今回はこちらの記事に感銘を受けた筆者が、『星のカービィ』シリーズ、『大乱闘スマッシュブラザーズX』、『新・光神話 パルテナの鏡』で桜井 政博のゲームシナリオがどうなっていったかを分析していきたいと思います。
こちらの記事を踏まえた上で話していきますので、まずはそれを読むことを推奨します。一応最初に、彼の描くゲームシナリオについて簡単に定義はしますが。
8/25…『スマブラX』、『新パルテナ』の後半部分を大幅に変更しました。
- 桜井のゲームシナリオの本質
- 『星のカービィ』シリーズ
- 『大乱闘スマッシュブラザーズX』「亜空の使者」
- 『新・光神話 パルテナの鏡』
- Ex1.『星のカービィ スーパーデラックス』「メタナイトの逆襲」
- Ex2.『星のカービィWii』
- 「銀河にねがいを」以降の発展
桜井のゲームシナリオの本質
桜井 政博のゲームシナリオは基本をベースとしており、時期にもよりますが主に2つの要素を持っています。
- 大事なものが没収される
- 種明かし
没収については、いつ奪われるのかという分岐点を持っており、稀に数度に渡って没収されることもあります。
『星のカービィ』シリーズ
桜井 政博のデビュー作は『星のカービィ』です。つまり、彼のゲームシナリオもここが始まりとなっています。彼の初期のゲームシナリオを知るにはここを調べるのが最良です。
『星のカービィ』
- 没収物:たべもの(開始時点)
- 種明かし:なし
- 特徴:平凡なストーリー
ストーリーをカービィwikiから孫引きしてみます。
『星のカービィ』取扱説明書 p.2~p.3より
それは、地球からずっとずっと遠く離れた小さな星の、そのまた小さな国のお話です。
その国のひとたちはあきれかえるほどの平和な生活を楽しんでいました。
その国の名前は「プププランド」といいます。しかし、長く続いたプププランドの平和も、おしまいの時がやってきました。
ある日の晩、丘のむこうの「デデデ山」から、くいしんぼうで有名な「デデデ大王」とその手下たちがやってきて、一晩でプププランドの食べ物という食べ物をドロボウしてしまったのです。
そしてそれどころか、その国に伝わる空飛ぶ秘宝「きらきらぼし」までも奪いさってしまったのです。宝物を奪われたひとびとは悲しみましたが、それよりも、おなががすくのはもっと困ります。
みんなどうしようかなとなやんでいる時、ひとりの若者がプププランドにやってきました。その若者は旅の途中でした。
しかし、プププランドのひとびとが困っていることを聞くと、みんなの食べ物をぼくが取り戻し、みんなおなかいっぱいごはんを食べられるようにしてあげようと、ひとりでデデデ山へとむかっていきました。はるかぜとともに現れたゆうかんな若者。その名は「カービィ」。
プププランドのみんなのおなかを満たすため、それいけカービィ、がんばれカービィ!!
簡単に言うと奪われた状態からスタートするのが初代のシナリオです。この形は『スマブラX』まで続きます。ただし、それはカービィとは直接関係はしておらず、プレイヤーにも焦りが生じ辛い様となっています。『星のカービィ』は間口の広いアクションゲームというコンセプトを持って生まれましたが、こういった"少ない危機感"を伴ったスタートもそれに組み込まれている節があると思いました。
ちなみに記念すべき桜井 政博の初のゲームシナリオは、初めてということもあり後に言及される要素もかなり抜けています。種明かしは起こりませんし、ストーリーとしては平凡です。*1
『星のカービィ 夢の泉の物語』
- 没収物:夢(開始時点)
- 種明かし:デデデ戦後
- 特徴:種明かし導入、スターロッドによる状況打開
プププランドのひとたちが突然、夢を見ることが出来なくなってしまう。それは、プププランドの果てにある「夢の泉」という夢が湧くところで、デデデ大王が水浴びをして遊んでいたからであった。夢の泉の力の源であるスターロッドもデデデの手下に配られてしまう。カービィはみんなの楽しいおひるねタイムを取り戻すため、冒険に出る。
夢の泉が機能停止を余儀なくされたため、人々が夢を見られなくなってしまった中、カービィは夢の泉へ向かうという物語。構図としては『初代』と変わりません。
- 没収物がたべもの→夢
- 向かう場所がデデデ山→夢の泉
ですが、前は悪役としての側面が強かったデデデが種明かしの要員として使われるようになったのが大きな変更点として挙げられます。これにより終盤で物語の真相が判明するようになりました。また、この終盤の展開で、スターロッドのかけらを集めることでナイトメアの封印を解いてしまいますが、カービィがそのスターロッドを操ってナイトメア撃退に向かうため、それまでの冒険がムダになったとは受け取り辛い様に施されています。
『星のカービィ スーパーデラックス』「銀河にねがいを」
- 没収物:昼夜の概念(開始時点)、願い(後半)
- 種明かし:ギャラクティック・ノヴァ出現後
- 特徴:後半における没収を実装、スターシップによる状況打開
太陽と月が喧嘩し、昼も夜もめちゃくちゃになってしまった。カービィ達が困っている時、マルクが現れる。マルクは「大彗星ノヴァにお願いして喧嘩を止めてもらうと良い」と提案する。続いて「ノヴァはポップスターの周辺にある星のパワーを集めないと呼び出せない」と言う。太陽と月の喧嘩を止めるため、マルクの言うとおりノヴァを呼び出し、お願いするため、カービィは旅立つ。
「銀河にねがいを」は開始時点でポップスターの昼夜の概念が消失しており、マルクの提案でギャラクティック・ノヴァを呼び出すことになります。プレイヤーが星のパワーを集めて、最終的にギャラクティック・ノヴァを呼び出しますがそれをマルクに横取りされ、宇宙に放置されてしまいます。ですが、今まで集めた星々のパワーがスターシップとなったことで反撃開始。ノヴァにダメージを与えてそのままマルクへの最終決戦となります。
「銀河にねがいを」で桜井のシナリオは一つの完成を迎えました。ここで彼は後半における没収を実装したからです。逆境からの敵の打倒は『夢の泉の物語』からもありましたが、今回はギャラクティック・ノヴァに願いを言う権利という大事なものが奪われ、深みがより増しました。『夢の泉の物語』のように自分で集めたもので戦局を打開するのも大きな特徴です。また、マルクの計画は文字で書き起こされたため、『夢の泉の物語』より分かりやすくなっています。
余談ですが、このスターシップは興味深い小道具です。このアイテムはプレイヤーが星々のパワーを集めることで誕生しますが、これをマルクは知りません。マルクには星々のパワーを集めることは"面倒"でしかなく、だからこそカービィに押し付けたのでしょう。彼が地道に集めていればこのような事態にはならなかったのですが、面倒だと思ってしまったためスターシップのことを知るに至らず、この最初で唯一のミスがスターシップを駆るカービィの猛攻により致命的なものとなり、計画が水の泡となりました。スターロッドからスターシップと名前は単純な変化に過ぎませんが、マルクの心理を踏まえた上での新たな小道具の創造は、お見事だと言えます。
『大乱闘スマッシュブラザーズX』「亜空の使者」
- 没収物:ピーチorゼルダ(序盤)、亜空間に突入したファイター達(後半)
- 種明かし:バッジによるファイター復活
- 特徴:プレイヤーが関係しない場で状況打開、種明かし後に続く怒涛の展開
「亜空の使者」ではまず序盤にピーチか、ゼルダのどちらかが敵に囚われたまま物語が進みます。その後、後半のタブーによるOFF波動でファイターの大半がフィギュア化してしまいます。また、それと同時にデデデがフィギュア化したファイターに自分の顔をモチーフにしたバッジを付けていた理由が判明します。
没収と種明かしがほぼ同時に来る特徴は「銀河にねがいを」と共通しており、さらにそれを発展させたシナリオと言えます。ファイターは亜空間突入時点で30体近くの大所帯を形成していますが、その全てが操作不能となるこの展開。プレイヤーに対する衝撃はかなりのものです。また、その時になって一時的に衝突したデデデの思惑がようやく分かり、今までの戦いが無駄になったのではないか、下手すれば状況を悪化させるだけのものだったのではと懸念できる程、響く形となっています。『夢の泉の物語』や『SDX』の「銀河にねがいを」とは違い、プレイヤーが集めたものが事態解決を導く訳ではないからです。
尚、「亜空の使者」は大きな進化を見せています。「銀河にねがいを」までは種明かし後、即最終決戦となりましたが、本作では今まで悪役のポジションであったクッパ、ガノンドロフ、ワリオと関係を修復し、復活させたファイター達と共にタブーの用意した大迷宮に挑戦するという決して短くない道のりが用意されています。この種明かし後も続く怒涛の展開は桜井 政博の次回作に当たる『新パルテナ』にも引き継がれています。
『新・光神話 パルテナの鏡』
- 没収物:ピット、パルテナ(後半)
- 種明かし:混沌の遣いとの対決
- 特徴:若干コミカルだが、基本は王道なシナリオ
現状、桜井が手がけた最新のシナリオとなります。ここではピットが指輪になってから没収と種明かしが起きます。ただ、それらがシナリオの核となっている訳ではなく、あくまでも1つの盛り上がりとして用意されています。ピットもパルテナも戦線復帰、さらに言えば、紆余曲折はありますが元の状態となってからクライマックスとなります。そもそもな話、本作では開始時点、序盤に大事なものが失われている、失われるという設定はありません。庇護対象の人間が攻撃される展開はありますが、直接的なものではないです。
神々の争いという人間の価値観では正確に判断できない本作の脚本*2、シリアスなイメージは、ほぼ常時繰り広げられる「天界漫才」や、メデューサ戦後代表的な悪役となるハデスとナチュレのフリーダムさによって終盤まではかなり薄まっています。
しかし終盤から、つまり先ほど述べた、ピットが指輪になってから急展開を見せます。今までピットを支援してきた女神パルテナと戦わなければならなくなったり、奇跡を伴っても5分しか飛行できず、それ以上飛ぶと羽が焼け落ちるピットの設定が悲劇を起こしたり、メデューサ撃破の武器となった三種の神器を簡単に破壊したハデスが、真・三種の神器により今までの態度を変え、本気を見せたりと"真面目な"展開となります。この辺りは『スマブラX』の「亜空の使者」で実装された、種明かし後も続く怒涛の展開を発展させたものと捉えることもできます。
Ex1.『星のカービィ スーパーデラックス』「メタナイトの逆襲」
- 没収物:プププランド(予定)
- 種明かし:なし
- 特徴:時間制限
ここまでシナリオを見てきて、「他に桜井が作ったシナリオはあるじゃん」と思われた方もいらっしゃると思います。恐らく指摘されるであろう桜井が手がけたシナリオというのは「メタナイトの逆襲」です。このシナリオは連続した比較の対象に入らなかったことからも分かる通り、彼としては異質なものです。
まずここでは没収物はプププランドですが、これは現在進行形で奪われていくようになっています。このモードでは『星のカービィ』シリーズでは珍しい時間制限が存在しますが、それがメタナイト率いるメタナイツによる、プププランドにおける革命完了までのタイマーとなります。カービィはそのタイマーが0になるまでに彼らの野望を阻止しなければならないのです。このような点は桜井が手がけた他のシナリオには存在しません。
残念なことに「メタナイトの逆襲」に関する話題は、週刊ファミ通に掲載されている桜井 政博のコラムには一度も出てきていません。彼が何故このような脚本を作ろうと思ったのかは彼自身、そしてメタナイトの逆襲に関わったスタッフのみぞ知る部分です。多分、今後も明かされないでしょう。
Ex2.『星のカービィWii』
- 没収物:ローアを構成するパーツ(開始時点)、ローア(後半)
- 種明かし:ランディア戦後
- 特徴:悲壮的、プレイヤーの手で集めたものが敵に
『星のカービィWii』に桜井は"一切"関わっていませんが、シナリオが「銀河にねがいを」に類似しており、発展した形態ですので一緒に比較してみました。
種明かしの部分は「銀河にねがいを」におけるマルクと殆ど変わりませんが、没収物では『Wii』ではローアとなり、大きく変わっています。ローアはレベルクリアごとに流れるムービーで徐々に完成していきますが、終盤にこのローアがプレイヤーに牙を向く展開となります。しかもこの時プレイヤーが集めたパーツで攻撃を仕掛けてきます。これは「銀河にねがいを」におけるスターシップと対照的です。自らの手で完成させたものが、スターシップでは状況打開の切り札になりましたが、ローアは敵の野望阻止を邪魔する尖兵となりますから。
ローアを倒した後、マホロアとの最終決戦となりますがこの時点でローアは黒煙を上げながら墜落、ランディアもマホロアの魔光弾で撃墜されています。つまり、マホロアに勝ってもポップスターに帰れるという保証は存在しません。*3帰還は絶望視された中での最終決戦となるのです。スペシャルメッセージに「早く帰ってご飯を食べて寝よう」という楽観的なものがないのは、そのような状況を反映させたからとも言えます。この悲壮的なシナリオは『Wii』のディレクター、熊崎 信也の嗜好が影響していると考えることもできます。
「銀河にねがいを」以降の発展
ここまで例外も見ながら桜井 政博のシナリオについて見てきましたが、彼のゲームシナリオは『SDX』の「銀河にねがいを」で大体の完成となり、『スマブラX』の「亜空の使者」や『新パルテナ』では種明かし後も続く怒涛の展開が導入されています。ただし、全てが連続している訳ではなく、特に『新パルテナ』は開始時点で大事なものが没収されている様子は薄くなり、指輪になる展開も過程をスキップさせて喪失感が緩和されています。つまり、彼のシナリオは今も発展し続けています。今後どうなるか断言することは難しいですが、序盤の没収が弱くなり、終盤の展開をさらに緻密なものとすることは想定できると思います。