開発で参加しております。ちなみに、WEBブラウザコンポーネントは、Nintendo Switchのニンテンドーアカウントとの連携、Nintendo eShop、画面写真のSNS投稿等の機能に使われています。
出典:祝発売!Nintendo Switch | ハル研ブログ | ハル研究所

2022~ 外縁業務の明記

2022年よりハル研究所は事業内容を大きく整理しました。長年カービィシリーズに貢献し続けている熊崎氏が取締役になったのは大きなニュースですが*1、事業内容も実は結構変わっていました。

  • デジタルエンタテインメント商品の開発
    • 家庭用ゲーム機のゲームソフトウェア開発
    • 音楽、書籍等のゲーム関連商品の企画制作
    • 電子玩具などのハードウェア開発
  • デジタルエンタテインメント基盤の開発
    • ゲーム機等向けの各種ウェブサービス開発
    • ゲーム機本体機能の開発
    • ゲーム開発環境、支援ツールの開発
  • キャラクタープロデュース
    • キャラクターマーチャンダイジング
    • イベント、プロモーション等の企画制作

スマホゲームも対応するため家庭用ゲーム機「等」と広がりを持たせ、2つの項目が追加されました。どちらも昨今のワープスター社の動きを見ると明文化が遅かったのではないかと思うぐらいです。

詳細の比較

2016年よりハル研究所の業務内容について細かく記載するようになりました。中身は徐々に変わってますが、2022年との比較でも問題ないと考え一気にやっていきます。類似点はアンダーライン、違う所は赤字で強調しています。

デジタルエンタテイメント商品の開発

2016

面白さの本質を磨きあげ、今までにない発想で新しい楽しさにチャレンジする。「遊び手の気持ち」を大切に考え、自分たちの納得がいくまでしっかりと作り込む。初心者には遊びやすく、ゲームファンには奥深い楽しさを感じてもらえるものを作る。これがハル研究所のデジタルエンタテインメントです。企画からパッケージデザインまで、1本1本気持ちを込めて作り上げたハル研らしい作品は、世界中に驚きと楽しさを届けています。

2022

面白さの本質を磨きあげ、今までにない発想で新しい楽しさにチャレンジする。お客さまの気持ちを大切に考え、自分たちの納得がいくまでとことん作り込む。初心者には遊びやすく、上級者には奥深い楽しさを感じてもらえるものを作る。これがハル研究所のデジタルエンタテインメント商品の特徴です。コンシューマーゲーム、スマホゲーム、電子玩具など、どんな作品にもしっかりとハル研らしさを込め、世界中に驚きと楽しさを届けています。

ここはぶっちゃけ変化がないです。遊び手→お客さま、ゲームファン→上級者への変更、スマホゲーム、電子玩具の追加ぐらいです。

デジタルエンタテインメント基盤の開発

2016

ゲームの礎となるゲームエンジンやスクリプト言語、ツール類を自社開発。これらの環境により、ゲーム開発チームは高速に試行錯誤を繰り返すことができ、本来の仕事である“遊びの追求”に集中できるようになっています。また、任天堂プラットフォーム向けミドルウェアを、任天堂とハル研究所で共同開発。ユニークな技術の融合と人材の交流により、次世代に継承できる信頼性の高い開発環境を生み出すことに成功しています。

2022

任天堂プラットフォームを支える、各種ウェブサービスや本体機能(プラットフォームに内蔵されている各種ソフトウェア)、ミドルウェア等の一部を任天堂と共同開発しています。また、ゲーム開発に欠かすことのできないフレームワークやスクリプト言語、ツール類を自社開発。ユニークな技術の融合や人材の交流、クリエイターと同じ目線に立った開発体制から、新しいエンタテインメントが生まれる基盤を作り出しています。

2016年時点は遊びの追求に集中するための基盤でした。それが2022年からは新しいエンタテイメントが生まれる基盤となりました。中身は変わりません。その基盤が何のためにあるのかという意味が変わりました。遊びの追求のためにあるという効率の改善、100%を120%にアップさせる補助的な意味合いから、新しい遊びを生み出す基盤、1を生み出す土壌を作るという根幹としての意味合いへと変わったのです。

この基盤は社内だと環境開発部、スタッフリストだとテクニカルサポートに分類されると考えられます。このような縁の下の力持ちの存在を引き立て、正のインセンティブをもたらすことは「技術のハル研」をより強めるのではないかと思います。



キャラクタープロデュース

2016

ゲームプロダクトが生み出したキャラクターを、愛情を込めて育て、アニメキャラクター商品、イベントなどへと展開。ライセンシーに対して単に品質管理を行うのではなく、積極的に新しい提案や意見交換を行い、社内外の関係者と一丸となってモノづくりを進めています。今後もキャラクターのために何ができるかをとことん考え、地球サイズのキャラクター育成を目指します。

2022

ゲームプロダクトが生み出した、「カービィ」や「ハコボーイ!」などのキャラクター商品化業務を行っています。愛情を込めてキャラクターを育て、キャラクター商品、イベントプロモーションなどへと展開。自社発売の商品クオリティを高めるのはもちろん、ライセンシーに対しても単に品質管理を行うのではなく、積極的に新しい提案や意見交換を行い、社内外の関係者と一丸となってモノづくりを進めています。キャラクターのために何ができるかをとことん考え、地球サイズのキャラクター育成を目指します。

変化はないです。アニメがなくなってプロモーションが増えたぐらいです。2016年時点でグッズカービィが山ほど世に出ていますから、それから業務の大枠は変わっていないと言えるでしょう。

今後どうなるか

ここまで見てきて今後のハル研究所がどうなるか、見ていきましょう。
昨今のゲーム開発は大規模化が進み、『星のカービィ Wii』が1年半、『星のカービィ ロボボプラネット』が2年以内、『星のカービィ スターアライズ』(以下、スターアライズ)で2年以上と徐々に開発期間が伸びてきています。そして『スターアライズ』から『星のカービィ ディスカバリー』(以下、ディスカバリー)で丸々4年というように、高画質が要求され、システムの革新も行われるようになった今ではお金も人も時間も沢山必要になります。そうなると、ハル研は

  1. メインは山梨、東京関係なしに他社含め全力
  2. HALeggを通してディレクター人材の育成
  3. 他社と共同でカービィシリーズを継続して発売(一部ハル研社員+他社)
  4. ワープスター社はエンスカイ、三栄貿易、エイティング等ともにグッズ、イベント展開
  5. 音楽の商品化を積極的に


この5点が今後の軸になると考えています。
神田スクエアへの移転もあり東京ハル研も大きな開発力を持つようになりましが、山梨、東京一緒に開発するのが筋です。『スターアライズ』でジーアールドライブやTAなど他社の協力がありましたが、こちらも続けていくべきでしょう。
HALeggはコンテンツ創造も大事ですが、小規模でも企画を立案・監修できる人材をどれだけ育成できるかが大事と思っています。ディレクターを他所から手に入れようとするぐらいならば、自分達で育成するのが近道です。本気で商品化するならば昨今は継続的なアップデート、サポートが必要です。ですが『はたらくUFO』も『カメさんぽ』もそこまではやらず、あくまでも買い切りとしてケリを付けています。レッドオーシャンどころではないスマホゲームに挑むぐらいならば、目的が達成できればそれで良し(品質は勿論ですが)という姿勢が大事です。
他方、カービィシリーズを4年ごとに出していくようでは関心を継続できません。手っ取り早いのは他社との共同でダウンロード専用ソフトなどをリリースしていくことです。それを何故やる必要があるのかは前の記事で指摘しております。

大人になると1、2年は待てるものですが、小中学校でそれは関心から離れる原因です。娯楽がそこら中にある現代、忘れ去られた作品は好評不評(不評は忘却を加速度的に押し進めますが)以前に致命的な損失を引き起こします。カフェやグッズ、イベントが順調でも基本に変化がなければ限界が出てきます。

【考察】外部との共同開発も行うハル研『カービィファイターズ2』【スタッフリスト】 - Papen's Piling

他社が企画立案も含めて作品を出すよりかは、ハル研の社員が加わった中で他社にお願いする方が良いと思います。現状はバンプールが担当してますが、バンプールがカービィを作り続ける義務は一切ありません。今後他の会社と共同で関わることもあるでしょう。

商品化についてはもはや個人で追い切れる規模ではありません。規模が大きいのもそうですが、『ディスカバリー』でカービィカフェのメニューが登場したりと部署間の連携を行っているのも特筆すべき事です。

音楽の商品化は、カービィ・ミュージックとしてインタビューを貰うなど海外でも注目されている現状の反映でしょう。個人的にはApple MusicやSpotify等での配信を『星のカービィ ロボボプラネット』オリジナルサウンドトラックのようにやってもらいたいです。まぁ、今後のサウンドコンポーザーの方にはプレッシャーでしょう。ゲーム制作会社で音楽の商品化を明確な業務とするのはなかなか見ませんし。そもそもサウンドコンポーザーはBGMだけでなく効果音の調整も大事で、むしろ仕事のメインはそちらです。山梨開発センターの文化はそうなっています。

どんなゲームでも、サウンドと言えば「BGM、音楽」のことがまずは頭に浮かぶと思いますが、実は、我々の仕事の大半は効果音を作ったり、調整したりすることのほうです。 特に最近のゲームは、登場キャラや仕掛けなども多く、そのひとつひとつが何種類もの効果音を必要としますので、1本のソフトに 1000種類以上の効果音があることも普通になってきています。 だから自分でも、どんな効果音を作ってきたかの把握が難しくなることもあったりして。

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ここまで色々考えましたが、改めて見ると復習に近いなとは思いました。とにかく『ディスカバリー』が楽しみだからこんなことやっているんですけどね。

*1:勤続20年程度で取締役は、川瀬 滋史氏も同じくらいですので特に異例でもないです。