午前に私はこのようなツイートをしました。
タチカビでカービィを文字通りのボウルにすることをシナリオに組み込ませた結果、以降の外伝ではカービィから能力を奪うため、ラスボスの設定上の力をインフレ化させる必要があった。
— パーペン (@Papen_GaW) 2016年6月15日
ネクロディアスやダーククラフターが「設定上は最強」となったのもタチカビの影響だろう。タチカビ程練られていないのでギャップが生じてしまったが(後者はカービィロケットの操作に慣れていないとキツイが)
— パーペン (@Papen_GaW) 2016年6月15日
その後、デデデ大王の再定義へと話がズレましたが、このように『タッチ!カービィ』は後の『カービィシリーズ』の番外に多大なる影響を与えたのではないかと私は考えました。それについて今回は詳しく見ていきたいと思います。
8/7…8月7日に設定したフォーマットに従い、文末形式を「です・ます」調に変更しました。また、内容を一部修正しました。
番外とは
「番外」というのは非公式の名称に過ぎません。しかし、対となる言葉が公式では使われています。それが「王道」です。こちらは社長が訊く『星のカービィ Wii』で使用されております。
岩田 完全新作、正統王道カービィが11年ぶりにできましたね。
(出典:社長が訊く『星のカービィ Wii』)
端的に言えば吸い込みのシステムを導入されたカービィを指します。日本ではタイトルに「星の」が付くものがこれに当たります。尚、実際に使用されている王道の意味とはかけ離れており、あくまでも社内用語の1つとして利用されているのが理解できます。
とにかく、ここでの番外はその対を意味するため「吸い込みのシステムがないカービィ」となります。そのため
- 『カービィのピンボール』(以降ピンボール)
- 『カービィボウル』(ボウル)
- 『カービィのブロックボール』(ブロックボール)
- 『カービィのきらきらきっず』(きらきらきっず、GB・SFC)
- 『コロコロカービィ』(コロカビ)
- 『カービィのエアライド』(エアライド)
- 『タッチ!カービィ』(タチカビ)
- 『毛糸のカービィ』(毛糸)
- 『あつめて!カービィ』(あつカビ)
- 『カービィファイターズZ』(カビファZ)
- 『デデデ大王のデデデでデンZ』(デデデンZ)
- 『タッチ!カービィ スーパーレインボー』(タチカビSR)
の12作品が当てはまります。『きらきらきっず』のGBとSFCはグラフィックやBGM、登場キャラが別物なので、13作品と考えても良いですが。
『タチカビ』以前の番外の共通点
タチカビの登場前にピンボール、ボウル、ブロックボール、きらきらきっず、コロカビ、エアライドの6作品が生まれましたが、これらの作品の共通点はこの2つに絞られます。
- 動機の無いストーリー展開
- デデデは悪役
カービィシリーズは番外では主にボールを活かしたゲームやパズルゲームを展開してきました。それらをカービィ達がやるに至るまでの過程はあまり描かれていません。カービィwikiからボウル、きらきらきっずSFC、コロカビのストーリーを引用してみましょう。
ボウル
あるプププランドの夜、カービィが窓から空を見上げると星が1つしかないことに気づく。心配そうに寂しい夜空を見上げていると、そこにデデデ大王が飛んできて最後の星を奪っていってしまった。星たちがいなくなったのはデデデ大王の仕業だったのだ。プププランドの夜空の星を取り戻すためにカービィは旅に出るのであった。
きらきらきっずSFC
SFC版『カービィのきらきらきっず』取扱説明書 p.16〜p.17より
ポップスターも寝静まった頃、夜空をみながら、いたずらを考えていたデデデ大王は、すごい速さで飛んでいるきらきらぼしをみつけました。
「星くん」が欲しくなったデデデ大王は、大砲で星くんを攻撃しました。
攻撃された星くんの体は「かけら」になって、島のあちこちに散らばっていきます。
飛べなくなった星くんは、カービィの上に落ちてきました。「ほしのかけら」を集めないと、星くんは、お空に帰れません。
カービィは「ほしのかけら」を一緒に集めることにするのでした。
星くんと一緒に、島に散らばった「ほしのかけら」を集めてください。
「ほしのかけら」は、デデデ大王の仲間達が拾って持っています。
彼らとパズルで対戦し、「ほしのかけら」を全て取り戻してください。
コロカビ
カービィが雲の上でおひるねをしていると、デデデ大王やワドルディが見たことのないものを抱えてプププランドへ下りていった。気になったカービィがワープスターで追いかけると、空に星がひとつもなくなっていた。夜空のうらやましくなったデデデがプププランドのあちこちに隠したのである。カービィはプププランドのきれいな夜空のため、星を取り戻すために旅立つ。
ストーリー自体はあるものはきちんと用意されていますが、何故カービィが転がる必要があるのか、何故パズルゲームで決着をつける必要があるのかについて説明されることは無いのです。
次に2つめについて。それぞれの作品におけるデデデの立ち位置は
- 『ピンボール』…ラスボス
- 『ボウル』…星を大量に奪い、真っ暗な夜空にした張本人。メカデデデを投入する
- 『ブロックボール』…真のラスボス
- 『きらきらきっず(SFC)』…星くんをバラバラにした、表のラスボス
- 『コロカビ』…夜空が羨ましいため、星をあちこちに隠したラスボス
- 『エアライド』…「V.S.デデデ」で対決、プレイアブルキャラ
外伝で、デデデ大王は悪役として登場しました。エアライドのようにプレイアブルキャラとして参戦したこともありますが類似例はタチカビ以前には存在しませんでした。ボウル、きらきらきっず、コロカビでは「星」目当てに騒動を起こしたりと既視感が強いです。
これらの共通点がタチカビでどのようになったのか見ていきましょう。
タチカビでどうなったのか
2つの共通点はタチカビでどのように変わったのか。最初に結論を出すと
- カービィの力が奪われることがシナリオに組み込まれた
- 悪役となるキャラが作品ごとに生まれるようになった
以上の2点となります。
1.カービィの力が奪われることがシナリオに組み込まれた
最初の点の説明のため、『タチカビ』のストーリーを引用してみましょう。
ここは平和の楽園 プププランド
今日ものんきにさんぽ中のカービィ…
すると突然目の前の景色がゆがみだし
そこには怪しい魔女が!
魔女はあらゆる空間に絵を描き
あたり一面を絵画に変えていきます
カービィに気づいた魔女は
空に浮かぶふしぎな額縁へと逃げ込みました
カービィもあわてて後を追います
そこは絵画の世界でした
カービィは勇気を持って魔女に立ち向かいますが
怪しい魔法によってまるいボールの姿に!
飛び去る魔女をただボールの姿のまま見つめるだけのカービィ…
カービィがうつむくと魔女の落とした「ふしぎな絵筆」に気づきます。
カービィが虹色に輝く絵筆にふれるとまばゆい光とともにあなたの手元へ…
ご覧の様に、何故カービィがボールとなってしまったのか、理由付けが為されるようになりました。
2.作品と繋がる悪役が生まれるようになった
タチカビのラスボスはデデデ大王ではなく、ドロシアという新キャラ、もっと言えば魔法の絵筆と深く結びついたキャラです。きらきらきっずSFCではグリルというラスボスがいましたが、グリルは脈絡もなく登場し、カービィ達はグリルと脈絡もなく戦うことになります。伏線は一切張られていませんでした。
以降の番外に与えた影響
カービィがボールとなってしまった理由を説明し、作品ごとにその作品固有の要素を持つ悪役が生まれるようになりますと、当然ですがタチカビ以降の作品の制作には様々な影響が生じます。筆者は2つの点が見出だせました。
- カービィが能力を奪われる理由を説明するため、ボスとキーアイテムを上手く利用しなければならない
- その作品固有の要素を生かしたボスを生み出すため、前例のない調整が必要
そのゲームの固有の要素(あつカビなら群体アクション、タチカビSRはペンアクション)を生かすためにカービィから一時的に能力を奪うには、何でもいいので何故奪われたかを説明する必要が出てきました。
あつカビではネクロディアスの力ということになっています。このため、ネクロディアスはカービィを10等分にした事実を挙げられて「カービィを再起不能にした強いラスボス」とさせられることもあります。
タチカビSRではポップスター中の色を奪われたことでカービィ達は動けなくなり、エリーヌの登場で物語が動くことになりました。鍵となるキャラクターの存在意義を用意するため、ラスボスが色を奪うという強力な力を得ることになったと想像するのは難くありません。
ネクロディアス、ダーククラフターのどちらともカービィの能力を奪うため、もしくはサポートキャラの存在意義を生み出すため、過剰と言えるほど設定上の強さがパワーアップされているのが分かるかと思います。
ちなみにドロシアの場合、ゲームの設計上カービィをボールにすれば良かったため手足を奪う程度の能力に留まっており、魔法の絵筆もドロシアが落としたことにています。設定上の強さがゲーム上のそれと矛盾が起きないように調整が施されているのが分かります。
また、そのゲーム固有の要素を生かしたボスのためには、ゲーム上の強さの調整も必要です。
あつカビの場合、今までのステージを苦せずクリアできた人ならノーミスクリアも余裕ですが(筆者は初見ノーミスで倒せました)、タチカビSRの場合、クレイシア戦はそこまで難しくありませんが、ダーククラフター戦はロケットの操作に慣れていないとかなり厳しいです。最後の波状攻撃になると、倒せるまで一切気が抜けなくます(スターダッシュを得てもダメージを受けると消えてしまい、その場合スターダッシュのもとを1から集めなければならないため)。
ドロシアの調整をした熊崎もこの点については開発後記に残す程、苦労したようです。
『タッチ!カービィ』開発当初、まだDSではタッチペンを使った本格アクションのボス戦はあまり無く、ユーザーがどこまで敵の攻撃に反応できるのか?など不確定要素が多く、ゲームバランスなどの想定が困難でした。
驚きの演出、見た目のインパクトにこだわりを持ち、チャキチャキのバトル漫画に見られるシチュエーション、「なんて強敵だ!あいつに勝つ可能性はあるのかっ…?」「よしっ見切った!そこが弱点だ!」というような演出になるよう、熱〜く考えた次第です。ユーザーさんに、このゲームの最後まで来たご褒美として、満足してもらえるように…。
※チャキチャキ…血筋にまじりけがなく純粋なこと。生粋(きっすい)。「ちゃきちゃきの江戸っ子」
(出典:『タッチ!カービィ』開発後記 vol.2、ウェブアーカイブ)
プレイヤーが普段行わない操作を強制したゲーム作りの場合、バランス調整は前例のないものとなりますので必然的にかなり難しくなります。ネクロディアスが弱く、ダーククラフターが強いというよりはダメージを与えるのは困難になっているのはゲームシステムと密接に繋がったボスの調整が難しかったからのではないかと推察されます。個人的な意見にすぎませんがダーククラフターの場合、スターダッシュをミス以外では失わないようにし、発動中はスーパーアーマーか無敵状態にすればやりやすかったかも知れないと考えています。
別の切り口は存在するのか?
タチカビ以降、理由付けやボスの調整が一段と必要になってきましたが、では別の切り口は存在するのでしょうか?意図的に言及を避けてきたカビファZ、デデデンZについて見てみましょう。
『カビファZ』の場合、『TDX』のコピー能力を土台としているため、そのゲーム固有の要素に縛られる必要はありませんでした。ストーリーも無いため久しぶりにデデデ大王がラスボスとして降臨し、かつての「特に意味もなく戦う形」が復活しています。
『デデデンZ』では、リズムアクションゲームとして設計されているためストーリーもラスボスも必要とはしませんでした。
ただ、どちらも本編内のサブゲームを発展させたものであり、価格も800円程度です。1本のゲームとして売る場合、このようなアプローチでいくのは少々厳しいと筆者は思います。今の時代にピンボールを2800円で売ることはできないことを踏まえると、今後も『タチカビ』のようにしっかりとゲームを作っていかなければならないと筆者は考えます。