United World社のハル研究所代表取締役会長 兼 CEO 谷村 正仁氏へのインタビュー記事において、1992年以降『星のカービィ』シリーズに注力したことが判明したハル研究所が、『ハコボーイ』シリーズを生み出した訳を今回は探っていきたいと思います。
インタビュー記事についてはこちらをご覧下さい。
カービィとキュービィの比較
似た名前を持つが性質は全く違う
まず最初に『星のカービィ』シリーズの主人公、カービィと『ハコボーイ』シリーズの主役、キュービィを比較してみましょう。
カービィは多種多様なコピー能力と、無制限な飛行能力を持つことで豊富なスタイルを実現させています。ジェットとウイングという似たコピー能力を持っていても操作感が全く違いますし、リーフやストーンで堅実なプレイもできればソードやカッター、ファイター、アイスで豊富な技を駆使したスタイリッシュなスタイルもできます。しかも体力は豊富で敵の攻撃を受けても簡単にはやられません。
キュービィはハコを出す能力は持っていますが、それは常時決められた数より多くは出せず、ハコは同時に2つ以上出すことは出来ません。*1ハコスネーク、ハコフックなどテクニックはありますがそれらは限定的な状況でしか効果を発揮できません。最新作『さよなら!ハコボーイ!』ではハコロケット、ハコボム、ハコワープ、ハコリモコンがキュービィに与えられましたがそれらは使えるステージが決まっています。しかも体力は虚弱で、針に当たれば即死亡となります。
両者を比較するとカービィは強く、器用でキュービィは弱く、不器用だと言えます。
キュービィがカービィに憧れるのも無理はない
『星のカービィ』シリーズではできないこと・できなくなったこと
カービィはゲーム的に非常に強力に設定されたキャラクターですが、小説や映画と同じように、あまりにも強いキャラクターは作品で生かすのが難しいことは変わりません。そのため、カービィには出来ない、そして出来なくなったことが3つあります。
1つ目は「遊びの幅が広いコピー能力は遊びを強制できない」ことです。カービィは豊富なコピー能力を持ちますが、そのコピー能力がステージのギミックに常に関係している訳ではありません。2Dアクションであるためあまりそう言われることはありませんが、筆者はカービィは「オープンワールドゲーム」に似たゲームデザインと思っています。というのも、1つのギミックに対する解法が必ず決まっているとは言えないからです。草むらの中に隠れた宝箱を探す際に、プレイヤーはカッターやソードで草を刈って取ることもできますが、ファイアで燃やして取ることもできるこのゲームは自由なゲームバランスを実現していますが、逆に言えば固定されたルールで遊びを強要することは難しくなっているのです。
同じ草を刈る行為でも操作感は違う
2つ目は、『タッチ!カービィ』以降よりカービィの能力剥奪にストーリーが必要になったことです。遊びを強制するカービィの作品は確かに存在します。所謂「外伝」として呼ばれる作品が該当します。しかし『タチカビ』以降の外伝作品は『あつめて!カービィ』『カービィファイターズZ』『デデデ大王のデデデでデンZ』『タッチ!カービィ スーパーレインボー』が存在しますが、内カービィが能力を失う『タチカビ』『あつカビ』『タチカビSR』ではカービィが能力を失うまでにストーリーが用意されています。*2このようなことは今までの『星のカービィ』シリーズには存在しませんでした。経緯はともかく、カービィの能力剥奪にストーリーを設けるというのはゲームに直接関係しない余計な部分であり、負担にもなり得ます。
最後の点として「カービィは死ねないキャラクターになっている」ことが挙げられます。『星のカービィ』シリーズには歴史があり、同時にカービィというキャラにも歴史が積み重なっています。今までの作品でカービィが死亡に近い活動不能に追いやられたことはありません。そうなるとキャラの生死を問うストーリーは展開できなくなります。
以上の3つの点
- 遊びの幅が広いコピー能力は遊びを強制できない
- 強制に必要な能力剥奪にストーリーが必要になった
- カービィを死なせることができない
は『星のカービィ』シリーズにおける鎖となっています。よって、謎解きがメイン、キャラクターの死亡、或いは生死不明が絡むストーリーのゲームは作ることが困難、若しくは不可能となっています。
もう1つの看板タイトルへ?
しかし、先ほど出した3つの点をキュービィは解決できています。能力は不器用ですが、不器用故にゲームとして出しやすく、現に『ハコボーイ!』シリーズは同じコアメンバーで2014年から2017年の間に3作も出しています。また、『ハコボーイ』が存在することで『星のカービィ』シリーズにも好影響を及ぼしている部分があります。それがカメラのズームダウンです。『星のカービィ トリプルデラックス』ではボス戦でカメラが動くようになりましたが、ステージ中にカメラを動かすと言うことは無く、カービィの大きさが決められた画一的な画面でステージを攻略することになっていました。そのためスケール感が出せていませんでした。
4-1はひたすら登っていくステージだったが、ズームダウンはしなかった
しかしその次に出た『ハコボーイ!』ではステージごとに、キュービィの大きさが代わり、ステージのスケールが変化するようになりました。意味合いは異なりますが、キュービィの線の表現に力を入れているとして同作ディレクター向江 康博が述べています。
17-8と17-1、ステージは違うがキュービィの大きさが変わっている
出典:ハコボーイ!キュービィの部屋:キュービィが聞く!制作者インタビュー!
そして『星のカービィ ロボボプラネット』では同じステージ中でカメラのズームダウンが用意され、状況に応じてスケール感を変更できるようになりました。
2-1、ここは同じ場面であるにも関わらずカービィの大きさが変わっている
このように『ハコボーイ』シリーズにおける開発が『星のカービィ』シリーズにも影響を与えていることが分かります。そもそも『星のカービィ トリプルデラックス』『星のカービィ ロボボプラネット』と『ハコボーイ』シリーズはコアメンバーがハル研究所山梨開発センターの人であるためフィードバックが効果的に反映されているとも言えます。
1992年以降、ハル研究所は『星のカービィ』シリーズに注力し続けてきましたが何故新たな作品を求め、そして何故1作品で終わる予定だった『ハコボーイ』に2作出すよう指示を出したのか。その答えは「カービィにできない新たな遊びを提案でき、切磋琢磨できる作品が必要だったから」だと筆者は考えます。
妄想:熊崎カービィがボス戦を重視する理由
現在の『星のカービィ』シリーズの一端を担う熊崎 信也がディレクションを務める「熊崎カービィ」はボス戦を重視しています。この傾向はカービィのコピー能力を特質を考えると以下のように考えることも出来ます。
カービィのコピー能力は多種多様で、それらが生み出す性質は無限大に広がります。それをステージに反映させることは昨今のオープンワールドゲームに見られるような膨大な行程へと繋がります。しかしボス戦ならばボスを追加するだけでコピー能力の特質は維持されたまま多様な遊びは実現でき、(ステージに比べて)プログラマーやデザイナーの負担は大きく減ることに繋がるのでは・・・?
単にディレクターがやりたいからというだけでは企画は通りません。その「やりたいこと」にメリットがあるからこそ企画は通り、製品として生まれるわけです。熊崎 信也がこういった発想をお披露目したことは一度もありませんが、今回改めてカービィの性質を考えてみて、このような妄想にたどり着きました。