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United World社による谷村 正仁へのインタビュー記事の翻訳

 今回はUnited World社のウェブサイト「The Worldfolio」に掲載された、ハル研究所代表取締役会長 兼 CEO 谷村 正仁へのインタビュー記事「HAL Laboratory bets on unique attention to details and customers’ happiness to be at the forefront of the dynamic gaming industry」の翻訳です。会長へのインタビューですので話題が多岐に渡ります。いつも通り、翻訳はだいぶいい加減です。

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ハル研究所はダイナミックなゲーム業界の最前線に立つために、顧客の幸福と作品の細部にユニークな注目を払っています。

 United World(以降、UWと呼称)とのインタビューにおいて、ハル研究所代表取締役会長 兼 CEOの谷村 正仁(以降、谷村と呼称)氏は業界が急速に成長しており、利益追求が他の多くの会社*1にとって新たな神秘的な呪文*2となったと言いましたが、世界的に有名な『星のカービィ』シリーズと任天堂の歴史的な協力者は、《幸福と楽しさ》のままです。発明と創造の文化はハル研究所内に強くあり続けており、そして(会社の)ゲームは特定の層を対象にする代わりに、遊ぶことで楽しめるように単純に開発されていると谷村氏は強く断言しています。

UW:あなたの視点から見ると、2020年までの日本経済をどのように見ているのか、そして日本経済が直面する重要なチャレンジは何でしょうか? 民間部門は日本経済の活性化に何が出来るでしょうか?

谷村:私は経済が成長すると信じています。政府は正しい構造改革と政策を実施しており、その展望は目標を上回る結果です。しかし、想定できない環境要因、例えば海外の状況や円の価値の変動により期待されている効果が限定されていると感じます*3。それにも関わらず、政策は正しい方向に進んでいるので、2020年までには道理に合った結果が得られるはずです。

 民間部門は新たな事業への利益の再配分と、賃金や給与の引き上げによる従業員への再配分に特別な努力を払うべきです。一方では、ハル研究所には大きな内部通貨準備金*4があります。ゲーム業界は非常にダイナミックなので、大ヒットしたときにたくさんのお金を稼いでいます。しかし全くヒットしない可能性もあり、深刻な損失を引き起こすこともあります。私たちの内部財務予備費は、そんな雨の日の準備として維持され、育てられています。

UW:2015年には世界のゲーム市場は915億ドルの規模に達し、今後3年間は毎年5%の成長が見込まれています。日本のゲーム市場は123億ドルに達し、中国と米国に次ぐ世界第3位の市場となりました。この成長の背景にある主な要因は何ですか? 今後5年間におけるコンソール*5ゲーム市場のトレンドは世界・国内でも期待していますか?

谷村:新興国のプレイヤーが市場に参入しているため、私たちの業界は拡大しています。この新たな購買層のセグメントは追加収益の重要な源泉をもたらしました。しかし、コンソールゲーム市場の成長は、一般的なゲーム分野の成長程大きくありません。

UW:1990年代、コンソールゲーム業界はゲーミングプラットフォームでした。最も売れた4つのゲーム機、PlayStation 2、ニンテンドーDS、ゲームボーイ、PlayStationは全て日本製で、今日における世界の上位のゲーム会社10社の内、5社が日本企業です。日本のゲーム産業はどう競争力があるのでしょうか?

谷村:まず1つ目に、メーカーの間では、常にビッグネーム間で激しい国内競争がありました。任天堂、SONY、SEGAは何年も戦っており、急速に変化する産業を作り出していました。この競争は歴史的です。2つ目に、プレイヤー側から、ゲーマーのサブカルチャーが同時に発展し始め、初期から常に数多くのプレイヤーが存在しました。

 これら2つの要因が業界の発展に大きく貢献しました。発展している競争と並んで数多くの要求の厳しいファン層が、開発者に最も革新的な製品を提供するよう促しました。

UW:1980年代以来、あなたは、数十年にわたるゲームコンソールの中で最も有名で認められている開拓者*6の1つ、任天堂と密接に協力してきました。任天堂との長期的な関係をどう思いますか?

谷村:ハル研究所が設立される前に生まれた、最初のパーソナルコンピュータの1つ、PET 2001が日本の店舗で販売されていました。その店では最終的にはハル研究所の社員になる大学生達が遊んで時間を過ごしていました。学生達は技術に精通していて、この種の機械がどのように機能しているかを知りたがっていました。

 内容やノウハウが公開されていない時、彼らはコンピュータをハックして内部システムを把握することが出来ました。この技術に精通した仲間がハル研究所を設立しました。そのため当初から、技術的な能力があり内部のコンピュータ機構を理解していた人々のグループがありました。この時、幸いなことにPET 2001に使用されていたCPUがファミリーコンピュータに利用されていたものと似ていたため、任天堂との連携の扉を開きました。この逸話は任天堂との協力が歴史的なものであることを示すものであり、そして長年にわたり、協力による信頼関係を確立しました。

 しかし、ハル研究所と任天堂は2つの異なる会社であることを明確にしたいと思います。私達のお客さんはしばしばこの関係について混乱し、ハル研究所が任天堂の一部であると誤って判断する傾向があります。ハル研究所は経営と企業文化双方において、世俗的*7で独立した会社です。

UW:2015年にハル研究所は創立35周年を迎えました。1980年以来、あなた方は『星のカービィ』シリーズや『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズのような記録的なゲームをリリースしています。これらの成功は何十年も、そして世代を超えています。この信じられないほどの長寿の基盤は何ですか?

谷村:私達が最も関心を持っているのは、私達の製品でお客さんをハッピーにすることです。これは「満足」と混同してはならないので、私は「ハッピー」という言葉を使います。実際にそのことを明確にしたいと思います。

 ハル研究所において、満足とハッピーは2つの別々のコンセプトであると考えています。満足は即物的なものを得るか、豊富なお金を獲得することで手に入れることが出来ますが、必ずしもそれでハッピーになるというわけではありません。一方で、一部の人々はそういったものを持たないか、殆ど無い状況でも「ハッピー」な状態で過ごしています。そして、消費者満足度を測定する指標はあります*8が、ゲームがもたらすハッピーは計算できるものではありません。文化的にインストールし、プレイヤー個々人専用にある何かなのです。

UW:では、あなた方はこの情報を得るためにクライアントへ直接調査を行いますか?それとも任天堂から来ますか?

谷村:データ収集に関する経験はありますが、日本では、会社は米国企業と同じ程度の顧客満足に関するデータは収集していません。勿論日本の殆どの企業は顧客満足度に注意を払っていますが、(ハル研究所の)クリエイターは指標に依存した製品を作りません。代わりに、彼らはそれを想像し、仮定し、思考する必要があります。命題は「この製品のどの部分が幸福をもたらすことができるのか」というものです。そのため、根底にある会社概念、心象風景のようなものに寄っています。

UW:あなたは80年代、90年代の短期間に米国に子会社 HAL Americaを設立し、米国市場に浸透しました。再度米国に参入する予定はありますか?

谷村:一口に言いますと、私達はお客さんをハッピーにし続けたいと考えています。同時に私達は多くの顧客を獲得し続けており、課題にもなっています。

 1992年、私達は『星のカービィ』シリーズの最初のゲームをリリースしました。その瞬間まで、私達はできるだけ早く、できるだけ多くのゲームを開発し、利益を最大化することに集中していました。非常に多くのゲームを開発することは、それが本当に利益を生み出す方法なのか疑問に思ったので、戦略を変えることにしたのです。『星のカービィ』シリーズの2作目から、プレイヤーがどの『カービィ』シリーズの作品から始めても楽しめることを常に確実にし、プレイヤーが「楽しみに終わりは無い」と思える創作を始めました。*9

 その理由のため、メインキャラクターからデコレーションの花まで、少しずつあらゆる小さなものを取り除く前に、生産する商品の数を減らしてそのシリーズを特徴付ける世界観の根本的要素を作り出しました。それをとりわけ、遊ぶことの楽しさに向けるために*10。10年後、カービィの人気は急上昇し、日本のゲームのよく知られたアイコンとなりました。

 しかし、米国ではそうではありませんでした。そこで『星のカービィ』を宣伝するために異なった戦略を取ることに決め、アニメーションを通じて紹介し、大成功を収めました。したがって、我々は既に米国市場に挑戦しています。今日では、米国で日本より『星のカービィ』シリーズの作品が多く販売されることもありますが、今後もそうすることを計画しています。

UW:最新の作品である『星のカービィ ロボボプラネット』は2016年6月時点の販売本数で30万本を突破しました。このゲームの特徴にして、市場の他のゲームとは違う物を教えて下さい。

谷村:『星のカービィ』シリーズの成功の鍵は、特定の層に向けて開発していないことです。初心者や経験豊かなプレイヤーにも楽しめるようにしています。年齢、性別、国籍、履歴に関わらず、私達は誰もがプレイできるゲームを開発しています。

 私は時々気泡緩衝材*11を押す感覚と私達の作品を比較しています。プチプチは押すだけで楽しいのですから! それと同じように私達は、ゲームする時にお客さんに楽しい時間を過ごさせたいのです。それが私達を導く大きな原則です。『星のカービィ ロボボプラネット』については私達作成段階に費やした莫大な努力、細部への配慮、そして様々な難易度を強調したいと思います。

UW:あなたはどのような大望を持っていますか?

谷村:私の大望は企業理念を維持し、拡大することです。それは必ずしもハル研究所をより大きくする必要があるということを意味しません。勿論、私は従業員の生活を改善させるのに十分な程の利益を得たいと思っております。しかし、私はお金のために会社を爆破させたくありません。利益のためにお客さんの幸せを犠牲にしたくありません。この業界の一部の企業は、できるだけ利益を上げることを最優先事項に設定しましたが、この点では異なります。

  私達は、核心である「ハッピーと楽しさ」に忠実なままハル研究所を世界中の有名人に周知させ、『星のカービィ』シリーズと同じぐらい有名にさせたいと考えています。

*1:原文は「player」ですが、「業界のプレイヤー」と捉え会社と訳しました。

*2:原文は「mantra」なのでマントラでもいいですが、意味が分からないと思うためこのようにしました

*3:原文に「feel」はありませんが、主張を個人的なものと考え付け加えました

*4:仰々しいですが、要は貯蓄です

*5:原文の「console」はスマホとの比較と考え、据え置き・携帯機双方を含むコンソールとしました

*6:原文は「conceivers」で意味は「新しいことを作り出す人」ですが、似た意味として開拓者と訳しました

*7:原文は「secular」です。どう訳せばいいのか分かりませんでした。別に神秘的でも何でもないということでしょうか?

*8:消費者によるレビューがそれに当てはまるでしょうか

*9:要はシリーズでもマンネリ化を防ぐために、どの作品をやっても楽しいような形にしたと言えます。星のカービィシリーズに純粋なリメイク作品が殆ど無いのはそれが理由でしょう。

*10:若干難しいですが、『星のカービィ』にロロロやラララが出るように、ハル研究所で元からあった作品の要素を持ち出してきたことを言っていると思います。

*11:「プチプチ」のことです。