『星のカービィ ミュージアム』に行ってきました。そこで得られた知見について報告します。なお、写真は一切ありません。
9/23…桜井政博の企画書をじっくりと見ることが出来ましたのでその辺りで分かったことを加えました。
KB16-P0704
カービィミュージアムには数量限定フィギュアや桜井・熊崎両氏のサイン、「Into the Pixel」出品作、ミラーボールなど様々なものが展示されています。これらの展示品には見出しの通り、「KB16-P0704」というコードが割り振られていました。この「KB○○-P○○○○」という形式は広告用のコードとして扱われているようですので、これらの展示品は広告として登録されている可能性があります。ちなみに、「16」や「0704」という数字は年月日ではなく通し番号です。形式としてはカービィwikiでまとめられている商品コードと変わりません。
『Wii』の企画書において
元々集中している分析対象が熊崎信也であることと、桜井政博が書いた企画書の展示場における見物人の多さでそれらが集中して見られなかったことが原因で『Wii』の企画書に集中しています。
熊崎は開発一課所属(2010年当時)
『星のカービィWii』の企画書の展示には表紙も用意されており、そこには「開発一課:熊崎信也」と書かれていました。開発一課は山梨に存在しており、中心は山梨開発センターのスタッフで構成されていたと予想できます。なお、この名称は現在は利用されていないと考えるべきです。というのも、任天堂の「CSRレポート2015」の開発パートナーの声で登場した、ハル研究所の川瀬 滋史の肩書きはこうなっているからです。
株式会社ハル研究所 取締役
第2開発部 部長
そのため、現在は開発一課ではなく第1開発部に名称変更が為されていると類推できます。
いつでもイン、いつでもアウトが『Wii』の目玉
『星のカービィWii』の目玉と言えばスーパー能力を思い浮かぶ方が多いと思いますが『Wii』の企画書にはこのスーパー能力は入っていませんでした。このことは社長が訊く『星のカービィWii』でも言及されていました。
スーパー能力に関しては、
わたしが提出した最初の企画書には入れていなかったのです。
じつはスーパー能力は、3作目の仕様にあったもので、
当時も考えうる限りの実験をすごくやっていて、
それでもまとまらなかったものになります。
最終的には実装しましたが、正直、それに手をつけるのは、
最初は恐かったです。
過去の資産
この「資産」は、2つ存在すると見えました。まず1つ目は「今までに築かれたカービィ達のモデル」です。『Wii』の企画書には『星のカービィGC(仮)』よりは緻密な、しかし現在の『星のカービィWii』よりは粗いカービィ、デデデ大王、メタナイト、ワドルディが出ています。開発中止となったプロジェクトが土台となり、開発チームの血肉となっていた過程が筆者には見えました。
2つ目は「USDXで得られた経験」です。企画書でいつでもイン・アウトの説明の際に利用された背景画像は『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』が元です。両作のディレクターである熊崎 信也も
(少し考えて)
いえ・・・「やってやろう!」と思いました。
そう思えたのも、以前に『ウルトラスーパーデラックス』を
担当していたことが、経験として役に立ちました。
過去作における企画ディレクションが役に立ったことを言葉にしています。そういった経験はソフトウェアだけでなく、背景画像のようなハードウェアにも存在したのでしょう。
6体のマホロアから見る、今のデザイナー達のやり方(9/23追加)
恐らく差し替え後に登場したと思われる展示品ですが、『Wii』の企画書展示の下の方には没となったボス形態のマホロアの詳細な絵が6枚程置かれていました。話題となった「ハルトマンに似た、老人をモチーフとしたマホロア」もこの中の1つとして登場していました。
披露されていたものは、正体を見せるためにマホロアの元々の体が殆ど見えないもの、マホロアの下腹部辺りから生える巨大な黄金の牙などどれも非常にグロテスクな様となっていました。これらの絵はどれも簡易なスケッチとは思えず、事前に基調とする色、スケールが詳しく決められた中で描かれたと推測しました。しかし、絵を描く際の形式、道具は決められていたとは思えませんでした。採用された案に付随する説明*1とは明らかに異なった、手書きのような字が付いている案が存在したからです。
このような特徴は、スージーのしんりゃくレポート第3回で紹介されたスージーのスケッチ群と類似しています。ここで登場しているスージーの案はどれも異なった道具、ツール、描き方を用いて生み出されています。同じ原則から両者の制作に取りかかっていると仮定するなら、キャラクター制作の初期段階は勿論、キャラクターの方向性が大体決まった時点でもデザイナーそれぞれの環境を優先させているのがハル研究所、特に山梨開発センターのデザイナー達のやり方なのでしょう。
衛星軌道攻撃というアイデアはどこから?
『星のカービィ スーパーデラックス』の企画書にはSATELLITEという能力の案が書かれていました。内容は「指定した地点を、軌道上の衛星に攻撃をさせる」という、遠隔火力支援を表すものでした。現在では主に近未来戦、未来戦を採用している作品などでこの要素は実装されており、そこまで珍しいものではありません。ですが、この企画書が生まれたのは遅くとも1995年。1995年に、軌道上の衛星を利用して攻撃させるというアイデアが浮かんだ桜井 政博の引き出しの広さに驚かされました。同時に、かつて関わった作品である『星のカービィ 夢の泉の物語』のファンタジー的な世界を破壊しかねない要素を企画書に盛り込むという彼の姿勢も感じ取れます。
「です・ます」調から「だ・である調」(9/23追加)
今回展示された、桜井政博の『星のカービィ』と『星のカービィ 夢の泉の物語』の企画書を比較すると大きな違いがあります。それが語尾の変化です。『初代』の企画書においては「です・ます」調だったのが、『夢の泉の物語』では「だ・である」調になっているからです。
『初代』制作時点の桜井は何の実績も持っていませんでした。しかも開発メンバーは全員自分より年上。そのような環境では丁寧な雰囲気が感じ取られる「です・ます」調で企画書を書くのが自然と言えます。その後、『初代』の実績を手に入れた彼は、語尾が簡素になって説明に更なるスペースを割ける「だ・である」調に変えていったのでしょう。
『スマブラ』へ続く道(9/23追加)
『初代』の企画書に書かれていたポポポの特徴には「体力のある時は弾かれづらく、体力のない時は弾かれやすい」と、「ほおばり状態では弾かれづらい」というものがありました。前者はゲーム中には反映されておりませんが、後者はわずかではありますが実感できます。このような"体力・状態の変化で、吹っ飛びやすさが変わる"という特徴は企画書でも説明されている様に、ゲームボーイの小さな画面でこそ通用すると桜井は考えていたようです。後にこの部分は『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズの最大の特徴として表舞台に立つことになります。つまり、ポポポというキャラ、『ティンクル・ポポ』という作品を生み出す際に誕生したアイデアが後に生かされたと言えるのです。
*1:プププ大全:127