スタッフリストを調べていく記事、今回は『メトロイド ドレッド』(以下、ドレッドと呼称)です。きっかけはこの記事です。
automaton-media.com
スタッフリストにいるいないの話は興味深いですが、今回の話とは関係ありません。『ドレッド』は『メトロイド サムスリターンズ』(以下、サムリタと呼称)と同じようにMercurySteamが開発を担当しています。彼らについては「スペインのゲーム会社」以外、よく知られていません。『ドレッド』を通してMercurySteamがどんな会社なのか、少しでも分かっていければと思います。
スペインにおける希少な成功例
最初にさっきの記事は関係ないとありましたが、こんな記事があったのでちょっとだけ割きます。
jp.ign.com
各国のIGNが国の有名なメーカーを出しており、そこでスペインについてこのような記述があります。
IGN スペインのJuan García Garrido
「『悪魔城ドラキュラ』の最新作を開発したMercurySteam、『RIME(ライム)』を開発中のTequila Works、『Invizimals』を制作したNovaramaなどがゲームデベロッパーとして有名です。他には有能なインディーコミュニティに支えられた300社以上の小規模なゲームメーカーがあります。しかし、スペイン製のゲームで世界的な成功を収めた作品は思い浮かびませんね……」
ゲームメディアにおいて「スペイン製のゲームで世界的な成功を収めた作品が思い浮かばない」というのが2016年時点の結論でした。それから5年経過してもなお、私もスペイン製のゲームで大きな成功があったとは特に聞いていません。MercurySteamが最初に出てくるのも印象深いです。一番名の売れている会社が最初に出る訳ですから、MercurySteamのスペインにおける立ち位置がおぼろげながらも見えてきます。
そうなると、こう解釈できます。「スペインで名の売れている会社が、任天堂のメトロイドシリーズで大成功を収めた」訳です。当然キャリアに好影響を及ぼすでしょう。関わったのにスタッフリストに書かれてなければ、確かに一言いいたくなりますよね。ただ、そちらの記事で出たスタッフを調べても、それ以前のMecury Steam開発作品に名前が出てこない(Moby Gamesで調査)ので、『ドレッド』以前からの問題のような気もしますが…。
『ドレッド』は『サムリタ』と中核は同じ
『ドレッド』は『サムリタ』の開発陣にプラスされた形になっています。プロデューサーやディレクター、リード、そして今回のケースのように任天堂、NOE、MercurySteamが物理的に離れた状態で一緒に仕事するには絶対に欠かせないコーディネーターを抜粋すると、ほとんどが『サムリタ』で類似する役割を担っていました。
ちなみにコーディネーターについて、任天堂はこう説明しています。
コーディネーターは、いわば交通整理の仕事です。チーム外の人との連絡窓口はもちろん、外作チームではコーディネーターがスケジュールの精査や、デバッグ(プログラムの不具合を見つける作業)の管理も行います。また、ゲームをより良くするための提案を行ったりもします。海外のソフトメーカーさんと協働する場合、適性に応じて、翻訳や通訳を任されることもあります。
出典:新卒採用:職種紹介:制作企画系 - 制作チームでの役割|採用情報|任天堂
名前 | 『サムリタ』での役割 | 『ドレッド』での役割 |
---|---|---|
Yoshio Sakamoto | Producer | Producer |
José Luis Márquez Arroyo | Creative Director | Creative Director |
Fumihiko Hayashi | Assistant Director/Coordination | Director |
Takehiko Hosokawa | Director | Assistant Directors |
Christian Fernandez Santiso | なし | Assistant Directors |
Alfonso Valladolid Ferrández | Programming Director | Programming Director |
Jorge Benedito Chicharro | Additional Concept Art | Art Director |
Kenji Yamamoto | Music Director | Music Director |
Paul Logue | Project Cordination | Coordination |
Ánima Berriatúa | Quality Assurance Lead | Production Lead |
Gádor Valls Osorio | なし | Production Coordination |
Arturo Sánchez Eiras | Level Design Lead | Level Design Lead |
Aleix Garrido Oberink | Design | Level Design |
José María Navarro Herrera | なし | Game Design |
Carlos Zarzuela Sánchez | Additional Desgin | Game Design |
Jacobo Luengo | Design | Game Design |
Fernando Zazo Muñoz | Programming Lead | Programming Lead |
Angel Roman Barriopedro | なし | 3D Modelling Lead |
Álvaro García Arredondo | Special Effects Technical Art | Visual Effects Lead |
Pedro Jose Torres | 3D Modelling & Environment Art Lead | Environment Art Leads |
Miguel Pascual Romero | Environment Art | Environment Art Leads |
Miguel Orrego Torrado | なし | Rigging Lead |
Alberto Camarasa Cámara | Cutscene Animation Lead | Animation Lead |
Ricardo Sánchez Castro | なし | Cutscenes Animation Lead |
Emilio Gutiérrez López | Audio Lead | Sound Leads |
Pablo Balaguer de Diego | Sound Leads | Sound Leads |
中核のメンバーは26人中20人が続投ですので、率にすると約80%です。2Dメトロイドシリーズの開発を語るならば、このあたりのメンバーの名前は是非とも覚えていきたいですね。名前を見るとわかりますが、スペイン圏の方が殆ど(ポルトガル系や南米系の可能性もありますので、スペイン人とは言いません)です。欧州圏ではEUもあり統合が強く行われていますが、Mercury Steamは同じ言語圏でチームを作る・あるいは作れる会社ということが分かります。
Mercury Steamメンバーと新たな社員
次に開発陣容全体で、『サムリタ』経験者を見ていきましょう。スタッフは大体140名います。役職ごとに赤は全員が『サムリタ』開発経験者、青は全員が未経験者、それ以外は混じっています。
役割 | 『サムリタ』経験者の数/全体(%) |
---|---|
Producer | 1/1(100%) |
Creative Director | 1/1(100%) |
Director | 1/1(100%) |
Assistant Directors | 2/2(100%) |
Programming Director | 1/1(100%) |
Art Director | 1/1(100%) |
Music Director | 1/1(100%) |
Coordination | 1/1(100%) |
Production Lead | 1/1(100%) |
Production Coordination | 0/1(0%) |
Assistant Producers | 0/3(0%) |
Level Design Lead | 1/1(100%) |
Level Design | 1/1(100%) |
Game Design | 2/3(67%) |
Programming Lead | 1/1(100%) |
Main Programming | 3/6(50%) |
Programming | 0/8(0%) |
Concept Artists | 0/7(0%) |
3D Modelling Lead | 0/1(0%) |
3D Modelling | 0/4(0%) |
Visual Effects Lead | 1/1(100%) |
Visual Effects Artists | 0/6(0%) |
Lighting Artist | 0/1(0%) |
Environment Art Leads | 1/2(50%) |
Environment Artists | 1/15(6.7%) |
Rigging Lead | 0/1(0%) |
Rigging | 0/1(0%) |
Animation Lead | 1/1(100%) |
Game Animation | 1/12(8.3%) |
Cutscenes Animation Lead | 0/1(0%) |
Cutscenes Animation | 0/9(0%) |
Art Supervisors | 1/2(50%) |
Package Design | 0/1(0%) |
Illustration | 0/1(0%) |
Sound Coordination | 1/1(100%) |
Music & Arrangement | 0/2(0%) |
Sound Leads | 2/2(100%) |
Sound Design | 0/2(0%) |
Audio Technical Support | 1/1(100%) |
Debug | 0/4(0%) |
Technical Support | 2/5(40%) |
Additional Developers | 3/15(20%) |
Advisers | 1/2(50%) |
Business | 1/2(50%) |
NOA Product Development | 1/1(100%) |
Very Special Thanks | 1/1(100%) |
Special Thanks | 1/2(50%) |
Project Manager | 1/1(100%) |
Executive Manager | 1/1(100%) |
General Producer | 1/1(100%) |
Executive Producer | 0/1(0%) |
『あつ森』のように、中核は同じでもそれ以外は新しいメンバー(それぞれの名前で調べても『ドレッド』以外の履歴が出てきませんでした)で構成されています。
『サムリタ』以外に関わった作品
Mercury Steamは『キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ』(2010年)を開発しました。メトロイドシリーズと悪魔城ドラキュラシリーズどちらにも関わったというのはなかなか面白いですが、そこは今はどうでもよく、『ドレッド』開発メンバーが今までに携わった作品とその人数を調べてみるとこうなりました。
(任天堂、NOEスタッフはノイズになるので省いてます)
タイトル名 | 関わった人数 |
---|---|
Spacelords (2017) | 34 |
Metroid: Samus Returns (2017) | 32 |
Castlevania: Lords of Shadow 2 - Revelations (2014) | 22 |
Castlevania: Lords of Shadow - Mirror of Fate (2013) | 20 |
Castlevania: Lords of Shadow 2 (2014) | 18 |
Planet 51: The Game (2009) | 13 |
Castlevania: Lords of Shadow - Ultimate Edition (2013) | 11 |
Castlevania: Lords of Shadow (2010) | 11 |
面倒くさいので全部英名タイトルです。トップに出た『Spacelords』は4vs1のカバーアクションTPSです。私はやったことがありませんのでなんとも言えませんが、ストーリーと世界観への評価は高いです。
store.steampowered.com
開発スタッフが140名いて、トップでも34名程度と考えますと殆どは履歴が分からない社員となります。据え置きゲームに関わっていればスタッフリストは出ますが、例えばスマホアプリではまず残りません。100名程がゲーム業界未経験…とはまず言えないでしょう。
とはいえ予想は予想です。今ある公開情報ではこの辺りが限界です。
10年後に実現させる
おまけです。『サムリタ』と『ドレッド』に名を連ねる林 文彦氏は先輩紹介でインタビュー記事があります。
www.nintendo.co.jp
大学時代に帰国子女や外国人も住んでいる寮の寮長になったりと、今に繋がっているのが面白いですね。一番すごいのがここの部分です。
今後の目標を教えてください。
売り場展開や、新作の適正数量の提案などを通じての担当取引先様のシェアアップは、やはり営業として常に目標にしたいです。また、いずれは英語力を活かして海外の開発会社との橋渡しをするコーディネーター的な業務や、海外子会社での業務にも非常に興味があり、将来的にやってみたいと思っています。でも、とりあえずは大阪の挨拶「まいど!」を使いこなせるようになりたいですね。(笑)
まさに将来やってみたいと思ったことを、実現されております。林氏は『サムリタ』からメトロイドシリーズに携わっておりますが、海外との協力が必須のメトロイドシリーズにおいて彼のような人材は特に必要でしょう。今後の活躍にも期待しております。