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【考察】ハル研の貸借対照表を見てみよう


 貸借対照表はその会社の決算日時点の資産、負債、純資産が分かります。ハル研究所は2002年より貸借対照表を公開しております。
私は経営の専門ではありませんが、そんな素人でも色々面白いことが分かりましたので見ていきましょう。

貸借対照表って何?

 貸借対照表はその会社の決算日時点(ハル研の場合は3月31日)の資産、負債、純資産が分かります。


これは2021年のハル研究所の決算です。資産、負債、純資産についてざっくばらんに言ってしまうとこうなります。

  • 資産:現金か、売ればお金になるもの
  • 負債:借金
  • 純資産:会社のお金

この資産は負債+純資産です。借金が資産?と思われるかも知れませんが、100万円借りたらその100万円も大事な資金です。この辺りは家計簿と違う所です。

これを無理矢理(!)強引に言うと

資産は会社が現在持つ攻撃力で、負債・純資産はそれが他のメンバーのものか、自分のものか

というものです。今の攻撃力が立派でもそれが他のメンバー提供が殆どだとしたらその会社の状況は良くないです。
まぁ、ここから実は攻撃力(資産)におんぼろな剣(売れなくなった商品)が混じっていて実際の数値と乖離することもあります。結局その会社の自己申告に過ぎません。見込み違いや能力不足、悪意を持った改変があっても告発などがない限りは分かりません。

それ以外の用語については適宜解説していきます。ちなみに著作権について言われるかも知れませんが、官報掲載物は基本的に著作権がありません。まぁ営利ではやめてくださいよと言われてますけどね。このブログは収益化しませんしする予定もありません(広告非表示だの独自ドメインだので金は飛びますが)。

ハル研究所編

 今回はハル研究所のほかに、星のカービィの知的財産権を管理する株式会社ワープスターも一緒に見ていきます。ちなみにワープスターは設立年の2002年より決算を公開しています。ハル研究所がワープスターに合わせて一緒に公開した、と解釈するのが自然そうですね。

全く問題ない経営基盤

 貸借対照表においてまず最初に見る指標が「自己資本比率」です。これは自分の資産が借金か株主資本かどうかを見ています。基準として40%もあれば順調、50%以上はまず問題がないです。そんなハル研究所の自己資本比率は、2002年から2021年までの平均で87.8%です。つまり資産の87.8%は自分で稼いで得たお金となります。


緑(一番上)が自分で稼いで得たお金、黄色(真ん中)と橙(一番下)が借金で得たお金です。何の問題もないですね。官報決算データベースのゲーム制作会社にも様々なゲーム会社の決算が載ってます。それらと一緒に見てみましょう。

  • コナミデジタルエンタテインメント(遊戯王シリーズ、パワプロシリーズ、桃太郎電鉄シリーズなど):63.9%
  • モノリスソフト(ゼノブレイドシリーズなど):67.1%
  • Cygames(ウマ娘 プリティーダービー、プリンセスコネクト!Re:Diveなど):71.1%
  • デジタルハーツ(デバッグ・テスティング):65.6%
  • ディースリー・パブリッシャー(SIMPLEシリーズ、地球防衛軍シリーズなど):75.8%
  • アークシステムワークス(GUILTY GEARシリーズなど):67.3%
  • スパイク・チュンソフト(ダンガンロンパシリーズ、ローカライズなど):47.2%
  • ポリフォニーデジタル(グランツーリスモシリーズ):88.6%

大小様々な規模の会社を出してみましたが、安全圏の47.2%が低く見えてしまうほど、基本的にゲーム会社は自己資本比率が高めです。

積み重ねる資産

その資産は増減あれど、徐々に積み重ねてきています。2012年に40億を、2015年に50億、2019年に60億を超えており、2021年時点では68億円を保有しております。規模感としてはモノリスソフト(58億円)が近いです。盤石な経営基盤形成でも大規模な投資でも資産は大事です。今後も期待していきたいですね。

減り続けていた固定資産

さてその資産ですが、実は増えているのは流動資産で、固定資産は2019年まで漸減基調でした。

固定資産は土地、設備などです。土地を沢山保有しているとは想定しづらいので設備を減らしていたと予想できそうです。ハル研は2003年までに『大乱闘スマッシュブラザーズDX』や『カービィのエアライド』など新機軸導入や莫大な工数が必要な作品を出していました*1。その時代にはそれだけ様々な固定資産、設備を持っていたと考えられそうです。以降、フラグシップなどの外注作品が増えましたので必要がないから固定資産を減らしたのか。それとも利益があまり出ないから固定資産として運用するのを諦めたのか。

そんな固定資産も2020年から増加を始めています。2022年の決算は6月~8月頃に出ると予想されますが、その時にどうなっているか楽しみですね。6日間だけとはいえ『星のカービィ ディスカバリー』の利益も入るでしょうし(どうでもいいですが、カービィが3月によく出るのは決算反映に間に合わせたいというのもあります)。

多い資本準備金

さて決算を見てみると不思議なことがあります。それは資本準備金です。2021年時点では資本金が8000万円なのに対して、資本準備金は1億6300万円でした。実は会社法という法律にはこんな規定があります。

(資本金の額及び準備金の額)
第四百四十五条
株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。
出典:会社法 | e-Gov法令検索

法律って読みづらいですよね。要は資本金の半分の額を資本準備金にできますよということです。ところが、ハル研究所は資本金8000万円なら4000万円のところ、1億6300万円もあります。

これは法律違反ではなく、「減資で中小企業の税制優遇を受け、同時に積立金も残した」が真相だと99%思っています。

実はハル研究所は2016年まで資本金が2億4000万円でした。先ほどの規定は立ち上げ時にのみ反映ですので、会社を作った後に資本金を減らしてその分を資本準備金に入れておくことは問題ありません。日本の法律では、資本金が1億円以下ですと中小企業と見なされ、中小企業限定の税制優遇が受けられるようになります。その優遇を活用しようと考え、資本金を減らしてその分を資本準備金に入れたのでしょう。

1990年のハル研究所は…

 ハル研究所は2002年から決算公告を毎年出していますが、実は1990年に一度出していました。これは千葉県印旛郡(当時)にありました岩崎メカトロニクス株式会社と合併したからでしょう(普段決算を出さないゲームフリークも合併時には出しました)。

自己資本比率は21.1%でした。一応流動資産で流動負債を賄えています(流動比率といい、これは140%と正常です)が、基盤は明らかに安定していませんでした。しかもこの後山梨開発センターを建てるのですからここに土地購入費が入ってきます。…どうやってやり繰りする気だったのでしょうか?

ワープスター編

ハル研究所は任天堂との持分法適用会社として株式会社ワープスターがあります。ワープスターはカービィの知的財産権を管理している会社です。要は「任天堂とハル研がお金を出し合ってカービィを管理しています」ということです。元々はアニメ版『星のカービィ』管理のための会社でした。

借り入れで始まり、自己形成に移る

自己資本比率ですが、設立間もない会社がいきなり自分の資産だけでやっていけることはあまりないです。最初はお金を借りてスタートするのが大体です。

アニメ放映中は資金を借り入れていましたが、終了後はその必要がなくなったのか負債を返済してからは借金をやめて自力での資産形成に移っています。そんなワープスターの資産は2019年に6億まで到達しました。その後赤字が発生し減少しましたが。

ワープスターは2021年に5200万円の赤字となりました。今までは1億程度の黒字でした。2020年も400万円の赤字を出していますのでコロナ関連でできなかったイベントの損失もあるのかなーとは思ってます。

2022年はどうなるか

2022年の決算が出ましたらなるべく早めに情報をお出しします。『星のカービィ ディスカバリー』はAmazonの売れ筋ランキング(ゲーム)で1位を取るなど順調ですので、決算判定までの6日間と言えど数字で現れてくるかと思います。商品を作るのには人とお金と時間が必要です。その内お金は決算公告などのIR情報で、人は会社情報や公開情報、時間はタイトルリストからの推測で大雑把ではありますが分かります。

私は今後もクリエイティビティと共にそこも見ていきます。貸借対照表を見る記事はモノリスソフトもやっていこうかと思います。今年は色々な作品も出ますので忙しくはなりますが…。

*1:ハル研のブログで一か月家に帰れないなんて愚痴も…