Papen's Piling

主にコンシューマーゲーム会社を調べる所

スタッフリストで読む『メトロイドプライム4 ビヨンド』― レトロスタジオ版「任天堂式AAA」の中身

今作は『メトロイドプライム4 ビヨンド』(以下、プライム4)のスタッフを見ていきます。

本作は久々のレトロスタジオによるメトロイドプライムシリーズ本編ということもあり、注目は大きいです。

特にレトロスタジオは『メトロイドプライム3 コラプション』(以下、プライム3)でコアメンバーの離職があったことから、その後どのようなスタッフが入っていったのかが海外では特に分析されていました。Haloシリーズで有名な343 Industriesやバトルフィールドシリーズなどシューターゲームの経験者が移籍したという話もありましたし、VGCは2023年に発売された『メトロイドプライム リマスタード』(以下、プライムR)のレトロスタジオのスタッフを一人ずつ調べていました

(これは私もやっていましたが。改めて見ますととても見づらいです) www.papenspiling.com

全体を見ますと、プライム4は「任天堂式AAA レトロスタジオバージョン」という所感を抱きました。

ここではレトロスタジオだけでなく、開発協力の会社についても見ていき、どうしてこのような開発体制になったのか。そして、なぜ実現に至ったのかについてある程度の妄想も含めながら考察していきます。

先に2点注意事項をお伝えします。

  • 未プレイのため、今回は制作体制の観点でのみ見ていきます。
  • 精査はある程度行っておりますが、人数の数え間違えや担当の解釈ミスはあると思います。

人数と規模(プライムRから2倍強、TotKとほぼ同じ体制)

プライム4は全部数えると1009名が携わっておりますが、ゲームデザイナー、プログラマー、アーティストのみを数える形では

  • プライムR:312名(11+46+255)
  • プライム4:569名(27+79+463)

となります。

作品 合計 ゲームデザイン プログラマー アーティスト
プライムR(2023) 312 11 46 255
プライム4(2025) 569 27 79 463
TotK(2023) 508 52 126 330

この規模は『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、TotK)とほぼ変わらないです。つまり、任天堂の大作、いわゆるAAAに相当する開発と言えます。

人数だけで言えばそうですが、TotKと比べるとゲームデザインの数は少なくアセットやライティング、モーションキャプチャ、シネマティクス、VFXにさらに特化したと言えます。

私はプライム4のレビューなどは特段見ておりませんし、プレイ動画も任天堂公式のものを少ししか見ておりませんが、この感じから考えますと、恐らくプライム3時代とゲームのレベルデザイン、プレイヤーが感じるゲームの進め方は当時とあまり変わらないと思います(現代相応のリファインはされていると思いますが)

ここで注意すべきなのは、「レトロスタジオ」自体は数が175名ということです。レトロスタジオでクレジットされている方は全体で309名おりますが、contract~から始まる、恐らく外部委託の方や、QA、ローカライズ、プロデューサー群を除くと、ゲーム開発で想像されるであろう方は175名という数になります。

つまり、プライム4は

  • レトロスタジオの開発本体:175名
  • 外部委託、QA、ローカライズ、プロデューサー:134名
  • それ以外の協力会社:490名
  • 任天堂(グループ会社含む):197名
  • キャスト:13名

という構図です。

メトロイドプライム4スタッフの内訳

多くのメディアがレトロスタジオのスタッフに注目して「このひとは前Haloでこんなのやってて~」「この方は前Battlefieldでこういうポストを担当していた~」と分析しておりましたが、残念ながら、その再発見こそできましたが、新たな発見はありませんでした

プライム4の開発で確かに人は増加しましたが、中核であるレトロスタジオの人員は劇的には増加していないのです。

各部門の確認

今回は他シューターゲームからの転職を考えて以下の作品のスタッフも見ています(ただ、結果から言いますとほぼ無駄でした)。

  • Battlefield V (2018)
  • Anthem (2019)
  • The Outer Worlds (2019)
  • Halo Infinite (2021)
  • Call of Duty Vanguard (2021)
  • The Callisto Protocol (2022)

プライムR、または『ドンキーコング トロピカルフリーズ』に携わった方は経験者としています。

ゲームデザイナー(27名)

ゲームデザイナーは27名中、経験者は10名です。

  • Design Department_Design Director
  • Design Department_Principal Designer
  • Design Department_Environment Designers
  • Design Department_System Designers
  • Design Department_Technical Designers
  • Design Department_Contract Technical Designers
  • Production Department_Contract Senior Design Producer
  • Next Level Games_Game Designers

他の経験者については別個に見ていきます。経験者の深堀りはしません。

Environment Designers(環境デザイナー 5名)

  • Nestor Anthony Hernandez:プライム4以外の情報不明
  • Scott Hafner:Obsidian Entertainment開発の『The Outer Worlds』でエリアデザイナーを担当しておりました。
  • Mark Capers:2020年1月にレトロスタジオに加わったようです。Epic Mickey系などのレベルデザインが主に見られます。

System Designers(システムデザイナー 5名)

  • Saam Pahlavan:インディーゲームや開発者インタビュー系ポッドキャスト「Loading Screen Podcast」など色々されているようです。
  • Richard Hakem Terrell:critical-gaming.comというブログを運営しておりました。ちなみに彼は昔「KirbyKid」と名乗っていたようです。
  • Maxwell Burgess:『Cosmonious High』というVRの開発に携わっておりました。レトロスタジオはオースティンにありますが、Owlchemy Labsもオースティンなのでジョブチェンジはやりやすいですね。

Technical Designers(テクニカルデザイナー 4名)

  • Matthew Langer:『The Callisto Protocol』でレベルデザイナーでした。少し前にデッドスペースライクなゲームとして話題になっておりました。

Contract Technical Designers(契約テクニカルデザイナー 6名)

  • Adam Hayes:『Command & Conquer 3』シリーズのデザイナー、『StarCraft II』のゲームデザイン、さらに近年では『Back 4 Blood』のテクニカルデザイナーをやっていました。
  • Alex Gold:近年では『God of War: Ragnarök』のデザイナーをされていました。本人がサイトを公開しているため、それで何をしていたかはおおよそ分かります。
  • Chesalon Taylor Jr.:元Blizzardのデザイナーなようです。彼もまたサイトを公開しております。
  • Rusty Moyher:インディーゲーム開発者として『Astro Duel』など色々開発されていました。
  • Ryan Dunagan:Gunfire Gamesで『Remnant: From the Ashes』『Darksiders III』の開発に携わっておりました。

Game Designers(ゲームデザイナー 4名)

Next Level Gamesのゲームデザイナーは全員、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』のゲームデザインなど担当していました。そういった経験がある故なのでしょうか、同じ任天堂グループでありながらも協力会社として一番最初に出てきております。

(メックとかも出てますしね)

"色"がないゲームデザイン

ここまで経験者に関して簡潔に記載しましたが、ある人はVRゲーム、ある人はRTS、またある人はゴッド オブ ウォーなど色がバラバラです。少なくともシューターゲームとしてよく挙げられるような作品はわざわざ調査対象にしたのを後悔するほど、何も出てきません

例えば元◯◯経験者が多いといった色が全くないのです。

ただ、この形は後述する歴史を踏まえますと正しい形なのかなと思っております。

プログラマー(79名)

外部の協力会社含めて79名おります。

  • レトロスタジオ:42名(内、経験者は24名)
  • 協力会社:29名
  • 任天堂:8名

以降はカウントした担当です。

  • Engineering Department_Director of Engineering
  • Engineering Department_Engineering Manager
  • Gameplay Engineering_Senior Lead Gameplay Engineer
  • Gameplay Engineering_Gameplay Engineers
  • Gameplay Engineering_Contract Gameplay Engineers
  • Graphics Engineering_Lead Graphics Engineer
  • Graphics Engineering_Graphics Engineers
  • Technology Engineering_Technology Engineers
  • Technology Engineering_Contract Technology Engineers
  • Tools Engineering_Lead Tools Engineer
  • Tools Engineering_Tools Engineers
  • Tools Engineering_Contract SDET
  • Production Department_Senior Engineering Producer
  • Production Department_Contract Engineering Producer

<<レトロスタジオはここまで。以降協力会社>>

※協力会社は解釈ミスが多いと思います。

  • Virtuos_IT Director
  • Virtuos_ITBP
  • Virtuos_IT
  • Virtuos_Build Engineer
  • Virtuos_Technical Art Director
  • Virtuos_Lead Programmers
  • Virtuos_Software Engineers
  • Original Force_IT Director
  • Mock Science_Software Engineer

<<協力会社はここまで。以降任天堂>>

  • Nintendo_Engineering Supervisors
  • Nintendo_Technical Support/QA Coordination
  • Nintendo_Technical Support

協力会社についてはVirtuosのソフトウェアエンジニア21名以外は陣容が小さいため細かく見ませんが、レトロスタジオのプログラミングが大部分を占めております。

Director of Engineering(エンジニアリングディレクター 1名)

今回のプライム4のエンジニア部門の総責任者ですが、プライムRにはおりませんでした。

Eric Sebesta氏は『Fallout 76』でリードゲームプレイプログラマーを務めていました。それ以前には『Star Wars: The Old Republic』ではテクニカルディレクター(ただし、他に7名いるため1人ではない)を担当しました。

なおEric氏は『Fallout 76』以前にかつてBethesdaが開発していた『BATTLECRY』のプロジェクトに参加していたことを明かしています。Fallout 76のオンラインなどといった基盤はBATTLECRYのチームと言われており、Fallout 76ではかなり初期から参加していたことが分かります。

Eric Sebesta氏の主な業績

Gameplay Engineers(ゲームプレイエンジニア 11名)

11名中10名は経験者です。

  • Rio Velarde:『Grand Theft Auto V』でエンジンプログラマーをされていました。

Contract Gameplay Engineers(契約ゲームプレイエンジニア 2名)

2名中1名は経験者です。

  • Anita Shah:SFのRTSゲーム『Homeworld 3』の開発に参加していました。

Technology Engineers(テクノロジーエンジニア 6名)

6名中5名は経験者です。

  • Daniel Habig:『Fallout 76』でUIプログラマーを担当していました。

Contract Technology Engineers(契約テクノロジーエンジニア 2名)

  • Greg Osefo:『Civilization V』でシステムプログラマーをされていました。
  • Dallas Rae Lillie:『Call of Duty: Black Ops 4』『Black Ops Cold War』でエンジニアリングを担当していました。

Tools Engineers(ツールエンジニア 8名)

8名中5名は経験者です。

  • Alan Horne:.NET や Unity3D などに強く、現在は キャラクター/アニメーションツール寄りを専門としていると自己紹介しています。
  • Steven Dao:Google、Pixarでも動いたソフトウェアエンジニアだそうです。
  • Jeffrey Joyce:『NBA 2K23』『XCOM2』でエンジニアを務めておりました。

Contract SDET(契約テストエンジニア 1名)

SDETはコードを書く側の視点で自動テスト・検証環境を作る技術職です。QAと開発の橋渡しを行う専門職です。

Ryan Johnson氏はArenaNet、マイクロソフト、BioWareなどでSDET / テストエンジニアをされておりました。

Senior Engineering Producer(シニアエンジニアリングプロデューサー 1名)

JoAnna Frazar氏はオンラインゲーム『Guild Wars 2』でプロダクションとしてクレジットされているため、オンラインRPGのプロデュース経験があることが分かります。

Contract Engineering Producer(契約エンジニアリングプロデューサー 1名)

Kyle James "Kel" Telesco氏はMoby Gamesではわかりませんでしたが、御本人曰くプロジェクトマネージャーの経験が長いそうです。

アート(463名)

アートですが、数が膨大です。その大枠だけお伝えします。ちなみに任天堂については特段記しません。正直いつもの感じなので。

コンセプトアートが厚い

プライムRのときはコンセプトアートは協力会社で、今回は契約社員が主です。外部イラストレーターをフルに使っているということですね。

少し意外に感じましたが、任天堂本体がいることを考えますと特段問題ないのでしょう。

環境+ライティング+VFXの画づくり三本柱

レトロスタジオのアートでは

  • Environment(環境):24名
  • VFX:5名
  • ライティング:16名

と画作りに人が多いです。シーンそのものを作る環境アーティスト、光とエフェクトでFPSの画作りを決めるVFX/ライティングを重視。つまり従来通りのFPSの画作りを重視していることが分かります。

シネマティクス+アニメーション

  • アニメーション:14名
  • シネマティクス:13名

一人称視点のアニメーションやカットシーン演出のラインが厚いです。シネマティクスにはレイアウトアーティスト、ストーリーボード、ライターもおりますため、映画的な見せ場を作る体制があることが分かります。

アウトソーシングの重視

  • アウトソーシング:9名
  • アート系プロデューサー:5名

プライムRと比べると外部委託関係者は7名から14名と、2倍に増加しています。自前で全部作るという話はもはや中規模ですらありえない選択肢ですが、アセット作成を束ねるハブをレトロスタジオが持っていることが見て取れます。

アートの協力会社(約300名、"AAA"らしい分業体制)

本作のクレジットを見ると、レトロスタジオや任天堂とは別に、ざっくり言えば約300名規模の外部スタッフが「アート・映像・モーション」周りに参加しています。その多くは、背景やキャラクターといった3Dアセット、ライティング、VFX、シネマティクス、モーションキャプチャなど、いわゆる「画づくり」の部分を支える役割を担っています。

特にこの体制はプライムRの協力会社と比べると、あちらは

  • 3Dアート制作
  • テクスチャ/モデルリファイン
  • 技術サポート

程度でしたが、今回は

  • 大規模co-dev(共同開発。Virtuos, Keywords網, Devoted, Room 8 ほか)
  • VFX専業(FXVille)
  • UI/スクリーングラフィックス(Territory)
  • ハイエンドシネマティクス(Waterproof)
  • モーションキャプチャ(House of Moves)
  • AAA相当のサウンド&ボイス(Formosa, Cup of Tea)

レイヤーが大きく増加しております。

以下は各スタジオの簡単な整理なので、興味のある方だけどうぞ。

大量アセットを支えるアートアウトソーシング群

3Dアセットの量産を支えているのが、Keywords Studios グループと、それ以外の大手アウトソーシング会社です。 Keywords系だけでも、Liquid Development、Forge Studios、AMC Studio、GameSim、Smoking Gun Interactive、Red Hot CG、Volta といったスタジオが名を連ねており、それぞれがキャラクターやプロップ、背景、ライティングなどを担当しています。また、詳しく見るとキャラクターまわりと背景まわりの3D制作を、複数のスタジオに分担して依頼していることがわかります。

これに加えて、Virtuos、Original Force、Devoted Studios、Room 8 Studio といった大手の3Dスタジオも参加しています。こちらもアートディレクター、環境チームリーダー、3D環境アーティストなどの役職が並んでおり、背景やプロップの制作を中心とした、アート面での協力がメインだと考えられます。Next Gen Dreams のようにマテリアルアーティストがまとめてクレジットされているスタジオもあり、質感やマテリアル表現に特化した協力も行われていることが読み取れます。

こうしたスタジオ群は、内部にディレクターやチームリーダー、コーディネーターを抱えており、単にモデルを納品するだけでなく、社内で小さな制作ラインを組んだうえで、Retro側のアートディレクションに沿って制作する形になっていると考えられます。

VFX・UI・映像・音響を担う専門スタジオ

画面の「動き」や「見せ場」の部分は、別の専門スタジオが支えています。 VFXまわりでは、FXVille がVFXアーティストとしてクレジットされており、ビームや爆発、環境エフェクトなどの制作に関わっていると考えられます。HUDやモーショングラフィックス寄りでは、Territory Studio がアートディレクション、パイプラインテクニカルディレクター、モーションデザイナーとして参加しており、インターフェースの動きやホログラフィック表現など、情報の見せ方そのものを含めた協力を行っているとみてよいでしょう。

シネマティクスや映像面では、Waterproof がエディター、アニメーションスーパーバイザー、Unreal ジェネラリストなど、多数の役職でクレジットされています。ここからは、トレーラーやシネマティクス映像の編集・アニメーション・エフェクトといった、映像制作寄りのパートをまとめて請け負っていることがうかがえます。

音響面では、Formosa Interactive がアセットテクニシャン、シネマティクスミキサーとして参加しており、シネマティクスのミックスや音声アセットの整理・実装サポートのような、ポストプロダクション寄りのオーディオ作業を担当していると考えられます。任天堂やレトロのサウンドチームに、外部のミキシング専門スタジオがレイヤーとして重なっている構図ですね。

モーションキャプチャとアニメーション

キャラクターの動きそのものは、モーションキャプチャスタジオの House of Moves が大きく関わっています。クレジットにはモーションキャプチャスーパーバイザー、モーションキャプチャオペレーター、Realtime Op、HMCオペレーター、VCAMテクニカルディレクターなど、撮影からリアルタイムオペレーションまでの役職が一通り並んでいます。

さらに特筆すべきなのは、ミリタリーアドバイザーが2名クレジットされている点です。これは、銃の構え方や移動時の所作、部隊としての動き方など、キャラクターの動きを“軍事的なリアリティ”の観点から監修していることを示しています。サムスや連邦兵のアクションについても、こうした専門家の意見を取り入れて作られていると考えられます。

レトロスタジオの総力を尽くす

あまり軽々しく言うべきことではないかも知れませんが、プライム4はレトロスタジオの総力が尽くされています

これはプライムリマスタードのスタッフと比較すると分かりやすいですが、

  • ゲームデザイン11名中10名が参加(91%)
  • ゲームプレイエンジニア13名中12名が参加(92%)
  • グラフィックエンジニア8名中5名が参加(62%)
  • テクノロジーエンジニア6名全員が参加(100%)
  • ツールエンジニア8名中7名が参加(87%)
  • アニメーター11名中9名が参加(82%)
  • キャラクター&コンセプトアーティスト6名中5名が参加(83%)
  • 環境アーティスト20名中10名が参加(50%)
  • VFX&ライティングアーティスト10名中6名が参加(60%)

グラフィックエンジニア、環境アーティストは参加率がやや低いですが、これグラフィックのSwitch2対応や環境アーティストのような外部委託が多い担当を踏まえると自然です。

しかしVFX、ライティングなど人が入れ替わっても不思議でない担当でも60%の参加率は異様です。

レトロスタジオが全力でプライム4に携わったことは明白です。

色がない採用は、リスク分散の結果?

スタッフリストを眺めていると、いわゆる「シューターの有名スタジオ出身者で固めた」という印象はあまりなく、かなりバラバラな経歴の開発者が集まっていることが分かります。RTSやVRゲーム、アクション大作など、ジャンルの幅もかなり広いです。

ここから先は完全に妄想になりますが、一つ考えられるのがリスク分散としての採用方針です。

レトロスタジオはプライム3のあと、ディレクターやアートディレクター、テクニカルリードといったキーパーソンがスタジオを離れ、新スタジオを立ち上げたことが知られています。人数ベースでどれくらいだったのかは公表されていませんが、シリーズの顔とも言えるメンバーが抜けたこと自体は、スタジオにとって大きな出来事だったはずです。

今後もメトロイドシリーズを続けていく以上、また同じように特定の属性のメンバーが、何かのきっかけで一度に抜けてしまう事態は避けたいところです。待遇や環境の整備はもちろんですが、それに加えて「同じようなバックグラウンドの人だけで固めない」ことも、リスクコントロールの一つと考えられます。

特定の「元◯◯出身」でチームカラーを作るのではなく、あえて経歴を散らした採用をしておけば、外部要因で一つのコミュニティが揺れたときも、スタジオ全体が一緒に揺らされるリスクは下げられます。

プライム4のスタッフ構成を見ていると、そうした「色を付けすぎない」人材ポートフォリオを意識しているようにも感じられる――少なくとも私は、そんな印象を受けました。もちろん、これは完全に外からの推測ではありますが。

任天堂の力の入れ込み具合

任天堂のエンジニアリング スーパーバイザーにはブレスオブザワイルド、TotKのテクニカルディレクターとして名を馳せた堂田卓宏氏もおります。

堂田氏は任天堂の様々なゲームでクレジットされておりますが、その多くはプログラミング"サポート"、エンジニアリング"サポート"とサポートがメインです。

しかし、その中で堂田氏がサポートではなくスーパーバイザーについた作品はSwitch時代以降、3つあります。それが以下の3作品です。

  • ゼルダの伝説 夢をみる島
  • メトロイドプライム リマスタード
  • メトロイドプライム4 ビヨンド

夢をみる島は開発の協力をするグレッゾにとっても初のSwitch制作でしたし、そもそもゼルダの伝説シリーズなので堂田氏が入ることは不思議ではありませんが、メトロイドプライムシリーズは現状どちらにも堂田氏が入っております。

後に任天堂とグレッゾは「知恵のかりもの」も出しましたが、こちらに堂田氏は入っておりません。つまり、技術の番人として堂田氏クラスを配置する必要がない程度に任天堂とグレッゾの経験値があったとも言えるでしょう。

しかし、メトロイドプライムシリーズはそうではない。重要案件として見られていたのです。

リマスタード→プライム4に至る大作開発までの道のり

メトロイドプライム4に至るまでには色々ありました。

  • 2017年6月13日:E3 2017の「Nintendo Spotlight」で『Metroid Prime 4』ロゴだけのティザー発表。この時点では開発元はレトロスタジオではなかった
  • 2018年2月:Eurogamer、Polygonなどが「開発はバンダイナムコスタジオ(日本+シンガポール)」と報じる。バンダイナムコシンガポールには開発中止となったStar Wars 1313組が参加していたとも。
  • 2019年1月25日:高橋伸也氏が「Metroid Prime 4 (Nintendo Switch) 開発状況に関するお知らせ」で「開発状況に満足できず、開発を一旦リセットし、レトロスタジオと共に開発する」と正式に発表。ここで開発やり直し、レトロスタジオ参加が確定。
  • 2021年頃:メトロイドプライムリマスタードがレーティング機関(ESRB)に登録される。実際の発表・発売は2023年2月だが、2021年時点である程度出来ていた可能性が高い。
  • 2023年2月:『メトロイドプライム リマスタード』発表と即日配信。
  • 2025年12月4日:『メトロイドプライム4 ビヨンド』発売

結果から見れば、レトロスタジオを中心とした開発陣がプライム4を出すことができましたし、実際にそれを証明するに足る座組となっております。

しかしそれは結果論です。

2017年当時のレトロスタジオはWiiU後期~Switch初期において目立った新作がありませんでした。あるとしてもトロピカルフリーズぐらいです。

一方、バンダイナムコは各社やスタジオでテイルズオブシリーズ、エースコンバットなどの開発や、任天堂含む協力開発もこなしていました。スマブラもfor3DS / WiiUもバンダイナムコスタジオですしね。

つまり、当時「HD世代の大規模FPS寄りプロジェクト」を任せるならば、バンダイナムコ側に賭ける判断はそれなりに筋が通りました。Star Wars 1313組がいたという話もありますし。

しかしながらバンナムによるプライム4は失敗したものとして幕引き。

ここで出てくるのが、リマスタードです。

  • リマスタードを足場にプライムらしい操作感・表現を今世代向けに再検証し、エンジンやツールなども整備。チームとして「プライムを今の環境で作る」経験を整える。
  • そしてプライム4はその本番として投入

この段階を踏まえれば、レトロスタジオでもできると判断したのではないでしょうか。

2017年から数えれば8年。その間に中規模スタジオだったレトロスタジオが、AAAを作れるところまで開発力を立て直し、プライム4を出せたということになります。開発の視点から考えれば遅すぎる話ではないです。

ただし、その事情はプレイヤーには関係ないです。あまりにもお待たせしてしまった故かレビューは「まあまあ」といった評価が多い印象です。

別に1人で作ろうが、100人だろうが、10000人だろうが面白いゲームは面白いですし、つまらないものはつまらないです。スタッフリストを見てもゲームの面白さは分かりませんが、その構造は分かります。調べるのは大変ですが。

その構造を見る限り、メトロイドプライム4をもって、遂にレトロスタジオはAAAを作り上げたのです。

参考資料

アート系は入れていないです。

全体

ゲームデザイン

プログラミング