
Nintendo Direct 2022.09.14で『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』(以下、ブレスオブザワイルド)の続編『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』(以下、ティアーズオブザキングダム)がタイトル、発売日公開となりました。
私はゲーム作品の開発体制が知りたくてスタッフリストを日々眺めていますが、その『ブレスオブザワイルド』の開発体制がどうなっているか、踏み込んだ記事が出ないので自分で作りました。かつてモノリスソフトに絞った記事は書きましたが、今回はゲームデザイン、プログラミング、アート全体を見ていきます。
<忙しい人向けまとめ>
- 全員カウントすると888名。開発メンバーのみでも176名→347名と2倍増加。
- ゲームデザインは『ゼノブレイドクロス』、『ニュースーパーマリオブラザーズ2』、『神々のトライフォース』と過去作が多様。後に数名が『オクトエキスパンション』に関わる。
- プログラミングは『ニンテンドーランド』から多くが入る。また『マリオカート8』のProgramming Supportに15名が参加。62名中9名、15%は過去作不明。
- アートは部門によって様相が異なる。
- シニア・リードは『スカイウォードソード』経験者が16名中8名、50%。後に『ゼルダ無双 厄災の黙示録』に6名が参加。
- シネマやプロダクションアートを除くアート83名を見ると、『ゼノブレイドクロス』に59名、『スカイウォードソード』に41名が参加。
- プロダクションアートは21名中10名、47%が過去作不明。SEVENS DREAMSなど協力会社が主に担当。
- モデリング・アニメーション121名中37名、31%が過去作不明。イマジカデジタルスケープが目立ち、彼らは後に『キングダムハーツⅢ』に携わる。
- シネマ部門は殆どグラフィニカが担当。『ゼノブレイドクロス』が過去作、『ゼノブレイド2』にも携わった方が多い。
今回見ていくもの
今回はゲームデザイン、プログラミング、アートの3セクションを見ていきます(音楽はスプラトゥーン3の時は入れましたが、ぶっちゃけよく分からないので今回は省きました)具体的には以下の要素を見ていきます。
- 規模
- 『ブレスオブザワイルド』以前の過去作が不明の方の数
- スタッフが開発に参加した過去作
- 過去作に参加した際の役職の数
- そのほか気になったこと
規模は『ゼルダの伝説』シリーズ作品の『神々のトライフォース2』『スカイウォードソード』『トワイライトプリンセス』と比較します。
既に発売から5年経過していますので『ブレスオブザワイルド』以前の過去作がない人と表記を変えています。
そして、今回から手法を変えて過去作に参加した際の役職の数も見ていきます。これによって、現場レベルでどのような移動があったかが分かりやすくなりました。
ちなみに今回から過去作、職種は英名です。手法の都合上一々変換するのが大変だからです。
ゲームデザイン

今作は27名おります。これまでが13~16名の規模でしたので、過去作の1.8倍です。
その陣容の中、『ブレスオブザワイルド』以前の過去作が分からない方はいません。
過去作で最も多かったのは、『ゼノブレイドクロス』の10名です。

Lead Level Design - Missions & NLAから8名中2名、Lead Level Design - Enemiesから4名中2名と『ゼノブレイドクロス』のプランニングメンバーが深く関わっていることがよく分かります。
次点では『ニュースーパーマリオブラザーズ2』Level Designから10名中4名が関わっています。割合の話にはなりますが『神々のトライフォース2』のDungeon Planningからは3名全員が参加しています。このように経験作は多様性があります。
その後関わった作品で最も多かったのは、『オクトエキスパンション』Game Design、4名です。
こうしてみると、過去作で多いのが『ゼノブレイドクロス』『ニュースーパーマリオブラザーズ2』とゼルダの伝説がトップに出ません。割合として見れば『神々のトライフォース2』のように担当全員参加のケースもありますが、これはゼルダの伝説チームが相対的に小さな存在だったのではないか、だから規模の大きな『ブレスオブザワイルド』ではモノリスソフトやマリオチームからも人が必要だった…とも考えられそうです。
プログラミング
以下の職種を対象とします。
- Technical Director
- System Architect
- Programming Leads
- Player Programming
- Camera Programmin
- Enemy Programming
- Object Programming
- Wildlife Programming
- NPC Programming
- Event PRogramming
- UI Programming
- Environment Programming
- Physics Programming
- AI Navigation Programming
- Framework Programming
- Graphics/Terrain Programming
- VFX Programming
- Sound Programming
- System Tool Development
- Game Tool Development
- Pipeline Engineering
- QA Engineering
- Technical Support

今作は62名おります。これまでが30~40名の規模でしたので、過去作の1.7倍です。
その陣容の中、『ブレスオブザワイルド』以前の作品が分からない方が62名中9名、全体の15%を占めます。
過去作で最も多かったのは、『ニンテンドーランド』の19名です。
内訳としてはGame Progorammingから11名中6名、Graphics Programmingから6名中5名、Tools Supportから5名中3名、Programming Supportから5名中2名と多くの人材が関わったことが見て取れます。赤字は全員参加です。

また、役割別でみていきますと最も多かったのは、『マリオカート8 デラックス』のProgramming Support、15名です。31人中15人、48%となりますので、開発がほぼ同時期だったことが予想できます。そして、ここで"サポート"とありますが過去作品を振り返ってもサポートやスペシャルサンクスが多く、その作品の中核に関わっているとは言えなさそうな担当が多いのです。
経験者ではありながらも基本サポートを経験されたプログラマーの方々が、ブレスオブザワイルドの中核を生成したと言えます。とても興味深い話です。そういった方々が物理エンジンを提供するハボック社を驚かせる逸話を生み出したのですから。
その後関わった作品で最も多かったのは、『あつまれ どうぶつの森』のProgramming Support、12名です。24名中12名ですので、50%が『ブレスオブザワイルド』経験者です。PlayerやSystemなど1人しかいない担当を務めている方もおりますので、一部は『ブレスオブザワイルド』開発終了後『あつまれ どうぶつの森』に移動したことが分かります。ただ、後の作品を詳しく見ても中核と言えそうな担当が少ないのは継続して『ティアーズオブザキングダム』に関わっているから?とも考えられます。
アート

今作は258名おります。これまでが52~123名の規模でしたので、過去作の2~5倍です。
アートは調べてみると職種によってだいぶ異なります。このセクションでは以下の職種を対象としています。合計83名です。
- Art Director
- Senior Lead Artist - Animation
- Senior Lead Artist - Character/Item
- Senior Lead Artist - Landscape
- Senior Lead Artist - VFX/Technical
- Lead Artists - Strucutural
- Lead Artists - Dungeon
- Lead Artist - Enemy
- Lead Artist - NPC
- Lead Artist - Animation
- Lead Artist - Character
- Lead Artist - Production
- Lead Artist - UI
- Technical Artist
- Player Action
- Chracter Action
- Character Rigging
- Enemy Art
- Item/Weapon/Object Art
- Wildlife Art
- NPC Art
- Landscape Art
- Structural Art
- Dungeon Art
- Vegenation Art
- VFX Design
- UI Design
その陣容の中、『ブレスオブザワイルド』以前の作品が分からない方は4名です。
過去作で最も多かったのは、『ゼノブレイドクロス』の59名です。
次点で『スカイウォードソード』の41名です。両作品の担当は表にしております。


職種で最も多かったのは、『スプラトゥーン』Desgin、29名です。
ただ、『スプラトゥーン』はシリーズ通して役職をひとまとめにしますのでこの形では多く見えがちです。そのため特に語りません。
その後関わった作品で最も多かったのは、『ゼノブレイドDE』の28名です。こちらは後に投稿する記事でお話します。職種では『スプラトゥーン2』Art、23名です。
『スカイウォードソード』『ゼノブレイドクロス』『スプラトゥーン』『スプラトゥーン2』と挙がりましたが、共通するのはモノリスソフトが開発に参加しているという点です。SeniorやLeadといった部分にはいなくとも、現場の業務ではモノリスソフト社員がかなりのレベルで動員されたことが見て取れます。
アート(シニア・リード)
シニア・リードのみで16名います。対象はこちらです。
- Art Director
- Senior Lead Artist - Animation
- Senior Lead Artist - Character/Item
- Senior Lead Artist - Landscape
- Senior Lead Artist - VFX/Technical
- Lead Artists - Strucutural
- Lead Artist - Enemy
- Lead Artist - NPC
- Lead Artist - Character
- Lead Artist - Production
- Lead Artist - UI
- Technical Artist
その陣容の中、『ブレスオブザワイルド』以前の作品が分からない方はいません。
過去作で最も多かったのは、『スカイウォードソード』の8名です。

内訳を見ると、Design Lead/Player DesignやObject Designなど6年前にすでにリードだった方もおります。連続性の強さがうかがえます。そうでなければ過去作のキャラを配置してゲームを作っていく手法はやらないでしょう。役割別では最も多かったのは『大乱闘スマッシュブラザーズ for 3DS』Supervisors (Original Games)、3名です。人数が少ないことと、上流工程のメンバーはポストが被りづらい点からスーパーバイザーが一番上になるのは納得です。
その後関わった作品で最も多かったのは、『ゼルダ無双 厄災の黙示録』Nintendo Zelda Team、6名です。『ゼルダの伝説』シリーズのアートの方向性に関わる方々と言えますね。人数と被りづらい点を考慮しても16名中6名ですから38%が加わっています。なおスーパーバイザーなどを除外すると『Nintendo Switch Sports』のArt-Progress Management、3名がトップになります。
プロダクションアート
合計21名おります。
その陣容の中、『ブレスオブザワイルド』以前の作品が分からない方が21名中10名、全体の47%を占めます。
過去作で最も多かったのは、『ゼノブレイドクロス』の3名です。
『ブレスオブザワイルド』以前の過去作が分からない方が多いためこうなります。役割別でみても1,2名ですので省きます。
その後関わった作品で最も多かったのは、『ゼノブレイド2』SEVEN DREAMS INC.、7名です。株式会社SEVEN DREAMSのような制作会社が一部業務を執り行っていることが分かります。ちなみに『ゼノブレイド2』には9名おりますので全員が担当プロジェクトを変えたか、あるいは同時進行で進めていたと考えられます。また『ポケモン ソード/シールド』のField Map Designにも関わったりと、任天堂販売タイトルで業務委託が本格的に行われていることが分かります。
モデリング・アニメーション
Gameplay Aniamtion:36名
Character Modeling:32名
Landscape Modeling:53名
合計121名です。
その陣容の中、『ブレスオブザワイルド』以前の作品が分からない方が121名中37名、全体の31%を占めます。
過去作で最も多かったのは、『ゼノブレイドクロス』の15名です。

表にするとこうなりますが、この部門でゼノブレイドクロスから直接移動された割合は少ないです。
役割別でみていきますと、最も多かったのは『ポケモンX/Y』のPokémon Character Motion、53名注8名です。こちらも割合としてはそこまで多くありません。
その後関わった作品で最も多かったのは、『キングダムハーツⅢ』の23名です。

これは大本のスクウェア・エニックスではなく、協力会社のイマジカデジタルスケープがどちらにも関わっていたからです。
シネマ
Cinematic Director:1名
Assistant Cinematic Directors:2名
Cinematic Design:3名
Cinematic Storyboard Art:3名
Cinematic Animation:20名
Motion Capture:4名
合計33名です。その陣容の中、『ブレスオブザワイルド』以前の作品が分からない方が33名中5名、全体の15%を占めます。
過去作で最も多かったのは、『ゼノブレイドクロス』の11名です。

その後関わった作品で最も多かったのは、『ゼノブレイド2』の18名です。33名中18名ですから55%の割合です。役職でも同作のCutscene Productionが14名と最大です。

表からも分かりますように18名はモノリスソフトではなく、グラフィニカ所属です。
"任天堂のAAAタイトル制作体制"
まとめです。
- 全員カウントすると888名。開発メンバーのみでも176名→347名と2倍増加。
- ゲームデザインは『ゼノブレイドクロス』、『ニュースーパーマリオブラザーズ2』、『神々のトライフォース』と過去作が多様。後に数名が『オクトエキスパンション』に関わる。
- プログラミングは『ニンテンドーランド』から多くが入る。また『マリオカート8』のProgramming Supportに15名が参加。62名中9名、15%は過去作不明。
- アートは部門によって様相が異なる。
- シニア・リードは『スカイウォードソード』経験者が16名中8名、50%。後に『ゼルダ無双 厄災の黙示録』に6名が参加。
- シネマやプロダクションアートを除くアート83名を見ると、『ゼノブレイドクロス』に59名、『スカイウォードソード』に41名が参加。
- プロダクションアートは21名中10名、47%が過去作不明。SEVENS DREAMSなど協力会社が主に担当。
- モデリング・アニメーション121名中37名、31%が過去作不明。イマジカデジタルスケープが目立ち、彼らは後に『キングダムハーツⅢ』に携わる。
- シネマ部門は殆どグラフィニカが担当。『ゼノブレイドクロス』が過去作、『ゼノブレイド2』にも携わった方が多い。
ここまで見ると、ゲームデザインやアートのシニア・リード、プログラミングは任天堂のこれまでの歴史の延長線上にありますが、アートの下支えとなる部分は『ゼノブレイドクロス』の体制が礎になったことがよく分かります。事実、『スカイウォードソード』は開発者を全員カウントしても243人ですが、『ブレスオブザワイルド』で888人まで膨れ上がりました。
その間にある『ゼノブレイドクロス』は597人です。大規模開発で数少ない例となった『ゼノブレイドクロス』の体制が『ブレスオブザワイルド』、『ゼノブレイド2』に引き継がれていったと考えられます。
それはモノリスソフトが、という話だけでなくモノリスソフトを含んだ協力会社と開発を密に行える体制、有り体に言えばAAAタイトル制作を行うような体制を構築する知見が『ゼノブレイドクロス』をきっかけに得られたという当たり前の話になります。
この連携は例えばイマジカデジタルスケープがモデリング・アニメーション、グラフィニカがシネマのようにアートでも部門によって会社を分けるというやり方も当てはまります。スクウェア・エニックスなどでは珍しくないですが、任天堂が本格的に行った契機は『ゼノブレイドクロス』からでした。
ちなみにブレスオブザワイルドの発売前インタビューで
「プログラマもデザイナーもサウンドも、とにかく全員ですから最後の方は300人規模でプレイ」
と『ゼルダの伝説』シリーズのプロデューサーである青沼氏はおっしゃってましたが、こちらの集計で347人、サウンドを含めれば360人ですから大体合ってます。ただ、これは今までの流れを見れば分かりますように、任天堂だけではありません。モノリスソフト含めた協力会社をカウントしなければ数字が合わないのです。スタッフリスト最後の方で「NintendoSDK Development Team」に協力会社が多数見えますが、Software Development Kitというシステム開発に相当する部門だけでなく、アーティストでも下請云々といった関係ではなく密な協力ができるようにしたと解釈できます。
news.denfaminicogamer.jp
そもそもな話、「独創」の精神を大切にする任天堂が他社の力を借りてまで大作を作るというのはちょっと不思議にも思えます。大作を目指したというよりかは、結果大作になったと考える方が"らしい"です。
『ブレスオブザワイルド』は大作志向を持つ旧スクウェアの流れにあるモノリスソフトが『ゼルダの伝説』に影響を及ぼした一つの例と言えるかも知れません。
分かりやすく"任天堂のAAAタイトル制作体制"と言ってもいいかも知れないこの形ですが、それが『ゼノブレイド3』、そして来年に発売する『ティアーズオブザキングダム』にどう関わっているか興味深いですね。その前にDE版ゼノブレイドからですが…。