Papen's Piling

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【考察】『マリオカートワールド』開発陣から見える変化と継承

2025年6月5日にNintendo Switch2が発売され、新ハード特有のお祭り騒ぎとなりました。

日本でも初週で94万台販売されたという推測値も出たことから、今後このお祭りは続きそうです(私は執筆時点でまだ手に入れられていません)。

さて、スタッフを見るこのブログでは早速ですが、Nintendo Switch2のローンチタイトル『マリオカート ワールド』を掘り下げていきます。

見てみると『マリオカート8 デラックス』の時とはまたずいぶん様変わりしていますよ。

今まで忙しい人向けのまとめを作ってましたが、今回はそんなに文字数ないので省略してます。

マリオカート8 デラックスの場合

まず、過去を振り返りましょう。

2017年4月28日に発売された『マリオカート8 デラックス』(以下、8DX)の時はゲームデザイン18名、プログラミング72名、アート73名という規模でした。

以下の画像は「任天堂のSwitchタイトル制作陣を振り返る(総合編)」で記事にしたものです。

当時の記事

それに合わせて、8DXの開発陣のほとんど(約80%)が2014年5月29日に発売された『マリオカート8』にも参加しておりました。 なので開発陣は8DX ≒ 8 です。追加コンテンツをプラスしてる作品ですから当然とも言えるかも知れませんが。

"マリオカート"+"ティアーズ オブ ザ キングダム"のアート

では『マリオカート ワールド』はどうなったかと言いますと、人数では増加してます。

【マリオカート ワールド 開発規模】(カッコ内は8DX)

・ゲームデザイン:22名(18名)

・プログラミング:86名(76名)

・アート:192名(73名)

・合計:303名(8DXから140名増加)

部門 ワールド 8DX 増減
ゲームデザイン 22 18 +4
プログラミング 86 76 +10
アート 192 73 +119

全体的にアートでの人員増加が目立ちます。 「世界をひとつにつなげる」オープンワールドとしてのレースゲーム故、必要な物量は大幅に増加していることはプロデューサーの矢吹氏も述べていますのでこれは納得しかありません。 むしろ、3倍弱の人員増加でどうにかなったことの方が驚きです。

では、それは『8DX』、あるいは2022年3月18日より配信開始された『マリオカート8 デラックス コース追加パス』(以下、コース追加パス)からの人員かというと全く異なります。 もっと言うとリーダーですら『8DX』『コース追加パス』経験者は少ないのです。

先ほどのアート192名の内

  • フィールドデザインは88名(リーダー、フィールドテクニカルデザイン含めて)
  • キャラクターデザインは57名(リーダー含めて)

いますが、

フィールドデザインで『8DX』経験者は6名、『コース追加パス』はわずか1名

キャラクターデザインで『8DX』経験者は3名、『コース追加パス』は1名もいません

しかし、2023年5月12日に発売された『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、TotK)の経験者で見ると

  • フィールドデザインに12名
  • キャラクターデザインに19名

います。

つまりディレクター陣は開発者に訊きました : マリオカート ワールド|任天堂でも分かるように『8DX』経験者で占められる中、現場はリーダー含めマリオカートは初めての方が多かったことになります。

全員が『8DX』経験者

任天堂、バンダイナムコ、IMAGICA GEEQ、モノリスソフト、1-UP スタジオ

そんな『マリオカート ワールド』のアートはモノリスソフトが関わっていることで話題になりました。

ただモノリスソフト以外にもマリオカートでおなじみのバンダイナムコスタジオもいれば、IMAGICA GEEQ、1-UP スタジオもいます。

IMAGICA GEEQは2023年にイマジカデジタルスケープのゲーム関連事業を抜き出して設立された会社です(イマジカデジタルスケープは今後はWeb映像関連・人材マネジメント事業を行う)。 corp.dsp.co.jp

それぞれの企業のメンバーはスタッフリストでも固まって配置されているため、順番も掴みやすいです。

調べると見出し通りに、任天堂、バンダイナムコ、IMAGICA GEEQ、モノリスソフト、1-UPスタジオとなります。

モノリスソフト、1-UPスタジオは子会社のため順番が後ろなのかも知れません。

ちなみに特定する方法ですが、それぞれの企業の実績をクロス表にすることで大体分かります。

各社の実績

イマジカデジタルスケープ時代に『Pokémon LEGENDS アルセウス』に関わり、その後モノリスソフトに転職して『マリオカート ワールド』に携わった…というパターンも考えられますため、万能ではありませんが大凡の特定には役立ちます。

フィールドデザイン担当だったから次もフィールドデザイン…じゃない!

任天堂以外のアート担当を見ると面白いことが分かります。

それは、モノリスソフトでキャラクターデザインを担当した方は、『TotK』ではランドスケープアートを担当しているケースが見られるのです。

前回フィールド(ランドスケープ)デザインだったから今回も…とはなっていません。

もちろん続投の方もいらっしゃるので数を調べると以下の通りになります。

  • 『TotK』でランドスケープ担当→『マリオカートワールド』でフィールドデザイン:5名
  • 『TotK』でランドスケープ担当→『マリオカートワールド』でキャラクターデザイン:16名

キャラクターデザインの方が人数は少ないのにも関わらず、モノリスソフトが集中的に配置されていてしかも過去作ではランドスケープ担当なのです。

アート部門の領域横断的なスキル保有、チームの人員配置・開発事情による最適化などいくつかの理由は考えられますが、こうやってリストを見るだけでも単純な話にはならないのが面白いです。

コース追加パス経験者が多いプランニングと疑問

ゲームデザイン、任天堂的には「遊びづくり全般」を担当するプランニングですが、こちらは『コース追加パス』の経験者が多いです。

プランニングディレクター、プランニングリーダー、プランニングの3つ合わせて21名いますが、内12名が『コース追加パス』経験者です。(約57%)

ただし『8DX』経験者は4名と少なく(約19%)、『8DX』の時代からスタッフは大きく変わっていることが分かります。

『マリオカート ワールド』は2017年3月に試作開始、年末に正式スタートですから『8DX』のスタッフがいてもおかしくはないはずです。

矢吹

『マリオカート8 デラックス』開発中から

「次のマリオカートをどうするか?」を考えていて、

2017年3月に試作を開始し、その年末に

プロジェクトとして正式スタートしました。

開発者に訊きました : マリオカート ワールド|任天堂

『8DX』の後スタッフが大量に離職したという噂も聞いておりませんし、もしそんな噂があれば海外のウォッチャーがすぐに知るはずです。

なので必要な時に必要な人材を確保する際に、過去作の履歴は特に気にしていないと考えられます。

"マリオカート"+"ティアーズ オブ ザ キングダム"のプログラミング

ゲームの駆動に不可欠なプログラミング担当は88名おります。

ただ2001年7月21日発売の『マリオカートアドバンス』(GBA)から基本的にプログラミング+サポートという構成のため、ここを分けて考える必要があります。

  • プログラミングは37名(ディレクター、リーダー含めて)
  • プログラミングサポートは38名

の構成で、

プログラミングで『8DX』経験者は9名、『コース追加パス』は11名、『TotK』は3名

プログラミングサポートで『8DX』経験者は11名、『コース追加パス』は3名、『TotK』は15名

でした。主担当とサポートで『コース追加パス』と『TotK』で差が出るのは非常に面白いです。

なお、『8DX』時は主担当は『8』、サポートは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』経験者だったため結果的には同じ形となっています。

その他細かな点(サウンド含む)

  • サウンド、特にBGMは『8DX』の8名からリーダー含めて4名に半減しています。それであの曲数を実現していることになります(効果音は4→8名に倍増)
  • バンダイナムコスタジオは31名を確認(推測含む)。キャラクターデザイン、フィールドデザイン、テクニカルサポートなど幅広く関わっています。なお、プランニングに2017年発売『マリオスポーツ スーパースターズ』(3DS)のディレクターの1人、山崎正通氏がおります。
  • IMAGICA GEEQは13名を確認(推測含む)。フィールドデザインが主でそこだけで11名います。
  • モノリスソフトは30名を確認(推測含む)。フィールドデザインとキャラクターデザインが主で、最多はキャラクターデザインの20名です。
  • 1-UPスタジオは24名を確認(推測含む)。フィールドデザインが主でそこだけで19名います。
  • スペシャルサンクスにアーツビジョンと賢プロダクションがクレジットされております。ボイスアクターに該当者がいると思いますが、海外の方も混じっています。
  • 『8DX』のディレクター白岩祐介氏は本作ではプログラミングサポートに載っています。
  • 『8DX』『コース追加パス』までプロデューサーだった紺野秀樹氏は本作ではスペシャルサンクスの最後に載っています。
  • 『TotK』の関わりで言うと、プログラミングサポートにプログラミングディレクターの奥田貴洋氏とテクニカルディレクターの堂田卓宏氏、デザインサポートにアートディレクターの滝澤智氏がおります。(『8DX』時は堂田氏のみおりました)

"ゼルダ"と深まるマリオカート

マリオカートシリーズにゼルダの伝説シリーズの影は近年になってからみられる現象です。

『8DX』ではプログラミングサポートから始まり、『マリオカート ワールド』ではフィールドデザイン、キャラクターデザインにもゼルダの伝説経験者が出てきました。

ただしそれはアセットといった量を必要とする部分であり、例えば『TotK』のゲームデザイン担当がマリオカートにも…というケースは見られません。

オープンワールドだからモノリスソフト、ゼルダの伝説のような単純な式は成立しません。

それぞれのゲームデザインやプログラミングはほぼ独立する中、アセット作成では必要な時に必要な人材を融通し合えるような形が作られていることが分かります。 (これ以上書いても蛇足ですが、SIEも同じような構造が作られているようですね)

今後、任天堂が大きな規模の作品を出す場合、量を必要とする分野においては子会社や他社の人材を活用して管理する形が目立ってくるでしょう。

Switch2はまだ始まったばかりであり、今後任天堂は沢山のソフトを世に送り出すでしょう。それらもこうなっているのか、あるいはまた違う形になっていくのか。

これからもゆっくりとしたペースですが、調べていきたいです。