Papen's Piling

主にコンシューマーゲーム会社を調べる所

カービィのIP事業は利益の柱ではありません


 星のカービィシリーズは30周年記念ということもあり、多方面での展開を行っております。グッズ収集されている方にはおなじみのKBから始まる管理番号は4000番台を迎えており、それだけの管理案件があることを示してます。それらはグッズカービィと呼称してもいいかなと私は思っています。グッズカービィについてはかなり昔に記事にしています。中身はそんなに変わらないので、貼っておきます。
www.papenspiling.com

では、その様々なグッズやイベントで利益を得ているのかどうか、気になりますよね。タイトルにもありますように、答えは「No」です。カービィという世界を広げるための事業だということはハル研究所の事業内容でも分かりますが、公式サイトで言ってることと実際にやっていることに違いはありません。

今回はそんな話です。ちなみに内容の都合上、ネット検索では見つからない話も入れています。 


「ワープスター」の売上は1億程度で、全体の4%程度です。

星のカービィシリーズの版権は株式会社ワープスターが管理しております。この会社はハル研究所と任天堂が合計200株を50%ずつ持つ形です。
つまり、ワープスターの売上高を見ればその規模感が大体分かります。肝心の売上高は2021年3月期で「9,000万円」です(その売上はどこで分かるんだという話ですが、帝国データバンク、東京商工リサーチからです)。
売上ですから、ここから色々差っ引いて利益が出ます。肝心の利益は2021年3月期では「5,214万円」の赤字です。

2021年3月期 株式会社ワープスター
2021年3月期 株式会社ハル研究所

最新のハル研究所の売上は「23億円」(帝国データバンク、東京商工リサーチから)、純利益は「7億7,700万円」ですから
全体の割合は4%程度です。
ハル研究所や任天堂に利益を持って行ってもまぁいいとは思いますが、ハル研究所や任天堂が「そういうこと」をする会社とは想定し辛いので、現状ゲーム以外のカービィの売上は4%程度と見なしています。

「ポケモン」と比べると1000分の1の規模です。

せっかくですし、グッズと言えば株式会社ポケモンと比較してみましょう。
株式会社ポケモンの売上高は2021年3月期で「1200億円」、利益は「186億円」の黒字でした。

2021年2月期 株式会社ポケモン

まぁ、カービィの世界展開は任天堂の力も関わってきますからこの比較は不正確なのですが、カービィの展開力・規模はポケモンの1000分の1程度です。ちなみに各地のポケモンセンターを運営する株式会社ポケモンセンターも利益だけにはなりますが、「1億6,400万円」の黒字です。31億の総資産もあり、ワープスターの4億のそれと比べると、事業内容が細かい関連会社にすら劣ります。リアル店舗を保有する故計上される資産が多くなるという事情もありますが、動かしているお金の規模だけで言えばこうなります。

2021年2月期 株式会社ポケモンセンター

この、「カービィの展開力・規模はポケモンの1000分の1程度」という前提はまぁそんなに間違いないと思っています。世界基準という話を忘れてはいけませんが。

「ワープスター」に独自の社員はいません。

では、このワープスター。社員はどれだけいるのかという話ですが、いません。帝国データバンクでは表記なし、東京商工リサーチでは1名でした。任天堂・ハル研究所からの社員が元ということであり、状況に応じて名刺を使い分けるとかそんな話なのでしょうか。

ワープスターの役員は

 社長:谷村 正仁
取締役:牛越 昭光
取締役:別府 裕介
取締役:岩森 啓

と岩森氏は謎ですが、それ以外の谷村氏はハル研究所会長、牛越氏は『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』(2008)以降、テスティングに関わっています。別府氏は任天堂の執行役員です。ちなみに別府氏はかつてWiiの間(その後、任天堂ネットワークサービスに改名。同社は2018年に解散)株式会社社長でした。Wiiの間でアニメ「星のカービィ」が放送されたのはこういう繋がりがあったのでしょうかね?よく分かりませんが

グッズ展開、たとえばカービィカフェのサントラや、星のカービィ スターアライズ設定資料集に出る方を見ると以下の方が挙げられます。

「The Sound of Kirby Café 2」でTeam KIRBY CAFÉとしてクレジットされた方はこちら。

  • 藤江 宏志
  • 仲上 雅代
  • 阿部 晴果
  • 夏目 興平

夏目氏以外は雑誌やハル研究所公式サイトでゲームとは違うインタビューを受けるなど、その役割が分かります。
25周年オーケストラコンサート、30周年記念ミュージックフェスなど音楽関係のイベントで活躍する方もおります。

  • 岡田 信志
  • 塩野 佑莉

岡田氏は小笠原氏曰く「更に最終的な音質の調整や曲と曲の間の時間の微調整など」のいわゆるマスタリングにも加わっている(サウンドチームと熊崎氏と共同で)とのことです。両者共に30周年記念ミュージックフェスの映像にもいますから、音楽に関する力を持っているのかなと推察できます。

他にグッズのデザイナーなどで登場された方はこちら。ここだけ五十音順です。

  • 莿木 勇斗
  • 今村 恵美
  • 尾崎 ともみ
  • 川原 理恵子
  • 坂本 真伊
  • 佐野 由美子
  • 別所 澄子

いると言えばいます。「The Sound of Kirby Café 2」で初クレジットされた尾崎氏は2019年入社ですから、新卒採用からの配属先としても確立しています。ただまぁ、それは拡大中というべきもので、既に事業として確立しているテレビゲーム事業のそれとは比較できません。何故なら、尾崎氏は新人研修で「3DCGソフトのMayaや、2DCGソフトのPhotoshop、Illustrator、自社開発ツールなどの使い方」を学んでおり、アートワークや他社との共同プロデュース事業に特化した研修を受けているとは言っていないからです。

結局のところ、デザイナー(アーティスト)の技術研修は、同期の企画ディレクション、プログラマーと共に一つのゲームを完成させるゴールに合わせています。ワープスターが創設されて21年程、グッズの隆盛を見ても10年弱の期間はありましたが、IPプロデュースに携わるからと言って別個の教育ルートをハル研究所は作っていませんし、あるいは公に見せていません。

「まず3DCG、2DCGや自社のツールを学び、本人の適性を見ながら、ゲーム制作に携わるかあるいはIPプロデュースに携わるか判断する。状況次第ではゲーム制作に携わることも」ということなのでしょう。グッズやイベントが活発なのは、これやりたい!という提案が首尾よく通るようになったという話なのかも知れませんし、基本がゲーム会社ですから、大本の事業が上手くいっていないのにリソースを別に割くのは…という思いもあるかも知れません。いくら考えても仕方ないですが。

利益ではなく、育成の柱

ゲームプロダクトが生み出した、「カービィ」や「ハコボーイ!」などのキャラクター商品化業務を行っています。愛情を込めてキャラクターを育て、キャラクター商品、イベント、プロモーションなどへと展開。自社発売の商品クオリティを高めるのはもちろん、ライセンシーに対しても単に品質管理を行うのではなく、積極的に新しい提案や意見交換を行い、社内外の関係者と一丸となってモノづくりを進めています。キャラクターのために何ができるかをとことん考え、地球サイズのキャラクター育成を目指します。
出典:企業情報 | COMPANY | ハル研究所

これがハル研究所のキャラクタープロデュース事業の中身です。「愛情を込めてキャラクターを育て」「社内外の関係者と一丸となってモノづくり」というのは昨今の動きを見ればわざわざ言わなくても分かることです。彼らにとってプロデュース事業はドル箱ではなく、ゲーム外でカービィなどのキャラクターを認知させ、利益拡大の相乗効果を狙う、拡大中の事業なのです。

カービィの国内含めた世界進出はまだまだ時間がかかるものです。