Papen's Piling

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【妄想】阿部哲也という後見人

 

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出典:『星のカービィ ロボボプラネット』プラチナ殿堂入り! | ハル研ブログ | ハル研究所

 今回は所謂「熊崎カービィ」のスタッフリストでプロジェクトマネージメントとしてクレジットされる阿部哲也の存在がどう影響しているのかの記事です。写真の右端に写っている方です。

何故彼について話すのか?

 まず多くの方は「何故、阿部哲也という人について話そうとするのか?」と思うでしょう。これについてはN.O.Mで行われた『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』のスタッフインタビューと、ハル研ブログのこちらの記事を見れば筆者の意図が読めると思います。どちらも阿部 哲也がインタビュー対象、集合写真の一メンバーとして登場しています。特に後者の4名が写った写真については左からプログラムディレクター(永田 善裕)、コ・プロデューサー(上武 理志)、ゼネラルディレクター(熊崎 信也)、プロジェクトマネージメント(阿部 哲也)とプロジェクト遂行に重要なメンバーのみのものですので彼の重要性というのがぼんやりながらも分かります。

 そもそもな話、そのようなソースを出さずとも阿部 哲也は『USDX』、『星のカービィWii』、『星のカービィ トリプルデラックス』、『星のカービィ ロボボプラネット』という「熊崎カービィ」、つまり現状の王道作品のプロジェクトマネージメントを連続して務めていることが各作品のスタッフリストから判明します。

プロジェクトマネージメントの立ち位置

 では、プロジェクト遂行に重要な役職、プロジェクトマネージメントとは何か。実は一般論を出さずとも、HAL研内部での定義がネット上に存在します。この記事の2番でも紹介されています。

dougin-1809.hatenablog.jp

大乱闘スマッシュブラザーズDXの開発スタッフインタビューで、プロジェクトリーダーとして登場した倉岡 龍樹。彼は『スマブラDX』のスタッフリストでは「プロジェクトマネージャー」としてクレジットされています。阿部 哲也もN.O.Mの記事では肩書が「プロジェクトマネージャー」ですので、「プロジェクトリーダー」という意味合いを継承していると言えます。

 ではこのプロジェクトリーダーが何をしているのか、仕事の一例として以下のことが挙げられます。引用してみましょう。

話は変わりますが、今回の開発での発見についてもお話ししたいと思います。
この開発の途中、プログラマーの増員と同時にブースの配置変えが起きました。
個々のブースは基本的に壁で仕切られていて、椅子に座ると顔が見えなくなって
しまうのですが、リーダーの意向によりこの壁を取り払い、広いスペースを作って
皆が一望できるようなブース配置に切り替わりました。

出典:『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』開発後記 vol.1(要スクロール)

このような開発環境の変更・整備に対する決定権を持っていると筆者は考えました。引用部分では"リーダー"としか表記されていませんので、何故リーダー=プロジェクトリーダーとなるか説明していきます。

 まず、このような開発環境の変更・整備に対する決定権(と責任)を持つ役職はディレクター、プロジェクトリーダー、各分野のリーダー(ここではプログラミングが該当します)の3つに限られるでしょう。少なくともHAL研において開発環境を、現場に直接関わらないプロデューサーが勝手に変更することはあり得ないと思ったからです。ですが、ディレクターは候補から外れます。『USDX』のディレクターは熊崎 信也ですが彼は「星のカービィ ロボボプラネット大質問会!回答編」の第一回目でこのようなことを発言しているからです。

より少ない開発期間とスタッフで、前作の要素を活かしつつも既視感の無いものにしてほしい、というのがプロデューサーからのオーダーで、やりがいを感じつつも、とても大変な開発でした。
前作のシステムを活かすと遊びの部分が似てしまいますし、またカービィらしさと斬新さの両立にも苦労しました。
改善できる点や、やり残したことはいつも当然にようにあって、それを次回へのモチベーションにしています。きっと、これは永遠に無くならないでしょう。

出典:星のカービィ ロボボプラネット大質問会!回答編

"より少ない開発期間とスタッフ"、この発言は彼に人事権が存在しないことを表していると言えます。2016年時点で彼にその権利が無いのであれば、2008年の熊崎がそれを保有しているとは言えません。要求に応じてプロジェクトを遂行する現場指揮官が彼の役割なのです。そうなると候補はプロジェクトリーダーとプログラミングディレクターの2つとなります。しかしプログラミングディレクターは各分野のリーダー、論理的にはディレクターより下です。増員の提言は出来たとしても最終的な決定権は持ち得ません。そもそも、ハル研究所はある単一のプロジェクトに全てのリソースを投入する会社ではありません。『USDX』開発時には『星のカービィWii』の原型となる星のカービィが生まれようと(結局開発中止となりましたが)していましたから、そことの調整が必須となります。

 そんな中でプロジェクト全体の管理者でありながら、外部との調整ができる人は誰なのか。それがプロジェクトマネージメントを務める阿部哲也ではないか、筆者はそう思ったのです。内部ではプロジェクトの管理者となっている彼がプロジェクト外部と交渉しながら開発リソースの投入(プログラマーの増員)や環境の変更(ブースを開放的にする)といった大規模な変更に対する最終的な責任を負った…そのような理論展開を筆者は行いました。

組織として動くには

  ゲームに限りませんが、プロジェクトの遂行は個人の努力のみでは達成できません。そうなると一人一人の役割が大事になってきます。ディレクターが全ての分野に目を遣ることはできないのです。ある程度の仕事を委任できなければ個人にかかる負担が肥大化し、プロジェクト遂行中に倒れることもあり得ます。熊崎がゲームの監修に注力している間、阿部はプロジェクトマネージメントという立場で外部との交渉や、環境の整備や管理に力を注いで『星のカービィ』という作品を生み出していると言えます。

 阿部 哲也は『星のカービィ 夢の泉の物語』でプログラマーとして参加していますので、遅くとも1993年にはハル研究所に加わっています。つまり、2002年入社の熊崎より年上ですので、上司になり得ます。この状況は「デザイナーなのでプログラムについて詳しくない熊崎が、異業種に詳しい上司と協力しながら己の仕事に最善を尽くす」という構図でもあるのです。その時の阿部は、熊崎にとっての「後見人」に当たるのではないか。そこまで言っても良いのではないかと筆者は思いました。何せ、熊崎がディレクターとして関わる『星のカービィ』シリーズの全て*1に阿部はプロジェクトマネージメント、言い換えればプロジェクトリーダーとして参加しているのですから。

*1:USDX、Wii、TDX、カビファZ、デデデンZ、ロボプラのスタッフリストを見れば分かります。例外はありません