私は普段、ブログでゲーム作品のスタッフリストを調べて、分かったことを記事にまとめています。
スタッフリストをまとめるサイト、データベースは世界中どこにでもあると思いますが、スタッフリストの分析となると未だ珍しいと思っています。スタッフを知りたければ、普通のメディアであればインタビューを行えば良いですし、そもそもオーディエンスが聞きたいのは作品の「中心人物」のお話です。
ですが、ゲーム制作はディレクターやプロデューサーがいれば成立する訳ではありません。そこには、プログラマー、デザイナー等専門家や担当者がいてこそ成り立ちます。彼らも含めて制作陣がどのようなものなのか知ることは別に無駄ではないと思います。
今回は、私がブログ内で行う「ゲームのスタッフリストを調べるということ」を解説していきます。そして、誰かがそれを真似して他作品でやってくれたらいいなぁと感じています。
なお、ここでは据置・携帯ゲームを想定していますが、スマホゲームでも利用できると思います。
前提:スタッフリストからゲームの面白さは分からない
スタッフリストを見てもゲームの面白さは一切分かりません。これは大前提です。
プログラマーが3人しかいなくても面白いゲームはありますし、1000人の開発体制でも面白くないこともあります。そのゲームが作られた時の状況や環境、スタッフの提案と作業によって同じ座組でも変わってきます。自分がやってつまらなかった作品、あるいはシリーズで出来が悪かったものに「何でこうなったんだ?」という視点からスタッフリストを見てもいいですが、推奨はしません。
それを認識したうえでスタッフリストを見ていきましょう。
単体かシリーズか?
まず2つの視点があります。1つは作品単体を、もう1つはシリーズを見るものです。
作品単体の場合は気づいたことを挙げています。
↓作品単体の例
www.papenspiling.com
シリーズを見る場合は、ある作品を基点にシリーズの開発体制がどう変わっていったか見ています。ディレクターやプロデューサーを細かく見てもいいですし、人数そのものを見てもいいでしょう。
↓シリーズを見る例(ディレクターやプロデューサーを見る場合)
www.papenspiling.com
必ず得られるもの
スタッフリストで必ず得られるのは以下の4項目です。
- 名前
- 担当
- 人数
- 会社
名前は、スタッフのリストなのですから当然ですが最も重要です。ただし、作品によってアクセント込みのアルファベット、アルファベット、漢字、漢字にふりがな表記、ひらがなとバラバラです。同じシリーズでも開発の母体が違うと変わったり(例えば星のカービィシリーズは漢字にふりがなとひらがなオンリーの2種があります)、結構ややこしいです。スタッフリストをサイトで収集すると誤字があったり、そもそも実機で間違いがあったり、同姓同名の方を一緒にしたり…とあります。誰かにフォーカスを当てたい時は気をつけましょう。
どちらにせよ、私は名前は細かく見ていません。例えば特定のシリーズでプログラムやデザインのディレクターを長年務めているのは面白い話ですが、その務めている方本人を詳しく見ても特に何も得られません。人は変わっていくものですから、スキルアップなどで新たな道を切り拓くことも十分考えられます。「そういえばこの人、前にこんなことされてましたねー」みたいな軽い感じで見ていくことをオススメします。
担当は、例えばプログラミングやデザイン、プロデューサーなどです。これも取り扱い注意です。流石にプログラムは間違えようがないですが、「デザイン」はアートやモデリングを指していることもあれば、ゲームデザインやプランニングのことだったりします。よく言われる「デザイナー」は日本は「アーティスト」で海外は「ゲームデザイナー」という奴です。
他にもその会社独自の意味合いがあります。例えばポケットモンスターシリーズの開発を行うゲームフリークにはプロジェクトマネージャーがいませんし、星のカービィシリーズの開発で有名なハル研究所では他所で言うプランナーとディレクターが合体して「企画ディレクション」という形でディレクターが存在します。「プロデューサーは〇〇だから、××だ」とすぐ形にする前に調査対象の企業が何かしらインタビューなどで発信していないか調べましょう。
人数は数えていけば分かります。これは絶対値が大事な時もあればその割合が重要な時もあります。ただし、個人が担当を2つ、3つ抱えていることもあります。エクセルやスプレッドシートでUNIQUE関数を使って整理した方が確実です。
会社は協力した会社などです。作品によってはモノリスソフトのように協力した会社のスタッフも逐一まとめている場合もありますが、任天堂やゲームフリークのように協力関係にある会社のスタッフも混ぜこぜにすることもあります。注意しましょう。
どう調べるか
スタッフリストを見たら次は調査です。どうやって調べるか見ていきましょう。
1:担当を見る
開発陣がどのような担当を、どのような配分で制作したのか把握していくことです。順序もどうなっているか見ることが大事です。基本的には関与度ですが、中には年功序列、五十音順など機械的に並べたもの(『ハコボーイ!』)もあります。
最大のメリットは、担当を通じてゲーム会社の特徴を細かく分析することができる点です。例えばハル研究所であればプログラムとテクニカルサポートの人数が大きく、依然としてプログラマー重視でもあると見なせます。ゲーム会社によって担当の名前は微妙に異なりますから、その辺りを詳しく知ることで実態をより深く知ることが出来ます。
大手ならばともかく(とは言いましたが、ではバンナムやカプコン、セガ、コナミの制作陣が詳しく知られているかと言いますと…)、中小はまるで知られていませんので、どこか気になる所があれば制作したタイトルを片っ端から調べると、下手な業界研究より役立つと思います。就職を目指しているのであれば、自ら荒削りながらも情報を持つことで質疑応答に利用することもできるでしょう。配布された資料とスタッフリストからその共通点や相違点を見て担当者にお伝えできれば、熱意は見せられるのではないかと思います。あくまでも+αとしてなので、募集要項はしっかり満たした上での話ですが。
2:関わった作品を見る
「この作品にどんな人が関わってるのか見当が付かない」状態で機能します。私の場合、『SP』や『Daemon X Machina』のスタッフリストを見る時にこちらを利用しました。
dougin-1809.hatenablog.jp
dougin-1809.hatenablog.jp
あらゆるタイトルに用いることができるメリットがありますが、目的が散漫になりやすく「何を知りたかったのか」はっきりしなくなり、結局何が分かったのか分からなかったという時間の無駄に繋がることもあります。
「自分はこのタイトルに誰が関わって、その人が今までにどんな作品に関わったのかとりあえず知りたい」という目的で行うのが無難だと思います。
3:関わった会社を見る
外部に開発の一部を依頼した場合に特に有効です。例えば『ゼノブレイド』シリーズは膨大な会社が協力して世に出ているタイトルです。下の過去記事では
- 外部の会社がどれだけ関わり
- とくに外部の協力が多い分野はどこか
- 会社の数はシリーズが下るごとにどう変遷したのか
を見ています。
dougin-1809.hatenablog.jp
外部の会社の協力体制がよく分かりますが、シリーズを通して外部の会社が統一して用いられるかどうかは別です。例えば、上の『ゼノブレイド』シリーズならばグラフィニカやアニマは継続していますが、逆に言えばそれくらいです。会社の名前を覚えるよりは、先程の3点に注目した方がいいかも知れません。勿論、調査していくと協力する会社が決まっているパターンもあるかと思います。
スタッフリストを手に入れる
実機
一番確実なのは実機で調べることです。ただし、基本的にスタッフリストを見るにはゲームをクリアする必要があります。最近はスタッフクレジットをすぐに見られる作品もありますが。
ただ、調査を深く行いたければ、実機で該当するゲーム作品の要素を一通り遊びながら調べていくのがオススメです。この場合、ゲームの「感触」が掴めますので例えばどうぶつの森ならコミュニケーションゲームだからスクリプトは重要そうだなとか、そのゲーム独自の要素と絡めた調査がやりやすくなります。
それに、自分がやったゲームがどうなっているのか知りたいという興味が始まりですからね。
スタッフリストを収集するサイト
私は例えば「Moby Games」や「Nintendo Wiki」「Kyoto Report」を利用しています。
Moby Gamesはあらゆるゲーム情報を収集し、ついでにスタッフリストもあつめるサイトです。ここは登場したスタッフに必ず専用ページを用意し、これまでに関わった作品を載せるという、これから下でお伝えします「とにかく細かく知りたい」をやっています。一番参考になります。同時にそれだけ細かくやるため速報性には欠けます。例えば三國無双、戦国無双のスタッフリストがまだ入っていなかったため『ファイアーエムブレム 風花雪月』のシナリオライターの功績がよく分からなかった事例がありました。なので、最新ゲーム作品は自分で調べつつも、関連がありそうな作品も視野に入れ、そこにMoby Gamesから得られた情報と比較するのが効率的です。
ちなみにMoby Gamesでは一部のスタッフに漢字も表記していますが、これは信用しない方が良いです。大体ミスってます。
Nintendo Fandom Wikiは日本語版もありますが、海外版の方です。こちらは速報性は高いですが、誤字脱字が目立ちます。これに限らずwiki形式でスタッフリストを探すと、記事編集の画面を出せばコピーが簡単です。
Kyoto Reportは量よりかは質です。Forumを見ると有識者の方が色々情報を出していますので参考として見ています。パブリッシャーがフォーラムを設置してそちらで意見交換をしている場合もありますので、そちらで情報収集をしても良いでしょう。
注意:10年のブランクがある場合
Moby Gamesはスタッフのページをわざわざ用意する徹底ぶりですが、「別の人を同じ人としてまとめている」パターンが時々あります。個人的には「経歴が10年程度空いている方は同一人物の業績と見なさない」と想定しています。
注意:Collaborations
Moby GamesのCreditの最後にCollaborationsという項目があります。そのスタッフリストにいらっしゃる方が他に関わっている作品を数字で教えます。これは殆ど使い物になりません。ゲームの開発ではなく発売に関わった方やデバッグ、ローカライズに携わった方も一緒にカウントしているからです。
実際にやってみる
リストを比較したり、中身を見るのですからツールとしてはスプレッドシートが最適です。エクセルでもいいですが、スプレッドシートなら無料ですし、オンライン環境下ならどこでもできます。
とにかく細かく知りたい
名前 | 作品A | 作品B |
スタッフ1 | 担当A | 担当A |
スタッフ2 | 担当B | 担当B |
この形ですと、あるスタッフがどの作品でどの担当になったのか分かります。確実ですが面倒くさいです。Moby Gamesでやっていることを一枚の表にまとめていくので数十のタイトルにもなると作業も大変です。このスタイルでやる際には日本人の開発者なら漢字、ひらがな、ローマ字の3種で記載しておくと後々楽になります。つまりこうなります。
漢字 | ひらがな | ローマ字 | 作品A | 作品B |
田中 義雄 | たなか よしお | Yoshio Tanaka | [AA001]担当A | [AR003]担当B |
寺田 美子 | てらだ よしこ | Yoshiko Terada | [AB012]担当B | [AC160]担当B |
これは例ですが、こうやってまとめておくと並び替えをした時に作品A、Bそれぞれを基準にした際の考察が可能です。大きなタイトルですと本当に面倒くさいので例えばデバッグ、品質保証(QA)、パブリッシング、ローカライズ関係は除外しておくことをオススメします。ただスペシャルサンクスは新人さんがいることもありますので載っけておいても損はないかと思います。
手っ取り早く調べたい
作品〇 | 作品A | 作品B |
スタッフ | 1 | 1 |
スタッフ | 0 | 1 |
リストをどこかしらで取得したらUNIQUE関数で整理します。次にCOUNTIF関数で範囲を作品A・Bのスタッフリスト、条件を作品〇とする関数を用意します。範囲に条件と該当する名前があれば、1以上の値が出るという設計です。『DAEMON X MACHINA』、『あつまれ どうぶつの森』、『Pokémom LEGENDS アルセウス』のスタッフリストを調べる際に用いました。
今のところこんな感じになっていますが、今後新たな手法を作ったりすると思います。